第47話 エピローグ
その後、召喚された俺たちは別々の道を歩んでいった。別々とは言っても、まあ俺以外はみんな同じ、地球へ帰るという選択肢を取った。
正直羨ましくもある。ゲームとかできるし。それに、あいつらはそこまでルッキズムの地獄にも苦しまないだろう。太田と我利はまあ、自分たちの世界に入り浸るオタクだ。恐らくやっていける。
俺だけはこの世界に残ることにした。
俺がどうせ地球に戻っても、ルッキズムや努力信者のストレス、冤罪、いじめ、それらに怯えるだけの毎日に戻るだけ。魔族だけは、俺を認めてくれた。普通に接してくれた。
魔族の兵士たちも、住民からも、第一印象こそ、俺の顔を見てあんまりいい顔はしていなかったが、魔族を救った英雄として普通に話しかけてくれた。まあコミュ障だから話を聞いてばかりだったけど。
シロとはダチとして、側近の仕事を手伝っている毎日だ。この世界にゲームは無いし、仕事は退屈とは言え、ダチと一緒に仕事できるってだけで、精神的にはかなり楽だ。それに、毎日あの眼福なマオを拝められるしなあ。
あ、きもいと思われない程度にチラッと見るだけな。あ、いや訂正。すでにキモいと思われてるな。
と、俺の視線にいつも気づいていたシロは、俺と一緒に休憩に入ると、悪い顔をし始める。
「おいおい、気づいてるぜ?いつもマオ様の顔チラって見てるの」
「え、いや、気のせいですから」
「俺の目はごまかせないぜ?やっぱ気があんだろ?もういいんじゃねえか・告白しても」
ああもう、なんなんだこいつは。ずっとからかいやがって。男側が背負うデメリット、いや、チー牛が背負うデメリットを分かってて言ってるのか?
「俺に気があるとしても、絶対にしません」
「なんでだよ、今のお前なら行けるって。お前も男だろ?してみてえだろ?ああいうこと」
「当たり前じゃないですか」
「超正直」
そりゃそうだ。この世界が発展してきたのは男の性欲によって成り立っていると言っても過言ではない。いつだってしたいに決まっている。なんせあんな可愛い美少女……。したいだけじゃねえよ、普通に優しいし俺を認めてくれたし、何度も助けてくれた。
マオは他の女とは違う。なんて言えばいいのだろか。二次元の女だ。完璧すぎるんだよ。二次元の女は二次元、つまりこの異世界にしか存在しない。何言ってんだ俺。
「お前、そんなに自分を卑下してるけどな、俺は認めてんだ。お前がいなかったら、魔族は未だに人間と争ったままだったかもしれねえ。お前、魔族を救った英雄だぞ?確かに顔は平凡以下かも知れねえけど、そこまで成し遂げた奴だぞ?それに、あの時もマオ様を直接助けたもんな」
ああ、マオが池麵とポチに集団リンチ受けてたときだっけ。俺が危機一髪で助けたっけ。でも、別にあの時マオは何もときめくような目はしていなかったけどな。
「その、シロはもし俺が告白してもいいんですか。やたら勧めてきますけど。シロって、マオさんにデレデレだし」
「ざ、ざけんな!デレデレじゃねえよ。てか、俺にはすでに彼女はいるからな?」
「は?」
「羨ましいか?あ?」
ああうざ。すでに彼女持ちかよ。シロも殺そうかな。冗談だけど。にしても、シロもイケメンだし、結局どの世界でもルッキズムは付きまとうんだな。
「でも、お前も俺と同じ彼女持ちになれるかもしれないんだぜ?大丈夫だ。何があっても俺が助けてやる。好きなんだろ?マオ様」
「……まあ、そりゃ」
まあ、今考えてみれば、別に地球での法や倫理観がゴミだっただけで、告白しても何か減るもんでもない。マオが俺を嵌めようとしたとしても、シロは何となく助けてくれる気がする。いや、あんな純粋なマオが人を嵌めるのもあんまり想像できないけど。
それに、シロの言う通り、俺は魔族を救った英雄だぞ?あんまり目立つのは嫌なのに、いつも俺に話しかけてくる魔族も増えた。さすがに恥ずかしいから仮面は付けてるが。
なあ、あんな地球でクソみたいな人生送ってきたんだ。そろそろ、俺も普通の幸せを手にしても、いいよな?
「お、やる気になったか?」
「なんか、暗殺の時より緊張するんですけど」
「まあ、お前は何度も作戦を成功させてきたんだ。頑張れよ。明日、マオ様は休みを取ってる。今日はよく休んでおけよ」
「え、あ、はい」
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そして、翌日。
俺は本当にどうすればいいのか分からなくて、緊張も止まらなくて、よく眠れなかった。告白なんてしたこともねえし、シロに聞いても、お前の思い伝えりゃいいんだよ、とだけ。
俺はマオの部屋の前で、もうこれほどにもない位におどおどして、心臓が爆速で鼓動する。ドアに手をかけたいけど、マジでやばい。女子の部屋だぞ?手汗でキッショとか言われたら?ていうか、シロが内密に魔王城の魔族たちに話を通しているとはいえ、普通に通りすがりの魔族たちに変な目で見られる。
そりゃ、魔王の部屋の前で何分も何時間もうろうろしてたらなんだこいつってなるわな。やばい、マジでやばい。と、とにかく、どんな話から切り出す?結局何も考えてなかった。
でもここを乗り越えれば、マオとのイチャイチャ――。
「チハル?そこでずっっっっっっとなにしてるのですか?さすがに気になってしょうがないんですけど」
「ひっ!?」
急に扉が開いて、マオが顔を覗かせる。てか、ずっとここでもだえてたのバレてたっぽい。
「いや、その、話があって……」
「なんだ、それなら普通に入ってきても良かったんですよ?」
マオははにかむと、俺を部屋へと案内する。
ああ、これが女子の部屋、女子の匂い……。とは言っても、多少一人だと広い位で、思っていたより普通の部屋だ。豪華なベッドや椅子とテーブルがあるくらい。まあ、魔王だしな。
マオは俺を椅子に座らせた後、まるで年頃の子供の用に、ベッドにぼふっと腰を掛ける。
「それで、話ってなんですか?」
さっきまで緊張していたが、なんだかんだ言って、もう部屋に入ってしまえば、緊張は3割位は解けていた。あとは、シロの言う通り、思いを伝える……。
いきなりこういう話しても良いのかな。まずは、他愛もない話から?って、コミュ障の俺が話のネタなんてあるわけねえんだなあ。
「あの、チハル?」
「あ、はい」
「緊張しなくていいんですよ?そうだ、魔族の生活には慣れました?」
「え、まあ、はい」
「そう、それはよかったです」
この子優しすぎんか?というかめっちゃ気遣われた?んん、なんか、流石にこれ以上おどおどしてるとあれかもしれん。
大丈夫。俺は、魔族を救った英雄。マオに貢献した。てか、どうせ振られても問題ない。フラれても仕方ない顔してるんだから。覚悟はしてる。俺は思い切って、言葉にする。
「マ、マオ」
「はい、なんでしょう?」
「そ、その……俺は、マオのことが、す、好き、です」
「……はい、私も好きですよ?」
俺は一瞬、肩が跳ねた。それって、両想い?ただ、少し違和感を覚えた。なんとなくだけど。俺は聞き返す。
「それって、友達として、戦友として、ですか」
「はい、そうですけど」
「その、俺は、マオを異性として、その……好きなんです。マオは、俺を……男として、好きになれますか」
訳の分からない告白だった。もう、混乱していたんだろう。俺はマオの顔を見る。もう何となく、分かっていた。マオは、少し困った顔をしながら、ただ普通に、純粋に、答えた。
「そ、その、ごめんなさい。私、チハルのことはそういう目では見てませんでした。その……チハルの気持ちには答えられません。本当に、魔族を救ってくれたことも感謝してますし、本当にいい人だと思ってるんです。でも、本当に、ごめんなさい」
「あ、あはは、そう、ですよね。知ってました」
「え?」
なぜだろう。
こうなることはなんとなく覚悟はしていたのに。何となく見えていたのに。なぜか、沸々と憎悪が湧いてくる。怒り、恥、恨み、いろんな感情が複雑にまじりあう。
俺のここまでの努力は?魔族を救った功績は?ここまでして、マオは俺を男として見ることすらなかった?マオは絶対に言わない、いや、気づいてすらいないんだろう。俺に対しての、生理的嫌悪を。
マオは嘘はついていない。俺をそういう目で見たことは無い。俺がマオを助けた時もそうだ。マオの目は一切変わってなかった。俺は、マオにとって、ただの良い人。
俺の容姿は気持ち悪いし、マオよりも弱い。ただそれだけで、恋愛市場の土俵からはじき出される。
どの世界の有性生物も、その上方思考の本能は変わらない。
あれ、やばい、どうすりゃいいんだ?分かってたのに、イライラする。俺はステータスプレートを確認する。
”性的魅力:1”
ああ、そうだったわ。ポチに振られた理由だって、これだったじゃん。魔族を救っても、性的魅力の呪いは消えないのか。そりゃ、容姿や生理的嫌悪なんて、転生でもしない限り消すことなんて不可能だから。なんでこんな当たり前のことに気づかなかったんだろう。
「チ、チハル?」
「……」
俺は何も言わずに、マオの部屋を出た。このままだと、マオのことをぶち殺してしまいそうだから。
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俺はただ、ゆっくりと自分の部屋へと戻る。
俺はベッドに顔をうずめる。これからどうすればいいのか分からなかった。イライラが止まらない。この世界の理不尽が憎くて仕方ない。
俺は地球でも異世界でも、異性と過ごすことは許されない。あの快感を得ることも、ドキドキすることも、何もかもが許されない。ただ、俺は醜く生まれただけなのに。
全てをぶち壊したくて仕方ない。魔族が俺を受け入れてくれる?そんなのもうどうでもいい。俺を心から受け入れてくれるものは存在しない。どうせ、シロも心の中では俺を笑ってんだろう。バカにしてんだろ。
どうせこうなるなら、地球に戻ればよかったかな。こんな、ゲームも何もない退屈な世界で、性欲も制限された中で生きるくらいなら。
人生は女がすべてじゃない。そんなもん分かってる。それってただの逃げだろう。ただの人それぞれの価値観だろう。
俺も欲しい。欲しかった。それを、ただ恵まれて生まれただけで簡単に手に入れて、猿みたいに腰振って、性の快感や幸せを得て……。
何かを持ってるやつは、それを持ってない奴の気持ちなど分からない。だから、人間は分かり合えないんだ。
なんか、色々と考えてたら、どうでもよくなってきたかも。ああ、後はてきと~~~に残りのクソみたいなつまんねえ人生、過ごすだけ。
ああ、忘れたいのに、イライラが止まらない。この世界への憎悪が止まらない。やばい、いろんな感情に飲み込まれて自我を失ってしまいそうだ。
そんな時だった。
「千温君」
「……は?」
なぜか俺の部屋には、地球に帰っていたはずの本田が、優しく微笑んで俺の目の前に立っていた。
「え、なんで、ここ、に?地球に、帰った、はず……」
「私が地球に帰ったなんて言いました?ずーっと、あなたのことを見てましたよ?千温君?」
すると、本田は俺に近づいてきて、そのまま俺を抱きしめた。
「辛いですよね……魔族まで救った英雄だというのに、あの魔族の姫に裏切られて……理不尽ですよね……」
「あ、え、あ、いや」
「正直に吐き出していいんですよ?男の子だって泣いていいんです。辛いですよね?憎いですよね?」
「……」
俺は本田に抱き締められて、慰められて、今まで溜まっていた物が一気に喉の奥まで登ってくるような感覚に陥る。
「千温君、私だけは、ずっと、千温君の味方ですよ?私は、千温君のことを愛してますよ?」
「う、嘘だ、性的魅力1の俺を?」
「嘘じゃありません。嘘なら、こうやって抱き締めたりもしません」
なんだか、こんな奴の口車に乗ってはいけないと、心ではわかっていても、今まで埋まっていた心の穴が塞がるように、満たされていく。今までの理不尽が、どうでもよくなっていく。
「千温君、魔族を救ってもらったのに、それでも生理的嫌悪で千温君を振ったあの魔王、憎いですよね?」
「に、憎い……」
そうだ、憎い。このクソみたいな理不尽が。人間も。魔族も。すべてが。
「千温君、一緒に、しませんか?虐殺」
「……」
「この世界で、二人だけの、飽きの来ない、最高の物語を紡ぎませんか?この世界を壊した暁には、二人で愛し合うんですっ!」
「……」
すでに、俺に正常な思考など出来なかった。
ゆっくりと本田の手を取った。
本田は俺に再びほほ笑んだ。
「行こう。栞」
「はい、千温君っ」




