第44話 4大国会議 2
遡ること数分前。4大国会議が始まり、池麵は王に言われた通り、生き残りのクラスメイト達を連れ、講義室で静かに待っていた。ただ、池麵は一人で距離を取り、先ほどの疑問に考えを巡らせていた。
4大国会議とはなんだ?人間と魔族の他にも別種族が存在する?それに、なぜ俺たちを講義室で隠す必要があるんだ?お前たちを守るためと言っていたが……。
そこへ、陽菜が池麵へ疑問を投げる。
「ねえ、私たちを集めて何かあるの?」
「いや、王の命令だ。この講義室で待っていろと」
「は?何それ。なんでよ。ただでさえ色々ありすぎて混乱してるのに」
「俺も分からないんだ」
陽菜は不安に思いながらも、講義室の適当な席に腰を掛ける。その時だった。
『では、今から臨時4大国会議を開始する』
講義室に女性の声が響いた。皆、辺りを見回してもそれらしき女性は見当たらない。
「え、なに?誰かしゃべった?胡桃?」
「いや、違うよ?皆聞こえたみたいだけど」
「おい、太田、4大国会議って聞こえなかったか?」
「そうですな。今、王は会議に出席しているのでござるか。何かの魔法の類で聞こえているのだろうか?」
クラスの皆が今の声に反応し、興味津々で会議の音声を聞き入っている。池麵も内心、これで王たちのたくらみか何かが分かるかもしれないと、耳を傾ける。
しばらく会議の内容を聞いていたが、マオが語り始めたところで、皆の動揺が見え始める。
「無断で勇者を召喚?国家規約?どういうこと?」
「人間族が魔族を襲ったって、逆なんじゃないですか?」
「急な展開でござるな」
池麵にとって、あまり信じたくない内容だった。自分が今までしてきたことは、王の言いなりになっていたことは、魔族を苦しめていた?いや、でも魔族が嘘をついている可能性もある。
俺は正しいんだ。そうじゃなきゃ……。
しかし、マオが勇者に付いて言及を始めた瞬間、ゆっくりとクラスメイト達の視線が、池麵に向けていった。
「え?池麵?今のって本当なの?」
「仲間の彼女を寝取った?まさか、千温殿のポチの事ではないでござるか?」
「もしかして、千温って……お前に」
「違う!!!何を言ってるんだあの魔王は!」
池麵は机をたたいて必死に弁明を始めるが、皆、疑いの目を向け続ける。しかし、その中で一人、ずっと黙っていた本田は、この会議の内容を聞いて、確信し、心の中で笑っていた。
これは、千温君のプロット?また私に面白いものを見せてくれるんですね?千温君はまだ終わっていない、また私を興奮させてくれるんですね!?ああ、やっぱり千温君は私にとっての……ああ、私がもっと物語を面白くしないと……。
本田は恐る恐る立ち上がり、震えながらも声を上げた。
「あ、あの、今の魔王の話……本当だと思います」
「……は?」
「え、本田さん?どういうこと?」
池麵は息が荒くなりながら本田を睨みつける。だが、他の皆は本田の言葉に食いついているようだった。本田は心の中では面白がりながら、表面はおどおどと見せながら話し始める。
「私、実は池麵君が千温君を脅しているのを見てしまって……そんな良い獣人を連れてるなら俺によこせって。じゃなきゃお前をスパイの容疑をかけてやるって。ちょうどそれを見ちゃった私は池麵君に目を付けられ、そのまま襲われて……委員長でいい人だと思ってたのに……」
「ふざけるな本田!何をでたらめを言ってるんだ!俺は皆のためにずっと勇者としてまとめてきて、戦ってきたというのになぜ俺を嵌める!それに結局スパイはあのチー牛だったじゃないか!俺がそんなことをするように見えるか!?」
しかし、どんなに池麵が弁明しようと、皆の冷たい視線は変わらなかった。胡桃は泣きそうになっている本田に駆け寄って、そっと背中を撫でる。
「ひどい、最低……です」
「結局男ってそういうことばっかり考えてるんだ」
「千温殿は嵌められていたということでござるか?」
「あの池麵……良い面振り撒いておいてそんな腐ってやがったのか……しかも人を見た目で判断しようってのか!?千温はああ見えておもしれえ奴なのに!」
我利は拳を握りしめながら、池麵を睨みつける。だが、池麵も負けじと言い返す。
「だから違うと言っているだろう!騙されるな!魔族は敵だ!敵の言うことを信じるのか!?な、なあ、秀才?お前は信じてくれるよな?」
池麵はずっと一人で窓の外を見つめていた秀才に、一筋の希望を見出すが、秀才は視線を変えずにただ一言、「知らん」とだけつぶやいた。
池麵は信頼していた仲間たちから向けられる冷たく鋭い視線に耐え切れず、思わず講義室を飛び出していった。しかし、廊下の窓から見えたのは、見たこともないほどの民の群衆。
「勇者を出せ!」「今の話は本当なのか!?」
池麵はさらに鼓動を加速させていく。まさか、俺たちだけじゃなく、この国全体にこの会議の声が響いている?今のでっち上げの話も?い、嫌だ嫌だ嫌だ……俺の今までの行動は?正義は?
ダメだ、早くあの会議を終わらせないと、誤解を解かないと……。
そうして池麵は城の中を駆け、5階の会議室へ一目散へと向かって行った。そして今に至ったのだった。
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「おや?先ほど勇者は召喚していないと言っていたが……あやつは勇者と名乗っているが?」
「ぐ、ち、違う!あいつのことなど知らない!勇者を名乗るなど不敬だ!」
エルーフに確信を付かれた王は見苦しく嘘の言い訳を並べ始める。しかし、池麵は王に裏切られたことによってさらに逆上し、王の胸倉を掴む。王は抵抗するも、勇者の力には敵わない。
「は?王様!何を言ってるんですか!俺を召喚したのはお前だ!俺は今まであなたの役に立ってきたというのに、お前こそ不敬だろうが!」
「黙れ!え、エルーフ殿……助けてくれ、逆賊がワシを嵌めようとしている」
しかし、エルーフはこの茶番を面白そうに見ていた。
「どの世界の人間も本質は同じというわけか。面白いのお?さっきから話の芯がずれまくっておる。嘘を嘘で重ねて自分の首を絞めていることに気づけ馬鹿者が。まあ、マオもまだ何かを隠しているようだが」
エルーフはマオの後ろで控えている仮面の男、千温を見る。池麵もその視線に釣られて千温を見るが、その瞬間、辺りが恐ろしいほどの殺気に包まれる。
「ち、千温……お前えええええええ!!!よくも俺を罠に嵌めやがったな!そのふざけた仮面を取れ!」
池麵は千温の元へ近づき、その仮面を無理やり外した。そして、千温の顔が露わになる。
「皆さん聞いてください!こいつが俺を嵌めたんです!ありもしないことをこの魔王に吹き込んだんです!信じてください!俺と、俺たちを裏切って魔族に取り行ったこいつ、どちらが信じられますか!」
池麵は会議室で大声で叫んだが、千温はおどおどとした声で話した……ちなみに、演技ではなく本当に人前で緊張して声が震えている。
「あ、えっと、その……俺、こんな見てくれだから、今までも信用してもらえなくて。こんなチー牛の言葉なんて信じてくれないと思いますけど、その、魔王様の言ったことはすべて真実です」
「黙れチー牛!」
「ちーぎゅう?というのは差別用語かの?にしても、王に勇者に、お主らはそろいもそろって声がでかいの。少し黙らぬか、焦っているのが見え見えじゃ」
エルーフは余裕の笑みで池麵に向けて手をかざし、彼を無理やり膝間つかせた。勇者である池麵ですら、抵抗できずにあっけなく膝をついた。その光景を見た千温は内心、あれ?エルーフなら勇者倒せるんじゃね?と疑問が浮かんだ。
「ふむ、勇者と言えど、ここまで気を乱していれば、無力化することくらいわらわでも余裕よ。時にマオよ。その人間も異世界の匂いがする。なぜ勇者一行の一人が魔族の味方をしておる」
「隠していたつもりはないのですが、すみません。彼は勇者一行に見捨てられ、魔王城の前へボロボロの状態でいたのを拾いました。そして、彼の言い分から、人間族は勝手に勇者を召喚し、勇者達を都合よく利用し、魔族を支配しようとしていることが分かりました。
そこで彼は私たちに協力してくれたのです。私たち魔族は、この戦争に巻き込むことになるので、彼の判断に委ねましたが、彼も同族を裏切りことに迷いを見せつつも、今まで魔族を守り切ってくれました。どうか、勇者一行を利用したこと、お許しください」
池麵と王が何か言いたげに身体を動かそうとしているが、エルーフの魔法によって押さえつけられている。そして、すべてを聞き終えたエルーフは、軽く微笑みながら、口を開く。
「ふむ、事情は分かった。彼らの反応を見ても、真実は明らかじゃ。マオに多少の嘘は見えるが、非があるのは人間族の方。なんにせよ、勇者召喚は重罪に当たる。勇者もその薄っぺらい正義で真実を見抜くことなく、権力を振りかざしていたことは事実。よって、貴様らには厳正な処罰を与える」
エルーフの言葉によって、王と池麵は絶望し、外の民衆は大きな歓声を上げた。
「勇者と王を殺せええええ!」「良くも今までだましていたな!」「ふざけるな!」
池麵は完全に膝から崩れ落ち、ついには感情を失くし、外の歓声も、エルーフたちの声も、もはや何も聞こえなくなっていた。
「誰も、信じてはくれない……俺が、間違っていた?どこから?俺は、悪?みんな、俺を誰も助けてくれない……すべてを失った……もう……何もかもが終わりだ」
そして勇者の目から、光が消えていった。




