第42話 勇者を殺す方法
俺たちは暴走した勇者から転移魔方陣で何とか逃げ切り、魔王城に戻った。いつもの会議室へと3人で足を運んだが、どこか暗い雰囲気を漂わせていた。まあ俺は元々自分からなんもしゃべらんけど。
それに、まだ俺はポチのことを引きずっている。自らの手で、愛していた人を殺したのだから……。ただ、少しだけ、頭の靄もすっきりしている気もした。まあ、複雑な心境ってことだな。
勇者の事もあってまだ問題は山積みだ。すると、シロが俺の肩にポンと手を置いてきた。
「チハル、ポチのことは辛いだろうが……とりあえず元気出せ」
「え、あ、いやまあ……」
どうやら、シロは俺のことを心配しているようだった。魔族ってのは、本当に優しい。なんで俺みたいな奴でもこんな対等に接してくれるんだろう。
ただ、マオの方を見ると、思いつめるような顔で俯いていた。マオはまた別の心配や悩みを持っているのだろう。ある程度、予想は付くが。
「チハル、シロ、とりあえず、座ってください」
「はい、マオ様」
「あ、はい」
俺たちも椅子に座り、マオは真剣なまなざしで俺たちを見る。そして、重苦しい雰囲気の中、マオは話し始める。
「これから、どうしましょう……私、分からないです……」
「マ、マオ様……魔王様が弱気になってはダメですよ」
「じゃあどうするって言うの!?見たでしょ?あの恐ろしいほどのオーラ……私たちが束になっても勝てない……」
「お、落ち着いてください、マオ様。ですが……俺も思いつきません」
マオが初めて、俺の前で取り乱している。池麵は……勇者はそれほどまでに恐ろしく強いというのか?マオは魔王とはいえ、前魔王から急に魔王に任命されたらしいし、強さも心もまだ十分ではない。ここまでやって来ただけでも十分だとは俺は思うが……。
十分なだけじゃだめだ。勇者を殺さないと、戦争は終わらないし、最悪魔族は滅ぶ。
池麵は環境や遺伝子に恵まれて、今まで小さな挫折や苦悩はあれど、大きな壁に立ちはだかったことは無かった。そして今回、自分より下のはずの俺に邪魔をされ、仲間を殺され、心身も限界を迎えていて、精神が崩壊した……。
あいつはもう止まらないだろう。もう何を言っても無駄だろうし、実力行使でも、マオがこれじゃあどうにもできない。
俺は考えを巡らせていたが、マオやシロでも思いつかないのなら、俺が思いつくはずもない。
すると、シロは少し思い出したかのように、マオに提案をする。
「マオ様、それなら、各国に協力を求めるのはどうだろうか」
それを聞いたマオはハッとして顔を上げた。
「そう……ですよね。人間族の勝手な勇者召喚は各種族国家も問題視しているはず。ですが、戦闘能力の高い獣人族でも、さすがにあの勇者には敵わないと思います……」
各種族?獣人族?ああ、人間族と魔族しか今まで聞いたことが無かったが、他にも種族は存在するということか?岸ら人間族は、魔族と人間の歴史だけを語って、特に他の種族に付いては言及してはいなかった。
魔族と人間族は隣国名だけであって、魔族領は資源もマンパワーも豊富。それで狙われているというわけか?この状況が、何かヒントにならないか?俺が何か質問したら、何か言われるのだろうか……。
怖い。でも、シロは俺を仲間と、ダチと言ってくれた。聞いてみても、いいよな?
「その、すみません」
「お?なんだ、チハル」
シロは、特に怒ったりもせず、普通に返事をしてくれた。てか、今更何を恐怖していたんだ?確かにシロは最初俺のことをマジで嫌ってたと思うけど、今はそんな素振りも見せていない。
キレる理由なんてないじゃないか。俺も親に虐待されてきたし、人の顔色窺う癖はそう簡単には消えねえけどさ。とにかく、種族に付いては知っておきたい。まあ、エルフとかいるのかなって言う個人的な興味もあるが。
「えっと、種族って、その……何々がいるんでしょうか?それと、問題視しているとは」
「ああ、それに付いてか。知らないのには少し驚きだが……まあ、人間族の奴らの事だ。隠していたんだろう。俺たち魔族、お前達人間族の他にも、獣人族、精霊族もいて、この4大国が基本だ」
精霊族?多分エルフのようなものか?う~ん羨ましい、エルフに召喚されたかったなあとか。いやどうでもいいわ。エルフに召喚されようが俺は生理的嫌悪をまき散らすチー牛ということには変わらん。
「それで、もちろんだが、この4大国でのルールもしっかり会議で確認もしているはずなんだが……あの人間族平気で破りやがったな。しかもこちらが悪いように濡れ衣まで着せやがって。各国も、情報はわたっているとは思うが、確証がない以上あまり大きくも動けないのだろう。しかし、勝手な勇者召喚は確実に問題視しているはずだ」
「えっと、なるほど。で、さっきのマオさんのつぶやきから察するに、その、獣人族や精霊族でもあの勇者には敵わないと?」
「恐らくな」
それでは何の解決にもならないな。勇者を物理的に止められる者が誰も存在しないと。てか、勝手な勇者召喚がダメってのも気になる。
「その、なぜ勇者召喚はダメなのでしょうか、あと、えっと、魔族も勇者召喚ができるのでしょうか」
「ああ、できるな。そもそも、勇者召喚はいつか来る厄災に備えて各国で行うものだ。むやみに行うものではない。勇者が召喚され、この世界に入れる期間は決まっている。たったの1年だ。逆に、別の勇者を召喚するクールタイムも100年と長い。だから勇者召喚は慎重になるんだよ」
なるなる。それじゃあ、勇者には勇者をぶつけるしかないのでは?いや、そう簡単に召喚できるのならみんなやっているか。だが、念のため。
「じゃあその、暴走した勇者を止めるために、えっと、やむを得ずこちらも勇者を召喚することはできないんでしょうか」
「まあ……したいけどな。まずは各国と話し合わないといけないと思うが、恐らく許可は下りないだろうな」
なるほど。じゃあ無理。解散。諦めて勇者に滅ぼされようぜ。……とはならんよなあ。勇者を物理的に葬るのは不可能ってことか。じゃあどうやってこの状況を乗り切る?
殺す以外なら、封印?勇者を封印ってのもウケる話だが……他には?ああ、なんかイライラするな。なんであのクソ勇者のためにこんな苦労しなきゃならんのじゃ。
もう死ぬか?魔族が悪だと一方的に決めつけて確かめもせずに暴走しやがって。なんか俺って一生濡れ衣とか裏切りとかと付き合っていくんかな。なんだよその人生。いつか俺自殺しちゃうよ。現に死にたいし。
……待てよ。裏切り?濡れ衣?冤罪?信頼。自殺。絶望。ああ、そうか。別に、殺さなくていいんだ。絶望させればいいんだ。あいつから、正義を奪えばいいんだ。信頼を奪えばいいんだ。
なんだ、簡単なことじゃないか。それに今のこの状況、好機じゃないか。おもしれえ。殺して……いや、死なせてやるよ、池麵。俺の味わった絶望を、お前にも味合わせてやるよ。
俺は再び、シロとマオに提案をする。
「マオさん、シロさん、じゃあ、こんなのはどうでしょうか」




