第40話 岸
何もない、風だけが吹き荒れる荒野。魔族と人間族の全面戦争が始まった。
人間族の兵士たちが魔族へとやみくもに突っ込んでいく。数で言えば、魔族兵数百人に対し、人間族は数千人規模と、明らかに人間族の方が多い。しかし、押しているのは魔族側だった。
魔族側の鍛え抜かれた魔族兵たちは、個々の能力が非常に高く、どんなに人間族が押しかけてこようが華麗な剣さばきでかき分け、なぎ倒していく。
そして後衛部隊の魔法の威力も高く、威力の高い魔法を荒野の中心に敵味方問わず解き放つ。しかし、魔族兵たちは分かっているかのように、魔法が着弾するだろうタイミングで速攻で距離を取る。
地上での戦いに集中していた人間族の兵はあっという間に巨大魔法の餌食となっていった。
人間族の後衛部隊も、魔法や弓で魔族側を狙うが、人間と入り混じっていて狙いをうまく定められていない。そこを数人の魔族兵が、次々と切り刻んでいく。遠距離の魔法や弓の部隊は、魔族兵たちになすすべもなくやられていく。
シロは豪快かつ流麗な動きで、まるで舞うように剣を振るっている。人間兵の攻撃を受けそうになった魔族兵のサポートも欠かさず、周りを完全に圧倒していた。
千温はというと、逃げていた。とにかく、隠密スキルで出来るだけ存在感を消しつつ逃げていた。そして、こちらに気づいていない人間兵を中心にどんどん仕留めていった。主に、人間兵が魔族兵と対峙しているところを狙って斬っている。
完全に押しているのは魔族側だった。
マオは勇者である池麵と対峙し、剣を交わっていた。両者剣をぶつけ合い、躱し、互角にも思える戦いだが、マオは押されていた。
勇者の一撃一撃が重く、マオはそれを受け止めたり、受け流すことで必死で防戦一方だった。池麵だけを相手にするのならまだマシだっただろう。ポチの魔法が、池麵との戦いの中で何度も飛んでくる。
それを躱しながら、池麵の怒涛の攻めを耐え凌ぐしかなかった。
しかし、マオは諦めてはいなかった。戦いながらも、周りの状況は確認していた。魔族は優勢だ。池麵単体にすれば、全員で戦うことができる。それまでは必ず耐えて見せる。魔王として。
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そして戦いが始まってから数分が経った。ほとんどの人間兵は地に倒れていたが、徐々に魔族兵の方も倒れ始める。その訳は、岸が戦場を支配し始めたからだ。
岸は大剣を振り回し、斬られても、圧倒的な防御力で跳ね返す。その異変に気付いたシロは、すぐに岸の元へ向かう。そして、シロは岸の振り回す大剣を自らの剣で受け止めた。その瞬間、岸の顔つきが変わる。
「貴様……ほかの兵と少し違うな」
「おう、そろそろ大人しくしてもらうぜ」
そしてお互いに後退して距離を取り、間合いを測る。
「俺は、これ以上大切な教え子たちを死なせるわけにはいかない!いざ勝負!」
岸は大剣を大きく振りかぶり、勢いのままそれを振るった。大剣なのに、まるで剣を軽く振るうように速かった。しかし、シロはそれをすべてひらりと躱していく。
大剣は何度も軌道を変え、シロを襲うが、全て空を切り、地面を破壊する度に地面が揺れる。
「クソ!貴様、正々堂々と勝負しろ!」
「はん、不意打ち仕掛けて前魔王様を殺した人間どもに言われたくないな」
シロは皮肉を呟きながら笑い、華麗に躱していく。そして、シロは唐突に地面を踏み込んで、自分から攻めていった。
「ようやくか!」
岸がシロを迎え撃つべく大剣を構えた。しかし、シロは岸の目の前で剣を振りかぶる直前、その剣を岸の後ろへ放り投げた。岸は放り投げられた剣に一瞬視線が泳ぐも、目の前でパンチを繰り出そうとしているシロにすぐに視線を戻した。
「その手には乗らんぞ!」
「じゃあな、岸団長さん」
刹那、岸の胸元に赤く染まった鉄の塊が貫いた。先ほど、シロが放り投げた剣だった。
「な、なぜ……貴様……」
岸の後ろに控え、岸の胸を貫いていたのは、千温だった。千温は返り血を浴びていたが、表情は一切変えずにいた。
岸はそのまま、その場に崩れるように倒れた。千温とシロはそのまま互いに近づき、シロは手の平を千温へ向ける。千温は、少し照れ臭そうに、シロとハイタッチした。
「よくやったなチハル。俺の剣の魔力とチハルの防御貫通が合わされば、この分厚い鎧も貫けるってもんだ」
「まあ、はい。てか、ちょっと聞きたいんすけど」
「なんだ?」
「別に俺いなくても一人で倒せましたよね?」
「バ、バカ言え。確かに俺一人で倒せたけど、お前がいた方が何倍も楽に処理できるんだ。それに、お前を信用してるからこそこの作戦を実行したんだ」
「そ、そっすか」
千温は少しだけ、心が跳ねるように嬉しくなり、首をかき始める。そこへシロが千温の背中をポンと叩き、激しい戦いが繰り広げられている向こうを見る。
「とはいえ、まだ戦いは終わってねえ。マオ様のサポートに行くぞ」
「あ、はい」
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マオは未だに勇者の猛攻と、ポチの魔法の応酬を受け流し、躱し続けていた。マオは、勇者はまだこの世界に来たばかりの戦い慣れしていないことを分かっている。なんとか勇者の隙を伺おうとずっと神経を張り巡らしていたが、その隙をポチの魔法がちょうどよく阻止していた。
(さすがにもう限界が見えて来たかもしれません……ここまで戦っていて何となく感じましたが、シロと千温が加勢したとしても、この勇者は、多分、倒せない。あの圧。あの力。私たちが力を合わせても敵わない。すでに勇者は私たちを凌駕する圧倒的な力を手に入れている。
正直、私は魔王なのに、死ぬんじゃないかと恐怖を感じてる。足が震える。それなら、せめて、あの人に化けた魔獣だけでも……)
マオは、恐怖と戦いながら思考を巡らせ、ポチだけでも戦闘不能にしようと、すぐにターゲットを変え、ポチに視線を向けた。
しかし、池麵はすぐにその異変を察知して、目つきを鋭く変えた。
「ポチには指一本触れさせはしない!」
まるで、我が子を守るように、勇者はすぐにマオの目の前に立ちふさがる。
「は、速い!?」
「死ね!魔王!」
マオは連戦の疲弊と勇者への恐怖で、完全に集中力を乱していた。いつものマオなら躱せていただろう。マオは勇者の振りかぶった剣の前で、ただ動けずにいた。
(シロ、チハル、後は任せました……)
マオは死を覚悟して、目を閉じたその瞬間だった。
一瞬で勇者の目の前からマオの姿は消え、勇者の剣は虚空を切り裂き、そのまま地面に深く突き刺さった。
「な!?ち、千温……裏切者め!まだ邪魔をするのか!」
千温はマオを抱きかかえ、危機一髪で助けていた。マオは千温を見つめ、そのまま目を逸らす。
千温は内心、こんなシチュエーションアニメだけの世界だと思ってたわ……俺がチー牛じゃなかったらかっこよかったんだろうな……、と一人で自滅していた。
「あ、あはは……ありがとうございます……助けられちゃいましたね……」
「え、まあ……それより、マオさんに触れてしまいましたけど、絶対に俺の事訴えないでくださいね」
「う、訴えませんよ!」
千温はそのまま、マオを地面へ降ろす。そのまま、千温は池麵たちへ向き直る。そして、池麵の後ろに控えているポチへ視線をやった。
ポチも千温に気づき、互いに見つめ合うが、ポチはすぐに目を逸らした。
「ポチ……」




