第38話 再起
あれ?ここはどこだ?さっきまで荒野で、俺は棒緑をひたすら殴り続けて、気づいたらクラスの奴らに見られてて、ポチが寝返ってて……斗真の魔獣は完全に斗真と付き合っていて……。
俺はそれで絶望して、生きてる価値もないって思って、池麵の攻撃をわざと受けようとして、死のうと思ってた。
でも、直前に誰かに助けられて……
「……ハル!チハル!」
「え?」
マオは俺が気が付いたのを見て、ホッと胸をなでおろしていた。
正気に戻った俺は、周りを見回すと、いつもの魔族城の会議室が見えた。あれ、俺って死ねたんじゃなかったの?池麵が襲ってきたとき、斬られる覚悟決めてたのに。
もう、クラスメイトにすべてがバレて、斗真と俺の明らかな魔獣の態度の違いも見せつけられ、ポチが寝取られただけでなく俺を加害者扱いして裏切ってきて……。
もう、本気で死にたい、このまま生きててもなにも報われないって思ってたのに……なんで……なんで……。
「良かった……チハル、今までずっとボーっとしてて、勇者に殺されそうになってたから……」
「なんで……」
「え?どうしたんですか?チハル……」
「なんで俺を助けたんですか!」
「ち、チハル待って、落ち着いてください!」
俺はマオに怒鳴っていた。俺は助けられたくなんか無かった。本気で死にたかった。勇者に斬られれば一瞬で死ねたはずなのに。
マオは俺に怒鳴られてかなりあたふたして困惑している。
「おい、チハル!落ち着け、何があったんだ!俺が話を聞いてやるから、な?」
シロも俺の豹変に気づいてすぐに俺の元へ駆けつける。俺はシロになだめられ、深呼吸をして一旦落ち着く。シロが一番安心できる。マオは……少し怖いんだよ。
とりあえず、俺はシロに事情を説明した。
決戦直前にポチが俺を生理的嫌悪から拒絶したこと。しかも勇者に寝取られたこと。翌日は棒緑とのタイマンは勝てたけど、我を失って殴り続けていた所をクラスメイトに発見されたこと。ここに俺がいることを伝えたのはポチだったこと。しかも、ポチと同じ斗真の魔獣は斗真と付き合っていたこと。池麵はポチの被害者面を信じて俺を敵対視したこと。俺はすべてがどうでもよくなって、殺されて死のうと思ったところにマオが助けに入ったこと。
「そういうことです。もう俺は、こんな気持ち悪い容姿で、なんの才能もない、誰にも必要とされねえ、生きててもモテねえ、何も上手く行かねえ人生なんて、もうどうでも良いんです。早く死んで楽になりたいんです。お願いですから、死なせてください……何の拷問ですか、これは」
それを聞いたシロは、舌打ちをして、俺の胸倉を掴みかかる。
「あ?何が才能ないだよ。誰にも必要にされてねえだ?寝言は寝て言えよ!お前は最初あんだけビビってたのに、魔族のために何人も人間族の戦力を削って、こんなに仕事できるなんて才能なきゃできねえよ!俺はお前を認めてるんだぞ!?誰にも必要にされてねえなんて言うな!俺はお前を必要としてるんだ!」
「それは利用するためですよね」
「ちげえ!お前は魔族を救ってくれる俺たちにとって必要な仲間だ!俺とお前はダチだ!絶対に死なせねえ!あとは人間側の戦力は勇者だけだぞ?ここまで減らしたのは誰の力だと思ってる?お前がいなきゃこの戦争も長引いてた……そこまで言うんなら、この戦争が終わったらこっちに来い!お前を容姿で蔑んでくるような人間連中とはおさらばしてこっちに来ればいい!楽しいことも、色々教えてやる!だから死なせろなんてことは二度と言うな!」
俺はいつの間にか、シロの必死の説得を聞き入っていた。なんでそこまで必死なんだ?こんな俺なんかのために。きもいから、すぐ用済みにしたり、拒絶したり、裏切るんじゃねえの?それに、こっちに来いって……。
しかも、俺とシロが、ダチ?
「チハル、私もシロと同じ気持ちです。チハルの今までの事を考えれば、人間不信になるのも仕方ないと思います。でも信じて欲しいです。チハルのことは裏切ったりはしません。チハルのことは、その……お友達?戦友?そんなふうに思ってます。魔族の英雄を、見捨てたりはしませんよ?」
マオは俺の前でしゃがみ、頭を撫でてくる。マ、ママァ……じゃなくて。なんだろうか、この安心感は。マオは俺の顔を逸らさずに見てくれる。こんな気持ち悪い俺の頭を触ってくれる。シロは必死に俺を説得しようとしてくれる。
俺は自然と、涙が溢れそうになって来た。さすがに恥ずかしくて、後ろを向いて目を拭ったが。
「ハハッ、チハルお前泣いてんのか?」
「いえ、ずっと目開けてて目がかゆいだけです」
「そんなことあるかよ、素直じゃねえな」
こいつらの事、信用しても、良いんだろうか……俺の居場所は、もうここしかないんだ。でも、俺はまだマオとシロへの疑念がすべて晴れたわけではない。やはり、ただ俺を利用しているという可能性はぬぐい切れないから。
ただの忠実に動いてくれる便利な駒……いや、もう駒でもいい。どうせ人間領に戻っても、幸せはやってこない。というか、今更遅い。俺がスパイと言うことは全員にバレたし、俺を玩具として好意的に接してきた本田も、俺の失態を見て失望したに違いない。いや、あの時一人だけにやついてたような……。
秀才も俺のことをどう思っているのかは知らないが、奴の性格上、ただの知り合い、と言った感じだろう。池麵は完全に俺を悪と断定している。もう、戻れない。俺は最期まで、魔族に尽くす。
俺は立ち上がって、シロとマオに宣言した。
「あの、その……最後まで、協力します」
「……チハル、ありがとうございます」
「おうよ、その意気だぜ!」
でもなんだか俺は恥ずかしくて、目を逸らした。そして、マオはそんな俺の手を握って笑顔で言った。
「私、同じくらいの歳ごろのお友達が欲しかったんです。あなたなら、信用できます。よろしくお願いしますね?チハルっ!」
俺は急に手を握られてビクッと身を震わせたが、でも、マオの目は純粋で、その笑顔も可愛くて、振りほどくことはできなかった。あったかい……なんだろう、なんか、女子の手って、べたッとして小さくて柔らかいというか……でも鍛錬のせいか豆の後があってところどころ固かったりとか……。
ああ、ちょっとだけ生きててよかったと感じるよ。
「おい、待て待て、俺はマオ様と常にずっと一緒にいたダチみたいなもんじゃないか」
「え?いやでも、シロはその、兄貴分?みたいに感じて、友達とはちょっと……」
「お、俺はダチというかその……」
「さて、シロのことは置いといて……」
「ひでえなマオ様……」
「今やるべきことは一つです。恐らく明日、勇者はここを攻めてくるでしょう。一致団結して、魔族を守り切りましょう。もちろん、チハルにも協力してもらいますからね?」
「……はい」
そして俺は、覚悟を決めた。




