第33話 決意
俺たちは秀才を連れて魔王城へと赴き、いつものようにマオ達の会議室へ案内される。秀才を見たマオは特に驚きはしなかったが、シロは若干の警戒を表情で示していた。
「おいチハル、なんだそいつは。それにあの人間族の襲撃は何だったんだ。まさかとは思うが、お前、俺たちを裏切ったわけじゃないんだよな?」
シロは俺の首元に剣を突きつけ、睨んでくる。俺は真顔で冷静を装っていたが、内心ではもうライオンを見た子犬のようにめちゃくちゃビビり散らかして手が震えていた。
「シロ、まずはその剣をしまってください。チハルがビビってますよ」
「……マオ様、流石にこいつに甘すぎます」
「どうせ、あなたも裏切ったわけじゃないことくらい分かってるくせに」
「……マオ様には敵いませんね」
シロはそのまま剣を鞘に納め、再び席に戻る。ああもう怖いからすぐ手出すのやめてくれないか?まずは俺から事情を聞けよ。
と、マオはいつもの可愛らしい笑顔で俺に何があったのかを聞いてくれた。
「それで、チハル、一体何があったのですか?それに、その隣の眼鏡の方は?」
「あ、えっと……その、まあ怒らないで聞いてください」
「それは返答次第ですね」
笑顔でそれ言うのやめてくれん?まあ怒らないとは思うけど。
そして俺はマオ達に事の詳細を話した。急にこの隣にいる秀才が、スパイをあぶりだすために奇襲を仕掛けると強制的に提案したこと。その間は一切の外出や連絡を絶たれ、マオ達に知らせることができなかったこと。その奇襲中に半寒を暗殺し、肉男は魔獣に食い殺されたこと。秀才がこの世界の真実を知って俺たちに寝返ったこと。
とは言え、秀才が敵か味方かはまだ分からないので、完全に信用はせずに今は監視体制であること。
シロは、頭をかきながら目を逸らして、俺に頭を下げた。
「なるほどな、すぐ疑ってすまんかった。まあ、最初から信じてはいたけどな、ちょっと試してみたかっただけだ。それだけでなく再び2人も戦力を削ぐことができたとは。やはりお前は最高のパートナーだ」
「え、あ、はい?」
パートナーって言われてもシロと行動したことなんてほとんどないけどな。親友って言いたいのかな、知らんけど。とは言え、そんな事言われたら嬉しくて泣いちゃうじゃないか、泣かないけど。
シロは素直に物事をはっきり言うから、分かりやすいんだけど、マオは少し何を考えているのか分からない。シロは俺をはっきり認めてくれた。でも、マオはいつも同じ態度で冷静で、いつもおっとりとした笑顔で、やっぱり全く読めない。
「とりあえず、現状は分かりました。大変でしたね……でもよくやってくれました」
「ま、まあ」
マオはいつも通り俺を素直に褒めてくれる。でも、やっぱりただの道具としか見られてないような気もする。すると、マオの隣のシロが秀才に目を付ける。
「マオ様、この人間には契約しなくていいんでしょうか」
「う~ん、そうですね……私は信頼してるチハルが連れて来た人間なので、大丈夫だとは思いますけど……チハルも監視すると言ってますし……」
「そうですか。マオ様の判断に委ねますが……」
おそらく、契約は魔族を裏切ったら心臓が止まる例のあれだろ。秀才は俺に耳打ちして聞いてくる。
「なあ、契約ってなんのことだ?君もしているのか?」
「えっと、まあしてますね。魔族を裏切ったら俺の心臓が止まります」
「ま、マジか……君は魔族に命を握られているということか……君も大変だな。あ、安心してくれ、ぼぼ僕は裏切らないからな」
「そうですか」
まあ、秀才の言う通り大変だけど、棒緑達に復讐しないで死ぬよりはマシだし、別に裏切らなければいい話だし。
「それでチハル、今回の報告はそれだけですか?」
「え、えっと、まあ、相談がありまして」
「はい、何でも言ってください」
「えっと、次のターゲットは、俺をいじめていた主犯、リーダー格の棒緑にしようと思っています」
「そうですか……あの奇襲の時にいた、変な奇抜な髪形の巨体ですね。何か策はあるんですか?」
奇抜な髪形の巨体……ププ、笑わせんなやマオ……。俺は笑いを堪えながらなんとか続ける。
「それが、その……勝てるビジョンが思いつかなくて。頭の冴える秀才に聞いても、強くなるしかないとしか」
俺は悩みを打ち明けるも、マオもどうやらう~んと頭を悩ましているようだ。やはり、マオからしても棒緑の強さは確かなもののようだ。
「私も、その方と同じ意見ですね。恐らく、防御貫通も、貧弱なチハルの力では通用しないでしょうし、体格差も非常に大きいです。あんな脳筋そうな顔をしていますが、常に冷静に魔力を纏い、隙が無く、戦いのセンスはなぜか高く感じます」
マオって天然なのか、平然と悪口言ってくるね。まあいいんだけど。
「チハル、ここは私が行きましょうか?準備さえ整えてくれれば、少しくらいなら城を空けても問題ないと思います。棒緑がさらに力を付ける前に、わたしなら倒せるとは思いますが……チハルの意志を尊重します」
マオは俺に選択をゆだねて来た。俺は俯いて考えにふける。
確かに、マオが棒緑と戦ってくれれば楽に終わる。俺は正直そっちに傾いてる。
でも、俺が魔族と手を組んだ理由を思い出せ。
ここまで何をやって来た?俺をバカにしてきた奴らへの復讐だろう?すべて自分の手で、殺せてきたはずだ。それをマオに任せてしまうのか?俺がこの手で地獄を見せてやらないと、この復讐は成立しねえ。あいつの恐怖の顔を見ないと気が済まねえ。
俺は顔を上げ、マオの目を見て答えた。
「……俺が殺ります」
「フフ、チハル、そう言うと思ってましたよ。かっこいいと思います」
「よし、その意気だぜチハル!あいつらにやられっぱなしじゃかっこわりいからな!」
マオは俺の答えに軽く微笑み、シロは喜んでガッツポーズをする。嘘つけや、微塵もかっこいいなんて思ってねえくせに。
にしてもなんか、この展開は熱血バトル漫画みたいで反吐が出そう……でもやっぱり、かっこつけてるわけじゃねえが、自分の手で地獄に落としてえんだよ。
今までの俺なら、確実にマオに委ねてたな。でも、今までの暗殺の成功体験や、マオ達の対応で、死にかけてた俺の自己肯定感は少しずつ上がって来たんだろう。
魔族との出会いが、こんなふうに俺を変えちまうとはな。まあ、性根は変わってねえけど。
「あ、でもさすがにやばくなったら助けてくださいお願いします」
「あ、あはは……それは構いませんよ?正直者でよろしいですよ」
「チッ。かっこつかねえなチハル」
そりゃ念には念を。死にたくねえし、棒緑だけには殺されたくねえからな。すると、シロが楽しそうに机をバンっと叩き、仕切り始めた。
「よし!今から作戦会議だ!そこの眼鏡の人間もポチも手伝え!それにチハル、お前のことも俺が直々に鍛えてやる!暗殺者がタイマン貧弱?舐めんな、お前はお前の戦い方で勝てばいい!いいな!」
「いや、その遠慮しと――」
「いいな!?」
「あ、はい」
シロの圧に負けてなんか知らんけど特訓まですることになった。ぴえん。




