第32話 秀才
そして、ドアが開かれた。
姿を現したのは……秀才だった。眼鏡を光らせ、その奥から鋭い眼光を覗かせている。なぜ秀才が?まさか真相にたどり着いたのか?
「まあ、そう警戒しないで欲しい。少し話がしたいのだが、いいか」
「え?あ、まあ、はい」
秀才はドアを閉めて、勝手に入ってきては、部屋の椅子に勝手に座る。他に誰かの気配もしないし、誰かを待機させてるというわけでもない、完全に一人のようだ。油断はしないが、ひとまず俺も椅子に座る。
秀才はうなずくと、話し始めた。
「単刀直入に言おう。俺たち勇者は、ただ利用されているだけみたいだ。魔族側が被害者のようだ」
「……え?な、そうなんですか?」
いや知ってる。でもとぼける。じゃないと怪しまれるし。すると、なぜか秀才はフッと鼻で笑った。
「……本田の言う通りだな」
「え?」
本田?なんで本田の名前が?秀才もグルだったのか?
「安心しろ。危害を加えるつもりもない。僕はただ真実を知りたいだけだ。自分の身を守るためにな。君、スパイだろ」
「その、なんでですか」
「ほら、その手」
「……え?」
俺は無意識のうちに、首をポリポリとかいていた。だが、それがなんだというのだろうか。
「君は嘘をつくとき、首をかく癖があるだろう。もしくは照れ臭いとき、悩んだときにも同じ行動をする」
「いや、癖ですし……」
「本田からすべて聞いた」
は?クッソ、あいつこの野郎、俺を裏切りやがったな。俺は床に拳を擦りつけて震わせ、床にひびを入れてしまった。秀才は冷や汗をかきながら、俺をなだめる。
「落ち着け、何度も言っているが、君に危害を加えることもしないし、邪魔をすることもない」
「じゃあ、何しに来たんすか」
「まずはその殺気を止めてくれ。もしもそのオーラで人が来たらどうする」
まあ、一理ある。本田は後で殺すとして、ひとまず俺は深呼吸をして怒りを落ち着かせる。
「よし。僕は昨日の遠征で、岸と魔王の話を聞いて、疑問が生じたんだ。勇者召喚の事、この世界の歴史、そして前魔王の闇討ち……本当の悪はどちらなのか。そして、この城の図書館で歴史を読み漁ったのだが、やはり隠蔽しているのかどこにも見当たらなかった。岸に聞くわけにもいかないし、俺は本に詳しい本田を訪ねた。元々あいつの行動も怪しかったしな。そうしたら……なぜか嬉しそうに色々と話してくれた」
何で嬉しそうなんだよ。
「どうやら、この世界の勇者召喚は、いつか来たる大災害、厄災のための儀式らしい。その目的以外での召喚はこの世界では違法だ。魔族に喧嘩を売ったのも人間族かららしい。まあ、魔族の味方をしている君なら知っているだろうからそこは省略する。本田は僕に、生き残りたいのならどちらの味方に付くのか、あなたなら分かりますよね?と言われてだな……僕も、こんな利用されたまま人間族に味方に付くのは嫌だからな。さっさと元の世界にも帰りたいしな」
秀才は眼鏡をくいっとさせながら話し終える。秀才はかなりまともだったようだ。だが、俺のクラス殺害については何も言わないのだろうか。
「その、それで、俺がスパイという件については、どう思ってるんですか」
「別にどうも思ってない。ただの復讐だろう?それにまともな魔族の味方をしているだけ。それに、クラスの誰かが死んだとしても僕には関係ないね。そもそも、棒緑達は地球にいたころから気に食わなかったしどうでもいい。僕は生き残れればそれでいい。他人に興味はない」
「そうですか」
「何度も言うが、僕を信じてくれ」
こいつの言っていることが本当なのかは分からないが、こちらの邪魔をしないのなら俺としても問題ない。でも、流石に俺もやることはやらせてもらおう。
「あれ……」
「なんだ」
俺は秀才の後ろを指さす。秀才はつられて後ろを向いた瞬間、気配を完全に消して待機していたポチが秀才の目に焦点を合わせ見つめていた。秀才はそのままポチの目を見つめ続けてしまう。しかし、それ以上は動かない……いや、動けないのだ。
「体が動かない……まさか、僕を嵌めたのか?」
「俺の正体を見破っておいて、俺がお前を信用して、のこのこと帰らせると思いましたか」
秀才はポチの麻痺術にかかり、身体が動かせなくなっていた。一応、俺はあの時、誰かの気配がした時点で俺はポチに念話で戻って来いと伝えておいた。気配を消すことならポチもお手の物だ。
「クソ、僕をどうするつもりだ」
秀才は麻痺した体で必死に俺の方を向き、俺を仇のように睨みつける。秀才は交渉成立したかと油断していたな。……まあ、俺も別になんも恨みもない秀才を殺すつもりは元から無い。
俺も少しでも誰かに後ろから刺されるなんて展開は避けたいからし、念のために動けなくしただけだ。
「まあ、えっと、秀才を殺すつもりはありません。その、秀才だって、俺と同じ立場なら真実を知った奴の事を確保しますよね?秀才が本当に俺たちや魔族の味方なのか、俺は人の心を読めるわけでもないし分かりません。だから、念のため拘束しました」
「……まあ、分からないでもないが……つまり、僕を試すつもりか?」
「えっと、まあ、う~ん、じゃあ試します」
「じゃあってなんだよ」
「とりあえず麻痺は解きますけど、俺を裏切るような行動をした瞬間に殺します。いいですか」
「ああ」
秀才は了承すると、ポチは術の拘束を解く。数秒で、秀才は動けるようになり、再び俺の方へ向き直る。
「で、僕を試すってのは何をすればいい。僕は大した能力は無いぞ」
試すって言ってもなあ。マオ達に紹介して、マオが俺に施した、裏切れば死ぬ契約でもさせようか?う~ん、そもそもマオ達がなんて言うか……シロは特にブチギレそう。
う~ん、殺しの協力でもしてもらうか?ポチは一旦外れてもらって秀才の監視に注力してもらって、秀才と2人で暗殺を成功させたら完全に信用する。いや、でもなあ、まあ、そうしておこうか。思いっきり聞いちゃうか。
「そうですね……棒緑の殺し方、いい方法ありませんか」
「今度は棒緑を殺すのか。あいつは池麵に匹敵する強さを持ってる。勇者の加護無しにあそこまで強くなった。君じゃ力不足じゃないか?僕も大した戦闘力も無いが」
「そうなんですよね。正面でも暗殺でも、勝てないのはなんとなく分かってるんですけど……あいつを倒せないんなら勇者も倒せないし……」
「正直言って、今までの暗殺とは全くの別物レベルだろうな」
「ぐぬぬ」
俺は頭を悩ませる。多分、ポチでも棒緑のフィジカルには敵わないだろう。いや、ポチの術は効くのだろうか。
「ポチ」
「はい、なんですか?」
「ポチの術って、あの巨体の棒緑に効くのかな」
「う~ん、実力差がありすぎると、スキルや術は通用しませんから、分かりませんね」
そう言えばシロも同じことを言っていたな。となると、本田?いや、あいつ戦闘力あるのか分からんし。本田が棒緑を何とかするところを想像できない。ひうっ!?とか言って怯えながら俺に全部任せっきりにして楽しんでそう……俺本田の事めちゃくちゃ理解してきてなんか悲しくなってきた。
「なら、もう強くなるしかないだろうな」
「え、いや、秀才がそれ言う」
「正直、僕も思いつかない。圧倒的な強さの前では知識や情報も敵わないのが普通だ」
「……う~ん、マオに相談してみるか」
「マオ?誰だそれは」
「魔王です」
「平然と魔王を呼び捨てしたな君」
少し秀才は青ざめて驚いていたが、俺には関係ない。どうせなら、秀才も連れて行くか。マオとの相談でこいつの意見も役に立つかもしれん。シロは怖いけど……。
「よし、行こう、ポチ」
「はいです」
「秀才も付いてきてください」
「ああ」
俺たちはそのまま城を離れ、転移魔方陣で魔王城へと向かった。




