第31話 肉男
「てめえ!よくも半寒のことを殺しやがったな!!!」
なぜか俺は、棒緑に胸倉を掴まれて絡まれている。本田はただ、半寒が死んだと言っただけなのに、なぜか俺が絡まれている。チー牛は辛いよ。
でも俺は冷静に弱者を演じなければならない。だって理不尽だろ。半寒が死んだってだけで即俺が犯人って。棒緑が俺の事うざいチー牛だと思ってるから排除したいだけだろ?どうせ。
わざわざバカでかい大声だしやがって。俺はいつものように目を逸らしながら、弱々しく棒緑へ言い訳を開始してみる。
「え、その、なんで俺が殺したことになるんですか……」
「あ?黙れよ、半寒は言ってたんだよ!『もし僕が死んだら、すかさず千温を疑え』ってな!あいつはずっとお前を疑ってたんだよ!あいつが嘘をつくわけねえ!てめえが殺したんだゴラア!」
は?あのキザ野郎、余計なこと言いやがって。死んでもなお俺の邪魔をしてくるとはな。でも、無理がありすぎるんじゃねえの?それ。いくら俺がクラスの信用や信頼がないにしても、それだけで俺を犯人に仕立て上げるには無理がありすぎるだろ。クラスメイトがそう簡単に信じると思ってんのか?
そう思っていると、案の定、池麵が俺の胸倉を掴んでいる棒緑を止めに来た。
「おい、棒緑、やめろ。今は撤退中だ。それに結局スパイは見つからなかった。いくら半寒がそう言ったとしても、それだけで千温がスパイと言うにも無理がある。俺たちはスパイを探しているが、何の証拠も無しに疑うためじゃない」
「うるせえ!こいつが犯人なのは間違いねえんだよ!」
「じゃあその証拠を出せ」
「だから、半寒がそう言ってたっつってんだろ!」
「それだけで証拠になるのか?」
「……チッ」
ざまあみろ。だから言っただろ、それだけじゃ無理があると。それに、クラスには俺がニートで通っている。周りを見ても、誰一人、ただのバカの棒緑の言うことを真に受けていない。
棒緑は舌打ちをして俺の胸倉を離したのだが、今度は池麵に向き直って問い詰める。
「おい池麵、そもそもこの奇襲はスパイをあぶりだすためなんだろ?なのにてめえらは結局わからず、何の収穫も無しにのこのこ撤退しやがって、何のために半寒は死んだんだ!?」
「それは……」
「棒緑、本当にすまないことをした」
「あ?」
そこへ、棒緑の目の前に、岸が割り込んで来て、頭を下げて来た。
「俺がみんなを守ると言いながら、半寒を死なせてしまった。本当にすまない」
「謝ったってあいつは戻ってこねえんだよ、あ?どうしてくれんだよ。てかな、秀才、てめえがスパイをあぶりだすためとか言ってこんな奇襲仕掛けたからこうなったんだろうが!てめえも責任取れやゴラア!」
今度は秀才へ怒りの矛先を向ける。しかし、秀才は先ほどからずっと顎に手を当て俯いており、何か悩んでいるようにも見える。秀才は棒緑に興味がないかのように一言だけ告げた。
「静かにしてくれないか、今僕は考え事をしてるんだ」
「てめえ!また一人死んだってのに他人事みてえに!」
「おい、落ち着けよ棒緑」
秀才へ殴りかかろうとした棒緑を、力づくで止める池麵。
「ねえ、早く行こうよ……まだ森の中だし、魔獣とかいるんじゃないのかな……」
「そうだよ、それは拠点に戻ってからにしてよ。ていうか、千温がスパイなわけないでしょ、どうやって半寒の事殺すのさ。瞬殺でしょ。そろそろさ、そういういじめみたいなこと止めたら?」
怯える胡桃と呆れている陽菜も、棒緑の仲裁に入ってくる。ていうか、陽菜に関しては、振子を陰湿にじわじわ追い詰めて自殺させたお前が言う?ほんとおもしれえな。
なんかもう最高に崩壊しつつあっておもしれえな。所詮人間のつながりなんてこんなもんなんだよな。
なんてことを考えていたその時だった。ぐちゃりという、生々しい鈍い音が響いた。そして胡桃は後ろを振り返った。
「きゃああああああああ!」
胡桃の叫び声が森の中で響いた。胡桃のすぐ目前で、大型の熊の魔獣が、肉男の胸を手で貫いていたのだ。その鮮血が胡桃の顔に飛び散り、そのまま尻もちをついた。
「なんだ!?」
岸も叫び声に気づき咄嗟に振り向く。その魔獣はそのまま肉男を持ち上げて頭を掴む。
「がああああ!たすけ、助けてくれ!!!」
肉男は胸を貫かれながら、必死に助けを求めるが、声が掠れ大声が出ていない。痛みと恐怖で顔がゆがみ、涙も出ている。
「肉男!今行く!」
「クソ、あれほど魔力を纏うことを怠るなと言ったのに!」
池麵と岸がすぐさま助けに行こうとするが、すでに遅かった。肉男の強靭な肉体は、まるで赤子同然のように、肉を引き裂かれた。そのまま熊はその肉を食いしゃぶっていく。
「肉男おおおおおおお!!!畜生!!!」
池麵は叫びながら、目にもとまらぬ速さで熊に接近し、いともたやすく真っ二つに断罪した。魔獣を倒しても、もう肉男は元には戻らない。池麵はそのまま片膝で剣を地面に突き刺し、助けられなかったことを悔やみ俯いた。
周囲は恐怖から、沈黙に包まれた。
俺はというと、努力信者で弱者を努力不足とよく見下していた肉男のことはいずれ殺すつもりだったが、勝手に自滅してくれてラッキーと内心喜んではいた。でも、まさかとは思うが、本田が?
俺は本田のことをちらっと見るが、彼女は軽く横に首を振る。どうやら、今回は本当にただの事故であり自滅のようだった。
しばらくの沈黙の中、岸は重い腰を上げて再び全員の前で立ち上がる。
「……今すぐ撤退だ。早く転移魔方陣へ戻るぞ。再び襲われる前に」
皆、返事はしないが、岸に従い、無言で付いて行く。まるでこの世の終わりのような、暗く、どんよりと、そしてピリピリとした雰囲気が漂っていた。
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俺たちは城に戻り、岸の命令で数日、メンタルケアも含め休みを命じられた。俺は部屋でベッドに横になっている。同室のオタ達は二人でどこかへ出かけている。ポチは涼みに行きたいと、一人で出かけていった。まあ、ポチの人間化の正体もバレてるし、今更一人で出かけても問題ないだろう。
それにしても、この奇襲によって、半寒と肉男の二人の命が消えていった。最初に秀才がこの奇襲を提案してきたときは、流石に参ったが、なんだかんだで二人も結果的に殺すことができた。
もう残りは、棒緑と池麵だけ。……いや、実質棒緑のみか。俺は池麵が完璧超人で嫉妬しているのは確か。だが、あいつは本当にただ純粋なバカで、正義感が強いだけのバカだ。これほどのバカなら、話し合えば分かってもらえるんじゃないか?
いや、それでも、バカだからやはり人間こそが正義と信じて疑わないだろう。もしそうなら、やはり魔族のために殺さなきゃならない。
次は、棒緑。こいつをどう殺すか。棒緑は俺を最も警戒しているし、一筋縄ではいかないだろう。恐らく体も固い。魔素も纏えば、こちらの防御貫通も通用するかどうか。
そんな中、誰かの気配を感じ、俺はベッドから起き上がる。オタ達が戻って来た気配でもないし、ポチならすぐにわかる。
俺は部屋のドアを見つめ、臨戦態勢に入った。こちらから行くか、あちらから来るか……。
一体誰だ?
そしてドアが開かれた。




