第30話 疑い
俺は適当にその辺で戦ってきた、片腕のない上位種の魔物の死体を、半寒の遺体の近くに適当に放り込んでおいた。これで、半寒は魔物の片腕を斬って油断したせいで、後ろから魔物に頭から食われて死んだってことにできるし。
半寒の頭はとりあえず、小屋の目立たないところに飾っておいた。ごめんな、さっきはスマートに飾ってあげるとか言ってたのに。やっぱバレるの怖いからさ。
さて。とりあえずこれで一番厄介な半寒も殺せた。あっちの戦いの方はどうなってんだろうな。
俺は歩みを進めようとした瞬間、寒気がして森の左の方角を見た。そこには草木を駆け分けてこちらに向かってくる本田の姿が目に映っていた。そして、俺のところまで駆けてくる。
「千温君っ!」
そのまま俺に抱き着こうとしてきたので、俺はサッとかわす。ひらりとかわされた本田は頬を膨らませながらジト目で拗ねていた。
「む~、千温君……ひどいです、可愛い少女の勇気を振り絞ったハグをかわすなんて……」
「恐怖を感じたので……」
本田はサイコである前に女だ。お気持ちで冤罪なんかかけられたらたまったもんじゃない。それだけは警戒しなきゃならん。簡単に言えば、まだ本田のことは信用はしていないってことだ。怖えもん。
「ていうか、なんでここに来たんですか」
そう聞いてみると、むくれていた本田はすぐに目を輝かせて話を続けた。
「どうしても千温君劇場を見たくて、来ちゃいました。その、えっと、はぐれた半寒君と千温君を探しに行きますって体で来てますので怪しまれることは無いと思いますよ?……それにしても、本当に、本当にすごく、面白かったです!いつもはチー牛陰キャで冴えないのに、あのキザの前で正体を現した時は饒舌にあいつをバカにして、そしてあいつが一番嫌がる方法で絶望させて殺す……ああ、ゾクゾクしちゃいます♡」
「やめてくださいマジで怖いです」
俺こいつに執着されたのが一番の地獄だろこれ。用済みになったらいつか後ろから刺されそうだな。
「もっと私に退屈させない最高の物語を見せてくださいね?千温君っ」
「いや、俺は俺のやることをするだけです。邪魔さえしなければ何も言いません」
「きゃ~!今の言葉かっこいいですっ!」
なにがだよ。
一人で盛り上がってる本田をよそに、俺は離れた隊の元へと戻っていく。
「あ、待ってください千温君っ」
「いや、その、早く戻らないと……」
「ちょっと遅れたっていいじゃないですか。それより、小屋の中、見に行ってもいいですか?」
「え、いや、なんでですか」
「見たいんです」
「え、何を」
「首ですっ」
俺はやっぱり怖くてさっさと逃げた。
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しばらくして、俺と本田が岸の隊と合流したのだが、俺たちがいろいろしている間に、どうやら魔王軍と対峙していたようだ。
岸と池麺は、黒い鎧に身を包んだマオと静かに向かい合っている。マオは、魔王城を守るために人間族の前に立ちはだかったのだ。しかし、岸は険しい顔をしていた。
「なんて禍々しいオーラ……今は池麵以外太刀打ちできないだろう……」
「岸さん、指示を。ここは撤退したほうが」
「ああ。しかし、一つだけ確認しておきたいことがある。揺さぶりをかけるぞ」
「はい」
岸はマオ達魔王軍の前に一歩踏み出して、マオに問う。
「魔王よ、今はまだ危害を加えるつもりはない。だが、必ずお前達悪を滅ぼし、救って見せる」
「そうですか。だったら早く帰っていただけますか」
「しかし、魔王、貴様に一つ聞きたいことがある」
「そうですか。早く言ってください」
なんか、今日のマオ、めっちゃめんどくさそうにしゃべってないか?いつものようなテンションじゃないというか……話が通じない奴と話してるような感じ。シロや俺と話す時とは大違いでちょっと草。
「お前達魔王軍は、俺たち人間軍にスパイを送っているのか?」
「……へ?え、そんなことないですよ?ね?シロ?」
「マオ様、落ち着いて」
いやいやいや、マオ動揺しすぎだろ。可愛いけど!しっかりしてくれよ!なんか、まだこういうのは年相応というか……。
「……そうか。それが本当ならいいが、貴様らは我々と正々堂々と戦わず、スパイなどを送り込んで内部から戦力を削いでいるというのなら、我々は貴様たちを軽蔑し、そして生まれてきたことを後悔させてやる。こちらもたくさんの人間が死んだのだ」
「……そうですか。正々堂々……ですか。あなたたちが言います?私の父を闇討ちで殺し、覚醒で力を手にした私に太刀打ちできず、本来召喚してはいけない勇者を自己判断で召喚した。今回もそうです。正々堂々戦うあなたたちは、今日奇襲を仕掛けた。どの口が言っているんですか?」
「黙れ!先に仕掛けたのは貴様らだ!」
「はあ……話が通じないのでもういいです。さっさと帰ってください。先ほどあなた方は危害を加えるつもりはない、帰るって言ったんです。早く帰らないのなら一人殺します」
「クソ、悪魔め……」
岸は魔王を睨みつけた後、俺たちに振り返る。
「撤退だ!俺と勇者に続け!」
そして俺たちは駆け足でこの魔王城から去った。
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撤退命令が出てから、俺と本田とポチは三人で移動していた。すると、ポチの念話を使って本田が俺に話しかけてくる。
『千温君、あの魔王とはお知り合いなんですか?』
『え?あ、いや……別に』
『嘘はダメですよ?』
『いや、その……知り合いです』
『やっぱりそうなんですねっ!でも、魔王なのに可愛くて少し嫉妬しちゃいます』
やめろよ?嫉妬でマオのこと殺すなよ?いや、こいつならやりかねねえ!
するとそこへ、棒緑が列を乱して俺たちに近づいてきて、本田に話しかけてくる。
「チッ、本田。チー牛は見つかったみたいだが、半寒の野郎はどこへ行った。探しに行ったんだろ?」
「ひえっ!?え、あの、えっと……その」
「なんだ、早くどこにいるのか言えよ。さっきからどこを探しても見つからねえ。頭の冴えるあいつが簡単にやられるわけもねえ」
「そ、その……言いにくいんですけど、魔獣に襲われて……」
「あ?それくらいあいつの剣技なら対処できるだろ、まさか、死んだとか言うんじゃねえだろうな」
「……はい。死んでいました」
その瞬間、棒緑は本田――ではなく、なぜか俺の胸倉を掴んで俺を木に突き飛ばした。え、なんで俺?
「てめえ!よくも半寒のことを殺しやがったな!!!」
棒緑の大声が森中に響き渡り、撤退していた隊も歩みを止めた。そして兵士やクラスメイトの視線が俺たちに集まる。本田は「ひうっ!?」とかビビってるけど、内心楽しんでそう。
てか、なんでこうなった。




