第28話 半寒
俺たちは緊張の面持ちで装備などの支度をし、城の訓練場へと足を運ぶ。今から魔王城へと向かうのだから、仕方ない。会話もほとんどない。こちらまで緊張してきてしまう。
数百人の兵士と、12人のクラスメイトは訓練場で整列をする。そして、岸は鎧の金属音をカチャリと鳴らし、全員の前へと出る。
「よし、みんなよく聞け!今から魔族への襲撃を開始する!スパイをあぶりだすためだ!昨日は特に怪しい動きはなかったが、この襲撃中も何が起きるかは分からない!まだ、俺たちは魔族を鎮圧できるほどの力はない、だから、お前たちは危ないと思ったらすぐに逃げろ!命を優先しろ!そして生き残り、確実な力をつけ、来たるときに一斉に魔族を叩く!いいな!お前たちは勇者様と俺が守る!行くぞ!」
『おおおおおおおおお!』
岸は大剣を空に掲げ、兵士たちはいっせいに歓声を上げた。ちょっとこういう熱血系嫌なんだけど。勇者と俺が守る!だってさ、キッショ。
残念だけど、この後、一人は確実に死ぬんだけどね。
『では、ご主人様、本田様、後は昨日の作戦通りに』
『はいっ、じゃあ、千温君?私にゾクゾクさせるような物語を見せてくださいね?』
『え、いや、なんでですか』
俺とポチ、本田は互いに目を合わせる。上手く行くかは分からないけど、まあ、今までも上手く行ってきたし、本田もいるし大丈夫だろ。
そして、岸は掲げていた大剣を地面に深く突き刺し、地面から巨大な魔方陣が浮かび上がる。恐らく、これは魔王城の森への転移魔方陣だろう。辺りは青い光で覆われ、目を閉じた瞬間に、いつの間にか景色が変わっていた。
「よし、どうやら全員転移できたみたいだ」
岸は突き刺した大剣を引き抜き、鞘へと納める。
「隊列を乱すなよ!全員、互いを見失うなよ、いいな!本田!索敵は任せたぞ。では、俺と勇者様に続け!」
岸はそう言い、勇者の池麵とともに魔王城へと歩みを進めた。本田は索敵のために岸と池麵の後ろを小動物のように一生懸命に付いていく。にしても、索敵やハッキングとか、色々できて僧侶というのは便利だな。
そしてしばらく歩いて、本田は何やら異変を感じ取ったようで、拡声魔法で全員に知らせた。
「み、皆さん!前を見てください!え、えっと、その、前方に多数の魔物の気配です!」
ここにいる全員がその声に従い、一斉に前方に注目する。よし、本田はどうやら上手く魔物をおびき寄せたみたいだ。
俺はその間に、隣にいるポチに合図を送った。ポチはうなずき、周りの注目が前方に集まっているこの間に、ポチは何らかの術を使い、準備を整える。よし、これであとは実行するだけ。
『では、ご無事で。ご主人様』
『おけです』
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その後、岸の軍は、大量に現れた魔物たちと戦闘を始める。皆、力を付けていて、順調に魔物を倒している。
棒緑は魔物たちを自慢の鍛え上げた身体で次々と殴り、吹き飛ばしていく。肉男は魔物からの攻撃を盾ではじいて味方を守っていく。陽菜は後衛から攻撃魔法を繰り出し殲滅していく。胡桃は精霊の力を使い、蔦を操り敵を拘束していく。我利は錬成した銃で向かってくる敵を倒していく。秀才は次々と指示を出し、作戦を円滑に進めていく。
千温と太田はほぼ、やることもなくただ見ているだけだった。俺はその辺の石に気づかずに、こけてしまった。
「千温殿、大丈夫でござるか?」
「あ、まあ、まだ慣れてなくて……」
「えっと、そうでござるか?戦闘は初めてでござるもんな」
そこへ、半寒は嫌味ったらしく千温のそばに来て、囁いてくる。
「おや?千温はただ見ているだけかい?”いつものように”本気を出しなよ、スマートじゃないねえ」
やはり、お前か。今の言動から、千温は察した。そして、千温はにやりと口角を上げ、半寒に告げる。
「……ちゃんと前見ろよ」
「は?」
その瞬間、迫っていた人型で大型の魔物が千温たちを襲った。千温は恐怖で立ち止まっていた太田を押し出す。
「千温殿!?千温殿~~~~!!!」
太田は吹き飛ばされ、離れていく千温を呼び続ける。なんとか魔物の攻撃から逃れる。
しかし、大型の魔物は巨大な腕を振り回し、地面に亀裂を開け、その風圧で俺と半寒は森の奥へと吹き飛ばされ、軍と分断されてしまった。
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広い森の中、俺と半寒が吹き飛ばされた先は、ちょうど無人の小屋がある場所だった。半寒は髪をかきあげながら、ため息をつく。
「はあ、不覚ですよ、後ろの魔物に気づかずに吹き飛ばされるとは……それに、よりにもよって千温と二人きりですか……ですが、これは好都合ですね」
一瞬こちらを見る半寒。そのまま刀の鞘を手に取りつつ、俺の方へとゆっくり近づいてくる。俺は後ずさりながら距離を取るのだが、次第に小屋の中まで追い詰められていく。
「千温、いつから気付いていたのですか?僕があなたの正体に気づいていると。なぜ、僕だと分かったのですか?」
いつからと言われれば最近なんだけど、本田に言われるまで全然気づかなかったんだけどなあ。
「最近です。その、えっと、単純に、お前はその、俺を見下してあえて泳がせて、俺の表情や動向を探ってたんだろうって。秀才は他人に興味は無いし、池麵は単純すぎる。だから、半寒が一番怪しかった……えっと、それだけです」
「へえ、チー牛にしてはけっこう考えてたんですねえ。それで?その手は何だい?」
俺は短剣を手に取って臨戦態勢に入っていた。半寒は恐らくここで、魔物の襲撃を理由に俺を始末しようとしている。
しかし、そんな俺を見て、半寒は大きなため息をついて、肩をすくめる。
「はあ……キミ、スマートじゃないね。君の職業は”暗殺者”だろう?闇に紛れ、一瞬で急所を突くだけの職業。まともな正面からの戦闘には全くの不向き。それに今は昼で明るい。まさかとは思うけど、今この状況で、僕に勝てるなんて、思ってはいないだろうね?」
俺はデュフっと笑って呟いた。
「勝てる。だってお前、キショいしバカだも――」
その瞬間、俺の首は宙を舞って、辺りには鮮血が舞った。視界がぐるぐると回り、ひっくり返る。半寒は今の一瞬で、鞘から刀を抜き、俺の首を跳ねたのだ。
「バカは君ですよ、チー牛」




