第27話 奇襲作戦
翌日。
「明日、魔族へ奇襲をかける」
クラスメイトを集めた秀才が、一言そう告げた。あまりに突然の出来事に、クラスメイト達は戸惑いを隠せない。俺もさすがにビビってしまった。斗真は秀才に疑問を投げかける。
「な、なんでだよ、急に明日とか……」
「もし、この中にスパイがいるなら、魔族を襲撃すれば必ず魔族を守るためにボロを出すはずだ。今日奇襲するとかじゃないんだからマシだろう」
「いやいくらなんでも急すぎるよ……」
「なら、1週間後にしたらどうなる?その間にいくらでもスパイは魔族側と工作できる。あくまで、あぶり出すためだ。本気で魔族を襲撃するわけじゃない。まだ僕たちも魔族を圧倒できるほどの力も無いだろうし、勇者を除いてな」
スパイをあぶりだすためと言っているが、わざわざスパイがいるかもしれないクラスメイトの前で言うのはなぜなんだろうか。今、秀才が言った説明の中に嘘が紛れ込んでいる?
「岸さんにも許可は取っている。この城の兵士も大勢連れて行く。今のうちに気持ちを整えておいてくれ。ただし、今日から明日の出発までは、外出は一切禁止する。できるだけ、この講義室で一晩を過ごす。飯もここで食う。ただし、風呂は男女別で集団で、トイレは毎回挙手制で岸さんが付いていく。だるいと思うが、今日だけの話だ。それに、スパイがいないのなら、何も不都合はないはずだ」
秀才の野郎、かなり本気だな。クッソ、できれば魔族のみんなに襲撃のことを伝えに行きたいが、ここまで徹底されると動けねえ。俺の平凡なIQじゃこの場をどう切り抜けるかも思いつかねえ。
すると、胡桃は不安げな顔で、おどおどと手を上げる。
「あの、それって、やっぱり、女子も男子もこの空間で過ごさなきゃいけないんですか?」
「ああ、もちろんそうだ。安心しろ、岸さんもずっと見張っている」
「そういう問題じゃないでしょ!男女で一晩過ごすとか冗談じゃない!」
陽菜が大声を出して主張するが、秀才は冷徹に言い放つ。
「なら、お前をこの場でスパイとして拘束するが?」
「……最低。分かった、従うわよ」
秀才は陽菜を黙らせた後、そのまま作戦について続ける。
「そういうわけだ。明日の作戦について軽く伝えておく。前衛のメンバーは池麵、棒緑、肉男。後衛支援は陽菜、胡桃、我利の3人。そして中衛は斗真、本田、半寒。司令塔は僕がやる。ああ、千温と太田は荷物持ちやサポートに徹してくれ」
最後に俺と太田の名前が呼ばれると、クスクスと小さい笑い声が聞こえる。まあ、ニートと村人なんてやることないしな。でも、クスクス笑ってる奴らは、俺が黒幕だってことは知らないだろうし、笑われてイライラしたりはしねえさ。
それに、俺ともう一人……魔族の味方というわけではないだろうが、本田もクラスの殺人に大きくかかわっている。俺は昨日のことを思い出し、本田の方を見ていると、本田も視線に気づいたのか、俺に微笑みかけて軽く手を振る。うお……怖えって……。これが本当の彼女ならどれだけ嬉しかったか……。
すると、半寒は髪をかきあげながら、嫌味っぽく秀才に言葉をかける。
「秀才、千温を連れて行ったら、むしろ”足を引っ張る”んじゃないかい?ニートなんだし」
「いや、連れて行く。全員で向かう。スパイをあぶり出すために」
「フン、せいぜい、足を引っ張らないでくださいよ?千温」
半寒は俺を鋭い目つきで睨め付ける。ある意味、足を引っ張るかもしれないな、お前らを殺して。おっと、殺気はしまわなきゃ。
そしてずっと話を聞いていた岸が前に出る。
「というわけで、今日はできるだけみんなで固まって行動するように。一切の外出も禁止だ。明日はお前らを必ず生きて帰す。いいな」
『はい』
そういうわけで、緊急会議は終わったのだが、何か忘れてる。すると、斗真は岸に何かを聞きに行った。
「あの、俺の部屋の魔物もここに連れてきてもいいですよね?」
「ああ、そうだな。この講義室に連れてこい。俺も一緒に付いていく。確か、千温も飼ってるんだよな?斗真から事情は聞いている。お前も付いてこい」
「え、あ、はい」
そうだ。ポチのことを忘れていた。俺は斗真と岸と一緒に講義室を出ていった。
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「すげえ、斗真そんなケモ耳美人飼ってんのかよ!」
「可愛い!」
斗真の周りにはクラスメイトが集まっていた。それもそのはず、斗真もあの珍しい狐の魔物を従えているからな。どうやら、斗真の魔物は普段から人間の姿に変化させているようだ。俺のポチとほとんど姿は変わらない。まあ、確か双子だったからな。
斗真は今まであんまり注目されたことが無いからか、クラスメイトに囲まれ、照れているように見える。すると、斗真の魔物は嬉しそうにクラスメイトに話す。
「斗真様はすごいかっこよくて、優しくしてくれて、大好きなんです!」
「おいやめろよ、恥ずかしいだろ……」
「本当のことを言ったまでです!」
斗真の魔物は斗真に胸を押し付けぎゅっと腕を掴み、斗真はさらに赤面する。
「お前ケモ耳からモテてんじゃねえかこの野郎!」
「いいじゃんいいじゃん!人と獣の恋とか、アニメでもあるし!」
……いいなあ、と俺は少し遠くからその光景を見つめる。最初の時こそ、ポチは俺にめちゃくちゃスキンシップしてきたけど、最近はかなりおしとやかになったというか……斗真の魔物は未だに子供っぽいよな。まあ、どちらでもいいけど。
「ていうか、チー牛もその魔物従えてんのかよ」
「あ、千温のその狐ちゃんも変身するの?」
「え?あ、えっと……」
急に俺たちの方を向いてきたクラスメイト達、そして陽菜に変身について問われ、内心焦る。ポチには人前では一応獣の姿でいろとは言っていたが、ここで出来ないと言えば怪しまれるかもしれんしな……。う~ん、まあ、別に斗真も変化させてるし、今更支障は無いだろう。
「えっと、ポチ、人間の姿になってもいいですよ」
「……分かった」
ポチは獣の姿を解き、ケモ耳の人間の姿へと変わった。そして陽菜は目を輝かせてポチに触ってくる。
「こっちも可愛いじゃ~ん!触らせて~!」
「ケッ、良かったなチー牛、お前の顔に似なくて」
余計な一言じゃ棒緑め。ペットは飼い主に似るなんて言葉あるしな。ほんと良かったよ。
すると、ポチはどこか視線を逸らしているので、ポチの視線の先を見て見ると、なぜか、一人で窓から空を見上げる池麵をじ~っと見つめていた。どうしたんだろうか、あいつがイケメンすぎて惚れたのか?畜生。
まあ気のせいかもしれないし、今は明日どうするべきかだ。
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とっくに日も落ち、暗くなってきて皆布団を敷いて寝る準備を始める。
やはり今日一日は秀才や岸の監視が厳しく、魔族へ報告する隙は少しも無かった。今は、明日をどう切り抜けるか考えなきゃいけない。俺は一人で悩んでいたのだが……。
『ご主人様』
「え?」
俺は思わず横を向く。隣にいるポチは特に何もしゃべっていない。あれ?俺の聞き間違いか?
『ご主人様、過度な反応は控えてくださいね?私の念話です。魔法やスキルではないので、周りにバレる心配はないです。これは私たち九尾に伝わる念術です。ご主人様も心の中で会話すれば問題ないです』
『あ、そうっすか、可愛いね』
『も、もう……今はそういう冗談はいいですから!』
本当に念話できてるじゃん。すげえ。確かに、周りも一切俺たちが念話を使っていることに気づかず、雑談したり寝る準備をしている。
『ところでご主人様、明日はどうすればよろしいのですか?』
『あ、ああ、その事だけど、まだあんまり決まってなくて……昨日本田が言っていた”あいつ”の正体は、何となく分かってはいるんだけど……』
『呼びました?』
俺はビクッと身震いをして壁に頭をぶつけて、頭を押さえる。今の可愛くてか細い声……。俺は本田の方をチラ見すると、本田も俺の方を見つめていた。
『えっと、なんで平然と俺とポチの会話に入ってきてるんですか』
『ダメでしたか?私、その珍しい魔物についていろいろと本で調べてたのでっ』
『あ、もう、いいです』
『惚れちゃいました?』
『恐怖を感じました』
『ひどいですぅ……頑張ったのに……あ、そうじゃなくて、その作戦会議、私も混ぜてくださいっ!』
『ええ……』
なんでこんなサイコを入れて会議しなきゃいけねえんだよ。ああもう、だりいな。別にこいつは敵ではない。でも、何をやらかすか分からない恐怖もある。とはいえ、天才ということも何となくわかる。ぐぬぬ……。
『ポチ、どうします?』
『……い、入れてあげたほうが、いいんじゃないですか?』
『え、マジすか?まあ、ポチが言うなら……』
『わあ、嬉しいですっ!千温君と秘密の共有ができるなんて……』
俺はおぞましくて全身に鳥肌が立った。はあ、とにかくバレなきゃいいや。こうして、3人の奇妙な作戦会議が始まり、そして夜が更けた。




