第26話 本田
「千温殿、最近元気がないでござるな」
「いや、こいつ元々全然しゃべらねえから分からねえんだけど」
「よく見るでござる、何かにもの耽っているというか、そんな気がしないでござるか?」
「え、いや、分からんて」
俺はベッドの上でずっと考え事をしていた。太田と我利はこそこそと俺の様子について話しているが、気にする暇もない。
最近色々と不思議なことが起きているからな。あの時の弥美の突然死、昨日の清楚からの冤罪の阻止、どちらもたまたま助かっていた。それに、池麵。あいつ、もしかしたら、話せばわかる人間なのかもしれない。
そしてもう一つの謎。本田だ。俺が魔王城から傷を治して帰って魏屋琉に疑われた時も助けてくれたし、清楚にあの通信魔法石を渡したのも本田らしいし。偶然か?なぜ俺をこんなに助けてくれるのか……。
魔族側のスパイ?でもマオはチハル以外に味方につけた人間はいないと言っていたし、嘘をつく理由もないはず。ただの善意?いや、まさか好意?……いやいやいや絶対ない、俺が女でもこんな気持ち悪いチー牛に惚れるとか無理だわ。
ああ分かんねえ、直接聞きたいけど、また清楚の時みたいに冤罪吹っ掛けられたら怖いし、女と関わりたくねえ。
「くーん」
「……あ、飯か。はあ……」
ポチが可愛い声を出しておねだりをしてくる。ちなみにもちろん部屋の中では獣の姿だ。人間に化けるなんて知られたらややこしくなるからな。
にしても、以前ならポチは飯よこせ!というように俺にじゃれてきてスキンシップが多かったけど、触ってくることが減ったような気がする。大人になってきたんだな。
「千温殿、夕食を食べに行きましょうぞ」
「行こーぜ、何悩んでるのか知らないけど、飯食ってからまた考えりゃいいじゃん」
「あ、はい、そうっすね」
ちょうどポチも腹空かせてるし、飯持って帰らなきゃならん。人間の飯しか食わなくなってきたから、正直めんどくさくなってきたけど。暗殺対象もだんだん減って来たし、もうすぐでこの冷戦も終わる。それまでの辛抱だ。
俺はベッドから降りて、太田達について行った。
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俺は夜、いつものようにポチの散歩という名目でポチを連れ、魔王城へ報告に向かう。いつも、町や草原に出て、人気の少ない場所で転移魔方陣を使って魔王城へ転移している。
転移魔方陣を持って、ポチにリードを付けて裏口から城を出ようとしたのだが、こんな夜に廊下で人影が見えた。気配察知を使って、いつも人が少ない時間を狙っているのだが……。
とは言え、隠れたり逃げたりするのは怪しまれる。これはただの散歩だ。俺はまっすぐ廊下を歩いて行く。そして向こうから姿を現したのは、本田だった。そして無言で通り過ぎる――はずだった。
「千温君?こんな夜更けにどこへ行くんですか?」
本田に呼び止められてしまった。くそ、早くこの場を去りたいのに……。とにかく焦るな。冷静に。
「その、ポチの散歩に……」
「それ、ポチって言うんですね。可愛いですね~。斗真君も同じ魔物従えてるんですよね。テイマーじゃないのに、すごいです」
「いや、まあ、ペットみたいなものだし……」
本田はポチのことを優しくなでる。ポチは特に反応もせず無表情。怯えてんのか?俺と同じで人見知り?んなわけないか。
「あ、そうです……千温君、話があるので、ちょっとだけ時間貰ってもいいでしょうか……その、だめ、ですかね?」
「え、いや、ダメとは言ってない、ですけど……」
「あ、ありがとうございますっ!その、城を出てすぐの大木の前に行きましょうっ」
「あ、はい」
まあ、普段なら俺も絶対についてはいかないが、俺もちょうど聞きたいことが色々あったんだ。こいつの正体を暴いてやる。
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俺とポチ、本田は絶妙な距離を保ちながら、城を出て、庭の大木を目指す。
「えへへ、なんか、デートみたいですね……って今のは忘れてくださいっ!」
「……」
可愛い。クソ可愛い。俺もこういう青春がしたかった。ドキドキするくらいだわ。
でも何となく分かってる。こいつのは全部演技だってことくらい。俺は少し歩いて立ち止まり、本田に単刀直入に聞いた。
「本田さん、その、えっと……なぜ俺を助けてくれたのでしょうか。魏屋琉に疑われた時も、昨日も。それと、昨日、清楚に何を囁いたんですか」
本田も足を止め、俺のことを不思議そうに見つめてくる。しかし、フフっと笑って語り始めた。
「私の邪魔をしないで。承認欲求丸出しのクソアマさん?」
「……え?」
「昨日、清楚ちゃんに囁いた言葉ですっ」
笑顔で彼女はそう答える。俺は一瞬で鳥肌がたち、息を呑んだ。清楚のように態度が一変したわけではない。いつもの本田の控えめな笑顔としゃべり方だ。だけど、言葉だけは違った。
「それと、千温君を助ける理由も知りたいんですよね?それはですね……言葉では言い表すことが難しいですね……可愛いから、面白いから、ゾクゾクさせるから……でしょうか?」
「は?い、え、その、どういう……」
「最初から気づいてましたよ?魔族のスパイさん?」
俺は一瞬で後ろへ飛び退いて、本田から距離を取った。バレてる?最初から?こいつは、それを分かってて、俺をわざと影から手助けしていたということになる。理由も意味が分からない。ただの僧侶じゃねえ、こいつのことが分からな過ぎて逆に恐怖で戦慄してしまう。
「ウフフ、そんなに怖がらなくてんいいですよ?あなたがスパイだからって、危害は絶対加えませんよ。それに、離れちゃ会話できないです……私もあなたも、声が小さいですし」
恐らく、こいつの言うことはガチだ。さっきからずっと、”嘘”はついていない。俺は警戒しながらも、ゆっくりと本田の元へ戻っていく。
本田は安心したように微笑みつつも、手をもじもじさせながら、少しだけ目を逸らしながら俯く。
「それで、ですね?その、千温君に謝らなきゃいけないことがあるんです」
「え、あ、はい」
「最初の頃、棒緑達に千温君を魔王城へ行かせたのは、実は私なんです」
「何だとてめえ?」
「ひうっ!お、怒らないでください……その、直接言ったわけじゃないんです、棒緑のポケットに、魔王城への転移魔方陣の部屋の在処と、そこの人の少ない時間帯を書いた紙を入れただけで……安心してください、スパイというのは言っていませんし、そもそも紙を忍ばせただけです」
なんで?何のために?そんなことをしやがったこいつ。おかげで俺は死にかけたんだ。死ぬより辛い拷問に遭った。
「その、私何となく気づいてて……千温君がニートじゃないこと。本当は実力を隠してること……だから、試してみたんです。千温君はどうなシナリオを私に見せてくれるんだろうって。そしたら、どうでしょうか!千温君は魔王城に連れ去られ、ボコボコにされたにも関わらず、ぴんぴんして帰って来たじゃないですかっ!私、興奮したんですよ?この人は私に面白い物語を見せてくれる……飽きさせないでいてくれる……だから、私は千温君を影から協力することにしたんです。
魏屋琉ちゃんの毒を悪化させたのも、弥美ちゃんに幻を見せて発狂死させたのも、清楚ちゃんの本性を暴いたのも、全部私ですっ」
「……」
こいつ、可愛い顔して、ガチのサイコだ。ただ、俺が面白いってだけで、俺の暗殺の手助けをして、俺を生かすためなら人殺しも躊躇しない。いや、俺も自分の復讐や嫉妬のために殺してるんだ。人のことなど言えないけどな。
「どうですか?すべて話しました。信じてくれますよね?これからも、私のプロットを超える、面白い物語を見せてくださいね?あ、それと忠告です。名前は伏せますけど、”あいつ”に注意してください。あの人も、私と同じであなたの本性に気づいたうえで、あえて泳がせていますから」
本田はそれだけ言い残すと、いつものように俺に微笑みかけて城へと戻っていく。あの人……誰の事だ?秀才のことか?もしくは池麵?
それは後で考えるとして、一つだけ確認したいことがあった。
「あの」
「はい、なんですか?千温君」
「……俺の、味方なんですか?敵なんですか?」
「決まってるじゃないですか、私は味方ですよ?そして、その、千温君のことが大好きです……はうっ!い、言っちゃった……うう」
本田は顔を赤くして、さっさと駆けだしていった。俺はその狂気の告白に、身震いしてしまった。




