第23話 弥美 2
俺たちは岸に連れられて森に入る。そして、郁也たちが殺された場所へと歩いて行く。
「ああ、言っておくが、お前たちの仲間の残酷な姿を見ることになる。耐性の無い奴は見るなよ?」
岸は一応忠告をしておいた。胡桃や本田辺りは無理そうだよな。
ちなみに、俺は冷静を装うのに精いっぱいだ。というか、もうバレるのは諦め半分だ。今考えれば、バレればおしまいというわけではない。最悪バレたとしても、今後の暗殺がやりにくくなるだけだ。
俺には魔族やポチが付いている。面倒な戦力は今はほぼ棒緑と池麵くらいだろう。
とはいえ、やっぱりバレたくはないよな……。半分諦めた理由は、なんて言うか、単純にこの状況を切り抜けるいい方法が思いつかなかっただけだし。
そしてようやく現場に着いた。
「ひうっ!」「ひえ!」「うわ……グッロ……」
原型もない位にぐちゃぐちゃに食われている郁也と夕美の死体を目の当たりにして、それぞれ小さい悲鳴や感想を漏らしてしまう。俺はすでに慣れてしまっているからかノーリアクション……あ、一応小さくてもいいからリアクションしておこ。バレるやん。いやこの後どうせバレるしいっか。ああもうどうすりゃいいんだよマジで。
「う、気持ちわりい……正直、異世界って浮かれてたけど、今思えば、死がこんなに身近な世界なんだよな……」
「そうでござるな……」
我利と太田もこの状況には参ったらしく、目を逸らしている。
弥美は躊躇なく、痛いの前まで歩いて行く。秀才もまるで感情がないように一緒についていく。
「弥美、できるんだな」
「ああ、スキルで死体の記憶を私は見ることができる……ひひ。数十体で試してるし……魔物や虫で」
人間で試してないんかい。いやまあそりゃそうか?すると、ここで胡桃が必死に声を上げた。
「ま、待ってください……」
「……どうした、胡桃」
「そ、その、夕美さんや、郁也くんの魂は……その、無理やり、戻すみたいな、ことするのかな……少し、可哀そうだと思うの……」
へえ、良い指摘だ。これならワンチャンみんなの同情を誘って中止にできる可能性はあるが……。そんな考えも一刀両断された。
「別に。魂なんて無いよ。死ねばみんな無に帰る。別に魂を引き寄せるとかもできないし、ただ死体の脳から記憶を引き出すだけ。私にできるのは死体そのものを操るだけ。わかる?ひひ」
「え、そ、そうなんだね……う、うん」
一応納得したようだが……半寒は胡桃の態度に疑問を抱く。
「胡桃、いや、ただの疑問だ。あまり深く考えなくてもいいが……わざわざ中止にさせようとしたのは、本当に郁也と夕美のことを思ってなのかい?本当は、君が犯人だとバレたくないから――」
「半寒!仲間のことを少しは信用しろよ!」
池麵が怯える胡桃の前に出て、半寒の言葉を遮る。チッ、このまま胡桃に懐疑を向けさせてればよかったのに、池麵め、余計なことしやがる。
「だから、ただの疑問と言ったでしょう。そう熱くならないでくださいよ。スマートじゃないですね。何もないんなら良いんですよ、全く」
「わ、私、本当に夕美さんと郁也くんのことが心配で……うう」
「この話は一旦なしだ。どちらにしろ、記憶を弥美にしゃべってもらえばはっきりする。いいな、半寒」
「フン」
胡桃の件は片付いたものの、どんどん社会的死が近づくたびに、俺の鼓動は加速するばかり。弥美は、まずは目の前にある郁也の遺体に手をかざし始めた。
弥美が記憶を読んで、その内容をしゃべれば、もう言い逃れはできねえ。俺はそっと、足に魔力を込め、逃げる準備だけ整えておく。ドクンドクンと自分の心臓の音が嫌でも脳内に響き渡る。
大丈夫。逃げ足だけなら自信がある。それに、奇跡的に弥美のスキルが失敗する可能性だってあるじゃないか。まあ、そんなことあり得ないだろうけど。
この数秒の時間が、何十分にも感じた。早く終わってくれ。どれくらい経った?
すると、弥美に異変が生じた。
「ひ、な、なんだ、やめろ、やめろ……うわ、ああああああああああああああ!!!」
急に弥美は発狂を始めて、長い髪を振り回しながら暴れ始める。
「どうした、おい、おい!」
秀才がいち早く異変に気付いて、弥美の肩を押さえようとするも、暴れて手が付けられない。ここで池麵が前に出て、何とか弥美を羽交い絞めにする。さすがに勇者の力には敵わずに捕まるが、それでも抵抗を続けていた。
俺にもわからない。一体何が起こった?
そのまま弥美は発狂し続けたが、急に落ち着きを取り戻し、静かになったので、池麵は一旦手を離した。そして、全身の力が抜けたのか、弥美はその場にあおむけで倒れ込んだ。
「おい、しっかりしろ!何があった!」
秀才は何とか見えたものだけでも確かめようとするも、返事がない。しかし、少しだけ、弥美は首を傾け、生徒たちの方を見て、呟いた。
「お、お……あ……ひほ、ひ」
そして、そのまま弥美の目から光が消えた。秀才はすぐに弥美の手から脈を測るが、すでに動いていなかった。
「チッ……死んだ」
皆、その場に立ち尽くすしかなかった。また、目の前で一人の命が奪われた。秀才は悔しそうに拳を握りしめて呟く。
「結局、また振り出しだ」
俺はなぜか助かってしまった。誰が?弥美はただ失敗しただけなのか?それとも俺以外の誰かが介入したのか?もう一人、俺と同じ魔族側の人間がいる可能性が高まった。いや、分からない。本当に失敗しただけかもしれない。
もしかすると、弥美は郁也の記憶を見て、自分があの大型の魔物に食われているところを見て発狂しただけの可能性もある。だが、弥美は死体を見ても平気だった人間だぞ?ということは、郁也の魔物に食われた記憶の痛みも引き継いだのか?
とにかく、考えても仕方ない。俺はバレずに助かったんだ。……今度マオに報告するついでに、魔族側のスパイは俺以外にもいるのか聞いてみることにしよう。




