第22話 弥美
魔王城から帰り、夕方に部屋でくつろぎつつ、色々と次の暗殺の計画を練っていた中、急遽クラスメイト全員が講義室に呼び出された。
「急になんなんでしょうな」
「もう少しダラダラしたかったわー」
太田と我利もだるそうに立ち上がって、部屋を出ていく。俺もだるいな。
「千温殿、何してるでござるか?早く行きましょうぞ」
「そーだぞー。だるいのは分かるけどよー」
「まあ、はい」
良い感じの計画練ってたんだけどなあ。俺も重い腰を上げて、ベッドから降り、我利たちに続いた。
---
講義室に着くと、すでにクラスメイトが全員集まっていた。岸は全員集まったのを確認して、うむ、と頷いて話を始める。
「よし、集まったな」
すると、池麵は首を傾げ質問する。
「岸さん、まだ郁也と夕美が来ていないですが」
「いや、全員だ。くつろいでいた中、すまないな。そのだな……また、死人が出た」
すると、空気が一気に凍り付いた。皆、何となく察したようだ。清楚は恐る恐る、岸に問う。
「もしかして……夕美ちゃんと郁也君……ですか?」
「……そうだ」
すると、次々出る死人に耐えられなくなったのか、胡桃が頭を抱えて、泣きながら叫び始める。
「もう嫌ですよ!怖いです!もう家に帰らせてください!元の世界に帰りたいです!もうやめてください……」
「……そ、そうだ、俺も早く帰りてえよ!」
「正直、もう付き合っていられないですね……いくらスマートな僕でも、これは耐えられないですよ」
胡桃に続き、肉男、半寒も本音を漏らす。雰囲気は最悪だ。おもろ。いやあ、俺が殺しの当事者じゃなかったら、俺も同じように不安になってただろうけど、黒幕は俺だからなあ。
すると、フフッと小さくも可愛らしい笑い声が聞こえた。なぜこんな時に笑い声が?皆、聞こえた方を向けば、そこには、こんな状況の中で本を読んで小さく微笑む本田。
本田は皆の視線に気づいたのか、「ひえ」っと小さくつぶやき、頭を下げ始めた。
「すすすみませんっ!すみません!」
先程の笑った態度が気に食わなかったのか、棒緑は本田にイラつきを隠さずに問い詰める。
「てめえ、どんどんクラスメイトが死んでるってのに、なに本なんか読んで笑ってんだゴラア!」
「おい、棒緑、圧を掛け過ぎだ。だが、その通りだ。今は真面目な話をしている。なぜか聞いてもいいか」
池麵は棒緑を制止して、本田に優しく声をかける。本田は小動物のようにびくびくと震えながらも、理由を説明してくれた。
「その、私も本当にこの状況が怖いんです。次は私なんじゃないかって……でも、そんな恐怖で不安で押しつぶされそうなときこそ、本を読んで前向きになろうって……でもさすがに今は空気読めなさすぎ……ですよね……本当にすみませんでした」
それを聞いていた皆は、何も言えずに黙る。けなげやなあ、本田は。確かに現実逃避もしたくなるわ。池麵も納得したように、みんなに向けて勇気づける。
「確かに、本田の言う通りだ。こういう不安な時こそ、その不安に押しつぶされずに頑張ろう。今度こそ、クラスみんな無事で帰ろう」
さすが池麵。クラスの雰囲気がほんの少しだけだけど、緩んだ気がする。余計なことしやがって。少し落ち着いたところで、岸は手を挙げて制止する。
「池麵の言う通りだ。それと、一旦安心してほしい。これは賭けだが、もしかしたら黒幕が判明するかもしれない方法を、秀才が見つけてくれた」
そして、皆の視線は一気に秀才へと移る。秀才は注目されてもなお、顔一つ動かさず、冷たい表情で皆の前に出てきて、話し始める。
「単刀直入に言おう。夕美と郁也の遺体から、記憶を引っ張り出す」
俺はそれを聞いた瞬間、背筋が凍るような感じがして震えた。記憶を引っ張り出す……だと?
もしここで、郁也の記憶を引っ張り出されたら……あのドッキリ大成功の看板の事や、ポチの正体や、俺がベラベラと郁也の計画についてしゃべってることが、みんなの前で公開されてしまう。
まずい、どうやってごまかす?いや、ごまかすことはできねえだろう。まずい、非常にまずい、落ち着きたくても落ち着けねえ。まずいまずいまずいまずいまずい。心臓の鼓動が爆速で止まらねえ。
池麵は秀才に疑問をぶつける。
「秀才、死者の記憶を引っ張り出せるのか?」
「いや、僕じゃない。弥美だ」
「え?」
すると、今まで誰もいなかったところから「ふひひ」と不気味な笑い声を出しながら、ゆっくりと前に出てくる、猫背で髪の長い女子。
「あ、そういえばいたな」
「やっぱり私って、影薄いんだ……でもそれはそれでいい……ひひ」
俺も影薄すぎて全然気にしてなかったわ。……じゃなくてだな、俺は忘れてたと言うのか?こいつの存在を?全員の職業をメモしたつもりだったのに……というかあの時のステータスプレートの確認の時、岸にすら存在を忘れられていたのか!?
こいつの職業は?スキルは何を持っている?記憶を引き出す、ということは非戦闘職?
秀才は弥美を紹介する。
「弥美の職業は死霊術師だ。簡単に言えば、死者を操る能力。あ、影が薄いのはスキルでもなくこいつ自身だがな」
聞いてねえよ。岸がそこに補足として割り込む。
「先ほど、森の方で郁也と夕美の遺体が発見されたのだが、少し不可解な点もあってな。俺はお前たちにあの森には入るなとは言っているが、実はあの森に出現する魔物は弱いものが多い。今のお前達なら大丈夫なはずなんだ。なのに、あそこまで残虐に殺されているのは、上位の魔物以外あり得ん。なんの魔物に食われたのか、遺体から記憶を引き出せば分かるかもしれんのだ」
クソ。死体隠しとけばよかったか?だがそれはそれでめんどくさくなるだろうし……とにかく弥美の存在を忘れてた俺の失態だ。
とにもかくにも、今確実なピンチなのに変わりはない。今、弥美を殺すか?だが、今動けば確実に誰かに一瞬でも見られる。特に池麵や岸は相当な実力者だ。俺がどんなに早く動いても見破られる可能性は高い。
ポチを使うか?いや、あいつはまだアホだから無理だ。それに今ポチを呼びに行けないし、動けば怪しまれる。
俺のスキルで何とかごまかせるか?いや、そんな便利な能力なんかねえ。隠密だって、存在が完全に消えるスキルじゃねえ。音や気配を最小限に抑えるだけだ。
これは……詰みか?




