第21話 信頼
俺たちは高い木の上から、郁也が大型の狼の魔物に食われているところを見下ろしていた。おおグロイグロイ。しかし、実はけっこう疲れていて、俺は大きなため息をつく。
「ふう……にしても、あの魔物化け物すぎだろ」
「ご主人様でもきついの?」
「そりゃ、1日は眠るだろう睡眠毒をナイフに塗りたくって、投擲強化と防御貫通を最大限使って放った一発が、数十分で目覚ますんだぞ?」
俺はスキルで、投擲強化、防御貫通を最大限活かすように魔力をナイフに込めまくった。そうしてようやくあのバケモンにナイフの刃が通ったわけだ。それに強力な睡眠毒がいとも簡単に数十分で目覚ます。
さすがは魔王城付近の魔物だわ。あとは、こいつの片づけ……もう今はあんまり魔力が残っていないから、倒すことは無理だろう。証拠隠滅のために、せめて魔王城にまた転移魔方陣で送んなきゃならんのだが……
「はあ……ここまでめんどくさい計画とは思わねえじゃん」
自分で練っておいて、自分で後悔している俺。頭を抱えちまうよ。確実に郁也と夕美を殺すためとはいえ、あんな狂暴な魔物とはな。
「ポチもお手伝いするなの!あ、でも体ちょっとだけしびれてるの」
「自業自得じゃ」
「ぶぎゃ」
俺は軽くポチの頭を小突く。ポチは楽しそうに声を出す。この可愛い狐め。にしても、ほんと可愛いよな、この無邪気な童顔で、しかもメイド服着て、俺にこんなにも懐いて……。
俺も男だ……理性を押さえるのに精いっぱいだわ。いや、でもポチは魔物……むしろ合法では???
「ご主人様?」
「……え、あ、いや。ポチ、また囮になってくれるかな。だるいけど魔王城に戻さなきゃいけないから」
「かしこまりましたなの!」
ポチはそのまま魔物のいる地面に向かって飛びこんでいき、シュパっと降り立つ。ほぼ獣人だからか、動きは派手、かつしなやかで無駄がない。かっこいい。
にしても、ポチとはなぜか普通に会話ができる。確かに今のポチの姿は、ほぼ普通の人間の女子だ。俺ならまず関わらんし怖くてどもりまくる。
やっぱ、元が魔物というか、動物だからなのかな。人間のように嘘もつかず純粋にただ俺を慕ってくれてる。怖いものが無い。だから俺も普通にしゃべれるんだろうか。
ほら、学校ではめっちゃ静かな陰キャだけど、家の中ではペットとめちゃくちゃ会話してるみたいな、そんな感じだよ。……知らんけど。
ま、でも楽しいからいいや。俺もポチに続いて木の上から飛び降りていった。
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「ふう。何とかなった……」
「疲れたなの……」
俺とポチは二人で魔王城の前で壁に寄りかかって地面に腰を下ろす。魔力って大事なんだなあ。魔力枯渇してる状態だと体が重い重い。ポチがいなかったらもっと大変だったと思うと恐ろしいわね。
なんとか転移魔方陣に誘導し、魔族領の森に返して、すぐに転移魔方陣の布を丸めて持って、俺たちは魔王城の方へ逃げていった。
ついでだし、マオ達にも報告しなきゃな……と思うも、地味に久しぶりだからかめちゃくちゃ緊張してくる。それに、ポチもいるからなあ。
「ご主人様、しっぽ触る?」
「マジすか、じゃあ、お言葉に甘えて」
「あひゃ、くすぐったいの」
俺は緊張をほぐすためにも、ポチの大きいモフモフな尻尾を堪能する。これ拒絶されないのマジで神だろ。動物って最高。ふわふわして、少しこっちもくすぐったくて、柔らかくて、獣の匂いとちょっとした女子の匂いも混じった感じで……ああ、生き返るわ~。
「え、えっと、チハル?何してるんですか?」
「え」
声のする方を振り向けば、いつの間にかマオがいて、尻尾を堪能しているのをがっつり見られていた。恥ずかしさで尻尾に顔をうずめて隠した。
「ひゃん!ご主人様えっちなの!」
「……お、お邪魔しました~」
「いや待ってくださいマオさん」
俺は必死に呼び止めた。
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俺たちは魔王城の会議室へと移動した。俺たちは椅子に腰を掛けるが、マオとシロは改めて、ポチを物珍しそうに見ていた。
「チハル、珍しい魔物を従えているんですね。人間に化ける狐、知識では知っていたのですが……実在するんですね。しかも言葉まで」
「いや、その、俺もびっくりです、その、はい」
そりゃあね。2週間くらいでこんなに大きくなってさ。翌日目覚めたらケモ耳生やした女子が一緒の布団で横たわってたもんだから、マジで社会的に終わったと思って心臓止まるかと思ったよね。
とりあえず俺といる時以外は獣のままでいる事を約束した。というか驚きすぎて普通に言葉通じてるのすら疑問に思わなかったわ。
まあ、これは暗殺に使えると思って、案の定郁也と夕美の暗殺で大活躍だよ全く。
ああ、とりあえず報告はしとかないと。
「あ、マオさん、えっと、郁也と夕美の排除、えっと、完了しました、です……」
「ご主人様いつもと話し方ちがうの」
「黙れ」
余計なことを言うんじゃない。恥ずかしいって。もしマオに「いつもはどんなしゃべり方をしているんですか?」なんて聞かれたらめんどくせえだろ。
しかし、マオは俺たちを見てフフっと軽くはにかんで笑う。
「仲が良いんですね、お二人とも」
「え、まあ、はい」
「ご主人様大好きなの!いっぱい撫でてくれるし、いっぱいご飯もくれるの!」
やめろ、言うな、恥ずかしい。
「ひとまず、分かりました。よくやってくれましたね、チハル」
「え、まあ、はい」
どうも、やはり褒められることに慣れない。難しいなあ、リアクションが。すると、ずっと黙って見ていたシロがこちらに寄ってくる。
「チハル」
「え?あ、はい」
いつもは「おい人間」とかなのに、初めて名前で呼ばれた気がする。でも目はいつも通り鋭くて怖い。
「正直、お前のことは信用してなかったが……ここまで結果を出されたら、認めざるを得ないよな。引き続き、魔族の命運を頼んだ」
「え、あ、まあ、はい……」
初めて、心の底から、俺を認めてくれる人に出会った気がする。マオも俺を認めてはくれるが、普段から優しいし、まあそういうもんだろうと思ってた。
シロの俺への第一印象も最悪でずっと睨まれていたのに……急に認められるとなあ……。恥ずかしさと嬉しさで胸がいっぱいになりそうだ。涙が出そうなのをぐっとこらえる。
「ご主人様照れてるの」
「黙れ」
シロとマオは面白そうにまた、軽く笑いかける。そして真面目な表情に戻り、マオは俺に忠告をする。
「ここまでずっと上手く行っていますが……くれぐれも油断はしないようにしてください。クラスメイトの監視は常に徹底してくださいね」
「あ、はい」
「頼んだぞ、チハル」
「あ、はい」
俺は目を逸らしながら、返事をする。ここまで信用されてんだ。期待に答えなきゃ。まだ、棒緑や池麺も残っている。もちろん、最後まで油断はしない。今はポチもいる。
次の標的は、半寒か、肉男か……。
「行こう、ポチ」
「はいなの!」
俺はそのまま魔王城を後にした。




