第18話 郁也と夕美
それからは、見たくないけど、訓練以外の暇な時間は夕美と郁也カップルの動向を毎日探っている。絶望して死んでもらいたいから、情報はしっかり集めないと。それまでの我慢だ。抱き着いたりするたびに俺の手が勝手にナイフに向かって動いちゃうから押さえるのに必死だったよ。
そしてポチの世話も並行して数週間が経った。
その、なんだろう、預かってから2週間くらい?なんだけど、ポチは小型犬くらいの大きさで可愛かったというのに、いつの間にか大型犬くらいの大きさまで成長していた。
まあ、異世界あるあるか?現実のひよこだって、あんな小さかったのにすぐに成長してでかい鶏になるくらいだし、まあ、あり得る話か?いや異世界に現実を持ち込んだら負けだ。異世界だもん。
で、まあ基本的に、俺が貰ったんだから俺が世話してるわけだけど、俺を親と認識しているのか、俺の顔にすりすりしてくる。俺の顔こんなに気持ち悪いのに!?
あとは、きゅ~ん、と甘える声を出してきたり……ああああああああ可愛い。狐でもきゅ~んって甘えるような鳴き声で鳴くんだな。
俺はポチのふかふかな毛並みをそっと撫でてやれば、気持ちよさそうにする。……狐ってやばい細菌持ってるとかいうけど大丈夫なんかな……知らんけど。
以上、癒しの現場からでした。
で、そんなある日のことだ。城内では、というかクラスの中でこんな噂が広がっていた。
「ねえ知ってる?」
「郁也が別の女に浮気してるって」
「聞いた聞いた。本当だとしたら最低ですよね」
俺は教室の中で聞き耳を立てていた。チッ。あのクソイケメン女たらしが、浮気かよ。
知ってるか?2割のイケメン強者男性は女慣れしていて、自分から行けるしアプローチも貰える。そしたら刺激がどんどん足りなくなるだろ?だから浮気もしやすいんだよ。
逆にチー牛みたいな奴ほど浮気はしにくい。自分がモテるはずない、という現実を分かっているから、このチャンスを逃せばもう彼女等二度と作れない、という心境から浮気をしにくいし一途なのだ。……知らんけど。
だからつくづく郁也に腹が立つ。まあ、噂を流したのは俺なんだけどな。いや、厳密には俺が流したわけではない。流れるように工作しただけなのだが。
もうクラス中にこのうわさは広がっていて、郁也は冷たい目で見られている。ただ、真実かどうかも分からないし、プライベートな話なのでなかなか声もかけにくいんだろうな。教室内は、立て続けのクラスメイトの死や行方不明もあって、けっこうギスギスした雰囲気が漂っている。
いつも一緒の席にいた郁也と夕美は、珍しく離れている。2人も周知しているのだろう。棒緑が教室に入ってきて、半寒の元へ向かって行く。
「おう、半寒」
「おはよう。にしても、こんな大変な時に限って浮気ですか……全く」
「郁也の事か?俺バカだから分かんねえんだけどよ、あいつなにしたんだ?」
「聞いてないんですか?郁也はどうやら、夕美という彼女がいながら、夕べにこの城のメイドと一緒に手を繋ぎながら歩いていた、とか」
「チッ、なんだあいつぶっ殺して性根叩きなおしてやる」
棒緑が額に青筋を浮かべて郁也の席へ行こうとするも、半寒が刀を抜いて棒緑の目の前に突き出して制止する。
「彼が本当に浮気しているのかはわかりませんし、僕たちが出る幕はありません。彼は彼自身で解決させるべき、その方がスマートではないですか?」
「……スマートかは知らねえけどよ、チッ」
棒緑は諦めてそのまま半寒の席に座る。実は半寒って、棒緑より立場上だったりする?半寒の言うことはけっこう聞くよな、こいつ。まあ今はどうでもいいけど。
半寒の言う通り、郁也がメイドと一緒にいるところをクラスメイトの誰かに見られたってわけだ。恐らくこんな噂流すのは女子の誰かだろうけど。陽菜あたりか?
そして、岸が鎧の金属音を立てながら、教室に入ってくる。
「よし、今日も訓練だ。……どうした、今日はさらに雰囲気が良くないのだが。何かあったのか」
『……』
皆沈黙。いやぁ、この空気うめえええ。みんな、いろんな感情が複雑に混ざり合ってんだろうさ。
「……そうだな。今日くらいは休みでいいだろう」
『え?』
「このところ、お前たちの体調など気にかけてやれなかった。クラスメイトの行方不明や死というショックな出来事があったというのにな。休養が必要だろう」
皆、目を丸くしている。いつも厳しい岸がこんなこと言うとは思わなかったんだろう。
「ただし、何か悩みがあるんなら今日中に解決するんだぞ。これは遊びじゃない。半端な気持ちで訓練などしてほしくないからな。こうやって簡単い命を落とすほど、人間は脆いのだからな。まあ、俺に悩みを相談してもいいんだからな」
『いやです』
「む……お前たちの信頼はまだまだか……」
一斉に否定された岸はちょっと悲しそうにうつむく。ちょっと可愛い。
まあ、岸は強面だし、いつも厳しいから、流石に相談するには敷居が高いだろうさ。俺も嫌だし。
みんな、一斉に教室を出ていって、それぞれのやりたいことなどを消化しに行った。訓練に励んだり、部屋で休んだり、不安を紛らわすように雑談をしたり……みな違うことをしている。
俺は?俺は散歩がてら、郁也と夕美の行動を監視しに行くよ。バレないように隠密スキルを最大限使ってな。




