第15話 内部崩壊
翌日の朝のいつもの出欠確認。
「今日の午後は、一旦各自で昨日行った訓練を行っていてくれ。少しやることができた。サボるんじゃないぞ」
岸はそう言って、講義室を出ていく。俺はそれを聞いて、恐らく魏屋琉が死んだんだろうと予想する。
周りは特に気にした様子もなく、「よっしゃあ自習だ!」「初めてじゃね?」「昨日あのスキル使うの難しかったんだよねえ」など、浮かれている様子だった。
まだ魏屋琉が死んでいることは誰にも耳に入っていない。そりゃ、岸も昨日から、原因が判明するまで魏屋琉には近づくなと口酸っぱく言われているしな。
まあ、いつも一緒にいた棒緑と半寒、そして胡桃と陽菜辺りは暗い雰囲気が漂っていたが。
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各自訓練を終え、昼食後、岸は俺たちを講義室に一旦集める。
「お前たちに言わなければいけないことがある」
岸は、いつもと少し違う雰囲気を感じ取ってか、クラスメイトは背筋を張って、岸の声に耳を傾けた。
岸は言葉に詰まるも、決意して話始める。
「魏屋琉は死んだ」
『え?』
講義室は一瞬で緊張感が走り、沈黙に包まれた。そこで第一声を上げたのは、棒緑だった。魏屋琉は相当苦しんでいたのか、苦痛にもがくような顔で死亡されているところを、様子を見に行った岸によって発見されたようだ。
「嘘つくんじゃねえ!魏屋琉があんなウイルスごときで死ぬわけねえだろ!」
「いや、ウイルスではなく、毒だ」
「は?」
棒緑は一旦口を閉じ、おとなしくなる。岸は続ける。
「ひとまず安心してほしい、この毒はどうやら感染などはしないようだ。お前たちが同じ目に遭うことはまず無いだろう。最後にお前たちの友人に直接会わせてやれなかったことは済まない。
今朝、食堂や魏屋琉の私物などを整理していたのだが、魏屋琉の使っていた、箸やスプーンに毒が塗られていた。確実に、誰かの手によるものだ」
クラスメイトの顔が一気に恐怖の顔色に変わっていく。誰かの手によるもの……。殺害……。次は自分かもしれない恐怖……。
「もしかして、魔族?」
「いや、その可能性は低いな。この城には対魔族用の結界が常に張られている。まず忍び込むことは不可能だ。結界が薄れたり切れたりした痕跡もない。だが……魔族と結託したスパイの可能性はあるかもしれないがな」
この中にスパイがいる……。皆が周りを、顔色や態度を窺うように見渡していく。疑心暗鬼になるのは当たり前だ。裏切者による犯行の線が濃厚なのだからな。
再び、棒緑は声を上げながら、席を立ってズカズカと……俺のところへと歩いてくる。そしていつものように胸倉を掴む。お前はいつもそーだな。
「てめえだろ!てめえが俺たちを恨んで毒を仕込んだんだろうが!!!」
疑心暗鬼の中、棒緑が俺に疑念を向けたことで是認が少しほっとする。
だが、別に怪しまれても問題はないので冷静を装う……まあ、さすがに緊張して心臓ドクドクなんだけどね……。俺はいつものようにどもりながら、小さい声で答える。
「いや、なんでですか……俺女子寮なんて忍び込めないし……」
その言葉に全員がハッとした。わざわざ警備の固い女子寮に忍び込める者はいない。女子寮に忍び込もうとした男子が岸に捕まったとかいう事件もあったくらいだ。肉男とモブ崎だけど。
「棒緑、落ち着けよ。何度も言うが、このチー牛はニートですよ?引きこもることしかできない雑魚です。そんな奴にこんなたいそうなことをする勇気があると思いますか?」
半寒が冷静に、棒緑の肩をポンっと叩いて止める。棒緑もそれを聞いて、舌打ちしながら俺から離れて、席に戻る。
「じゃ、じゃあ、犯人は女子?」
胡桃は、皆が思っていたことを、恐る恐る言葉にする。すると、夕美が急に大声で否定し始める。
「わ、わたしじゃないから!」
「誰も夕美なんて言ってないでしょ!まさか夕美!?」
「黙れ!夕美がそんなことするはずねえだろ!」
急に立ち上がる夕美に、陽菜が疑念を向けるが、夕美の彼氏である郁也がすぐにフォローに入る。
「みんな落ち着いて!?まだスパイの仕業だって決まったわけじゃないでしょ!?」
清楚はこの場を鎮めようと立ち上がり、なんとかこのギスギスした雰囲気に終止符を打った。かと思われたが、パニックになっている彼女らが止まるわけもなかった。
「そ、そう言えば、振子って、1年の頃からずっと、魏屋琉と仲良く遊んでたよね?」
「は、え?私!?」
「確かに、2年になってからも同じクラスだったのに、今は全然かかわってなかったし、ギスギスしてた。喧嘩したんだっけ?」
陽菜ははやく犯人を見つけて安心したいからか、今度は理由を付けて振子に疑いをかけ始める。振子は動揺していたが、夕美も振子と魏屋琉の関係性を思い出し、疑問を口にする。
「待ってよ!あたしじゃないってば!喧嘩したのは事実だけどさ?そんなことでするわけないじゃん!」
「そう言えば、振子の職業って盗賊じゃん?それなら簡単にもの盗んで細工するくらい余裕なんじゃないの?」
「やめて!あたしじゃない!」
一気に振子への疑念が強まっていき、視線が集まる。振子は急に疑われた重圧に耐えられず、頭を抱えて机の下にもぐり始めた。
そうだ。これも狙い通り。勝手に自滅してくれるだろうと思っていた。女子寮での犯行と断定させれば、自然と女子の誰かに疑念を抱く。まあ、幸運にも俺の嫌いだった振子に向いてくれたのはラッキーだがな。
「やめろ!そこまでにしろ!俺たちは仲間だろ!?少しは周りを信じろよ、ずっと疑ってたら疲れるだろ、俺はそんなお前たちを見たくない!」
おっと。ここで委員長の池麵が大声でこの場を沈めたぞ?かっこいいねえ。池麵の必死なイケメンボイスに言い合っていた女子たちは沈黙。さすがだね。
でも、女子の陰湿なところはここからだぜ?この場で止まっても、誰も築かれない場所で振子を追い詰め始めるはずだ。仲間外れにして、じわじわと毎日ありもしない容疑をかけられる。長引くほどにエスカレートする。
俺にとっては好都合。
「そうだ。池麵の言う通りだ。とにかく、黒幕は俺が何とか見つけて対処する。お前たちの誰か、と決まったわけでもない。俺はお前たちを信じたいからな……ここでチームが崩壊すれば、魔族にやられておしまいだぞ。いいか!午後の訓練も気を引き締めろ!」
最後は岸がこの場を締めくくった。とは言え、全員のメンタルはズタボロなのは間違いない。訓練に力が入らないだろうなあ。俺もわざといつもより動きを制限しなきゃな~?
あとは、女子たちの動きを念のため監視しておこう。さあて、次は誰が死ぬかな?




