第12話 助け舟
「ていうかさ、チー牛さ、どうやってあんなボロボロの身体で魔族領から帰ってきたわけ?」
「そういや、てめえ、昨日の傷はどうしたんだよ」
俺はそのまま、棒緑達に更に詰め寄られる。俺は最初から最後まで絶対に目を合わせない。落ち着け。ここで変なことを言えば、魔族と結託したと思われてしまう。
オタ達にポーションで助けてもらったと言うか?オタ達はきっと話を合わせてくれるだろう。いや、だめだ、ポーションは岸に言わなきゃくれないし、なぜオタ達がそんなものを持ってると、さらに怪しまれる。
この世界はポーションはかなり貴重だ。だからこそ許可制になっている。ヒーラーはかなりレアな職種ってことになるな。
ってことは、聖女の清楚に助けてもらったと言うか?いや、いくら清楚が正義感が強いとはいえ、清楚が話を合わせてくれるとは限らん。というか、戸惑いそう。魔力もまだ使えないはずだ。
やばい、思いつかない。どうする?逃げるか?話を逸らすか?たまたまポーションが落ちてた、とか言うか?
棒緑は待ちきれずに、俺の胸倉を再び掴んで来た。
「おいてめえ、早く答えろや!……てめえまさか、魔族に――」
「あ、あああのっ!!!」
突如、子供のような必死な可愛い声が響く。声のした方を見ると、本を持っている小柄な女子がこちらに向かってとぼとぼと歩いてきていた。
あいつって、本田?簡単に言えば、いつも本を読んでいる小動物系の文系少女だ。そんな無口な彼女が、なぜか俺たちに向かって頑張って叫んで呼び止めてきた。俺たちもある意味戸惑っている。
その沈黙の後、恥ずかしそうに顔を赤くしながら声を絞り出す。
「え、えっと、その、昨日、千温君が大けがしていたので、あの……スキルで治してあげた、だけですっ!」
え?俺のことを、助けてくれた?俺は本田に助けられた覚えなどないのだが……。思わぬ助け船に、俺はホッと胸をなでおろす。
「え、あ、そうなのか……。最初からそう言えよチー牛。行くぞ」
「変なの。なんであいつの事助けてやるんだか。マジつまんな」
「まあまあ、優しくていいじゃないですか」
棒緑は俺の胸倉を離し、つまらなさそうにこの場を後にする。意味が分からない。俺は本田と目を合わせるが、すぐに目を逸らす。可愛い!ちょっと可愛く感じるじゃねえか!ピンチの時に助けてくれて、胸がきゅんってか?あほか。
まあ、本田の職業は確か僧侶だ。回復系のスキルを覚えていても不思議ではない。それに、魔力操作の知識に関しても、あれだけ本が好きなら自分で習得していてもおかしくはないしな。マジで助かった……。
本田は俺に軽く頭だけ下げながら、話しかけてくる。
「え、えっと、困ってたみたいなので、その、め、迷惑でしたか?」
「あ、いや、その、ありがとうございます」
「え、えへへ。こういう場面、本でも読んだことがあるのでっ……あ、すいませんっ!こんな気安く話しかけちゃって……そ、それでは……」
そのまま、本田は俺からスタスタと離れていった。
……ああいう小動物系、良いよなあ。癒される。ていうか、こういう場面見たことあるって言ってたけど、実は隠れオタクなのかな。アニメとか漫画とか好きそう。知らんけど。性的魅力1の俺でも、本田みたいな子と付き合えたりとか……あほか。
とにかく、今の一連の流れで寿命30年は縮んだかってくらい緊張したわ。はあ、人生って案外何とでもなるもんなのかな。これで俺への疑いは、少なくとも0には近づいたはず。
これからまだ殺さなきゃいけないんだ。まあ、オタ達や本田のような奴らはできるだけ殺したくない。ここら辺は、マオ達と相談しなきゃならんな。今日の夜、マオ達と、作戦会議のために会いに行く予定だ。
……と、休憩が終わって再び訓練が始まるようだ。訓練でも暗殺者だとバレないようにしなきゃだし、この世界に来てからずっと気が抜けねえよ……。はあ。
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というわけで、夜に森へ向かい、誰にもバレないように転移魔方陣を使って魔王城へ移動した。
一応、俺に宿っているクロの魔力が通行証となり、門番がいるにもかかわらず普通に正面の門から入ることができた。マオが「普通に出入りしても大丈夫ですよ」と言っていた。でも緊張はするわい。また捕まるなんて嫌だからな。
とりあえず、以前使った会議室のような部屋へ向かう。ノックして中に入ると、すでにマオとシロは椅子に座って待機していた。クロの姿はない。今日も部屋で寝てるんだろうか。
「待ってました。では、こちらへ」
マオは俺に気づくと、笑顔で俺を迎え、椅子へと案内する。
シロは相変わらず目つきは悪いが、前ほど俺を睨んでくる感じでもなかった。マオが自分の席に再び着き、口を開く。
「さて、作戦会議です。えっと……まず、チハル、昨日はよくやってくれました。感謝いたします」
「え?あ、はい……」
褒められるとか何年ぶりだろう。なんか、俺の親なら、赤ちゃんの頃に言葉喋ったり一人で立ったりしたとしても、喜びもしないし褒めもしてなさそう。ガチで初めてかもしれんな。やめろ、自分で言ってて悲しくなるから。
シロも、フンっと鼻を鳴らしながら、互いに目を合わせずに言う。
「最初は人間族のスパイか、ただのゴミだと思ってたが……まあ、多少は仲間として認めてやる。もっと俺たちに成果を見せてみろ」
「え、あ、はい」
なんというか、今更ながら、人を殺して褒められるってのもなんか、複雑だよなあ……。
「さて、今後の計画ですが……引き続きチハルには、内部から厄介な人間を消してもらいますね」
う~ん、腐っても魔族。平然と恐ろしいことを言っている。確かに普段は温厚なのかもしれんが、国を守るためなら何でもする。まあ、そうでもしないとやられるばかりだしな。
ただ、思ったんだが、俺だけ動いているが、なんでマオたちは直接協力してくれないんだろう。いやまあそりゃね?魔族が直接動けば人間族側も大きく動いてしまうだろうし。ただ、何となく気になる。
「あ、えっと」
「なんですか?チハル」
「ただの疑問なんですけど、なんで、その、俺だけに人間族を、その、殺させるというか、魔王様たちは動かないというか……」
マオは真剣な目で俺を見つめながら、答える。
「確かに、チハルがピンチになったりしたときには助けには行きたいですけど、以前の人間族との戦争で、こちらの戦力は大きく削れています。
今、魔族側で出来ることは、襲撃してくる人間族を撃退する事。守りに徹する事。大きな戦力は、わたし含め、シロ、クロの3人しかいません。兵も、所詮は兵、数は多少多くても、勇者たちのような強者には劣ります。
現在も、いつ襲撃されるか分からない今、動きたくても、動けないのです」
なるほど。理解。だから、俺が内部から人間族の戦力を削ぐ必要があると。俺はそりゃもう、超便利な駒ってことだな。まあ、どちらにしろ俺は引き受けなければ殺されていた。今更後悔も何もないさ。
「さて、チハル、”あれ”は持って来ましたか?」
「あ、はい」
俺は転移してきたクラスメイトの名前と職業を記したメモを、テーブルの上に広げた。次は誰を狙うか、誰が厄介か、こいつにはどういう能力があるかなどを、マオ達が一緒に教えてくれる。
マオとシロはそのリストを覗き込む。
「……う~ん、できるだけ勇者は先に消しておきたいところですが……恐らく今のチハルじゃ無理ですよね」
「だな。できるだけ早く周りから戦力を削って、完全に力を付ける前に、俺たちで勇者を確実に潰す。マオ様もこれでいいですよね」
「はい。ひとまず、鑑識者のモブ崎を潰したのはでかいです。色々と探ってきて厄介な能力ですからね」
そんな構成で話し合いを続けていく。シロがとある職業に目を付けた。
「錬金術師……こいつは戦闘力は無いが、強力な武器を作り、人間族の総戦力の上昇につながる厄介な奴だ。こいつは先に潰しておいたほうが良い」
錬金術師……確か、我利じゃなかったか?あいつは、殺されるような悪い奴じゃねえ。いや、俺に人の善悪なんて判断できないが、ただ、俺の初めての友達かもしれない人だ。
「あ、あの」
「なんだ」
言うのは怖い。我利は殺さないでと言えば、シロからなんて言われるか。マオにも見限られるかもしれない。土下座してでも、何とかしなければ。
「我利と太田は、その、殺すのは、えっと、勘弁して、ほしい、です」
「なぜだ」
シロはすぐにキレるわけでもなく、冷静に聞き返してくる。
「こいつらは、ただゲームが好きなだけの害のない人間です。その、俺も無差別殺人みたいなことはしたくない、です」
「さんざん、モブ崎という人間は殺しておいてか?」
「あいつは死ねばいいと思います。……あ、死んだけど」
「ハッ、人間ってのは都合のいい生き物だな。まあ、それは俺たちも同じだ。無駄な殺生はしたくない。同族を殺すってのは辛いものだ」
シロは少し思いつめた様子で呟く。隣で聞いていたマオが、人差し指を立てて、提案をした。
「そうですね、元々、あなたを利用したのは、あなたの憎悪を見込んでのことです。チハルは、チハルをいじめていた仲間を殺してその復讐を遂げ、私たちは内部から安全に戦力を削ぐ。そんなWIN-WINな関係から組んだはずですから。チハル、できるだけ殺したくない人間を選んでください。私たちもそれに合わせて計画を立てます」
「え、あ、ありがとうございます」
なんとかオタ達や本田の生存ルートは確保できて、ホッと胸をなでおろした。
俺はただ、俺を地獄に陥れるクソな人間だけを殺す。それでいい。それに魔族のためにもなる。改めて、思いつめることなんて無い。
その後も会議は順調に続き、今後のある程度の計画は立てることができた。




