第11話 潜伏開始
その後、俺は一旦人間領の城へと戻るため、先ほどマオから貰った転移魔方陣を再び起動する。転移魔方陣の上で魔力を注ぐと、青白く、不気味に輝きを放つ。そうすれば、景色はいつの間にか城に近い森の中だ。
俺は転移魔方陣をしまって、城へと向かって歩き出す。
正直、緊張する。あいつらの元に戻ったとして、まず確実に棒緑達に勘づかれる。モブ崎はどこに行った?とでも聞かれるだろう。俺は冷静を装えるかどうか……。まあ明日のことは明日考えよう。今はもう夜中も近いしな。
城の裏門を開けて、廊下を歩いて自分の部屋を目指す。今日は眠れるだろうか。色々とありすぎた。棒緑たちに本気で殺されかけ、魔王と手を組み、魔力を手に入れ、初めての人殺し。そして、後ろから抱き着かれた時のマオの柔らかいお……ん、んん。なんでもない。
まあ、今更だが、モブ崎とか棒緑みたいな奴らが死んだところで、別に何とも思わねえし、クズを排除できたと思えばいい。何をあんなに取り乱していたんだか。というか、一度でもやってしまえば、もう後戻りはできない。殺るしかないんだ。
にしても、明日が憂鬱だ。棒緑たちに何されるか、というか、俺がモブ崎を殺したことがバレないか……。一応、死体は魔族領で預かることになっているので、バレることは基本的に無いし、行方不明とみなされるだろうさ。でも、不安よ。
俺は憂鬱な気持ちで、部屋のドアに手をかけた。
そういえば、部屋にはオタ達がいるんだったな。まあ、しゃべったこともほとんどないし、余計な詮索はされないだろうさ。嬉しいような悲しいような……。というか、寝てるだろさすがに。
俺はこっそりと扉を開いた。しかし、どうやら部屋の明かりはついているっぽく、緊張して胸がどきどきしつつ、俺は中に入る。コミュ障は本当につらい。何かするたびに緊張するわ。
そして、オタ二人にガン見される俺。ど、どういう心境なんだこいつらは……。俺も疲れていたのもあって、自分のベッドへ向こうとした瞬間、声をかけられたのだ。
「千温殿、大丈夫でしたか!?」
「ひっ!?」
俺はまさか声をかけられると思わず、ガチでビビって壁に頭をぶつけた。とっさに魔力で頭を守ったが……。
ちなみに、あのクロとかいう奴のおかげで、息をするように当たり前に魔力操作はできるようになっている。とっさの判断でも魔力を使える。普通は座学やら実戦で魔力操作を習得するってのに、俺はチートを使ったようなもんだ。その分苦痛は激しかったけど。
で、先ほど声をかけてくれたのは、太田だろう。デブのドルオタだ。我利の影響で最近はゲームにもハマっている。ていうか、殿ってなんだよ。今時そんな呼び方する奴いるかよ。……いるわ、目の前に。で、ビビっている俺をなんだこいつ、と言いたげに見ている。
で、隣にいた我利は頭をぶつけた俺を見て、デュフっと噴き出す。こいつはガリガリのゲムオタだ。ゲームが得意なようで、いつもゲームの話を早口で展開している。一応、リアルのアイドルには興味はないが、二次元のアイドルには興味があるようだ。
我利は面白そうに俺を見ながら聞いてくる。
「いや、夜お前棒緑たちと一緒に、城の地下の禁断の部屋に連れてかれてたから、一応心配してたんだわ。あいつら戦闘職だろ?さすがに手出しできないから助けに行けなかったが……」
なるほど、転移魔方陣の部屋に連れて行かれてたのを見られていたのか。まあ、助けに来いよとは俺も言えんしな。いじめっ子に立ち向かえるのは、基本的にはいない。保身のために見て見ぬふりをするのが人間だ。俺だって行かない。
てか、意外だな。こいつらも俺の事キモいとか嫌いとか思ってるんだろうと思っていたのに。俺はひとまず返事をする。
「えっと、その、まあ、大丈夫、ですから」
「どもりすぎでござるよ、もうちょいリラックスして」
ござるって……まあ気にしたら負けだ。
「まあ、これからは3人で仲良くしようや。今まではさ、お前と関わると棒緑たちに何されるか分からねえから、お前と関わらなかった。今思えば、この部屋の中なら問題ないだろ?」
「そうでござるな。でも、今まで学校で見て見ぬふりをしていたのは申し訳ないと思ってる。千温殿がよいなら、悩みを聞いたり、我々も協力しようぞ」
意外にも好意的だ。う~ん、こいつらに今日あったことを言うのもどうなんだろうか。いや、誰にも言ってはいけない。俺と魔族の問題だ。まあ、バレないように協力してもらうだけならいいだろう。
俺は自分のベッドに戻りつつ、彼らに話す。
「まあ、その, そのことについては大丈夫です。人間、いじめに関わるとろくなことありませんから、無関心が賢明な判断です。まあ、その、えっと、協力してくれるなら、ありがたいので、えっと、よろしくお願い、します」
「なんて広いお心、千温殿、よろしくお願いするでござる」
「よろしく、千温」
なんだか意外にも、オタク同盟が3人の中で結成されたのであった。
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翌日。今日もいつものように授業や訓練が始まる。
朝は講義室に集まって出欠確認を行う。基本的に、毎日全員が集まり、サボる人はいない。というか、最初の頃に棒緑たちがサボったら、岸にしごかれていたので、休むことは基本許されない。心の中で笑ってやったわ。
まあ、こいつら人間族にとっては魔族を一刻も早く支配したいだろうからそりゃ必死にもなるか。
で、時間になってもモブ崎が来ないことに、岸は少しだけイラついている。棒緑たちも、「何で昨日から戻ってきてねえんだあいつ」とか言って戸惑っている。もちろん、俺を睨みながら。
岸はよくモブ崎とつるんでいることは知っているので、棒緑に直接聞きに行った。
「棒緑、モブ崎はどこに行った」
「あ?俺も聞きてえってんだ。昨日からずっと部屋に戻ってこねえ」
「本当は知っているんじゃないのか?」
「……いや、知らねえ」
棒緑は詰められると少し声が小さくなって呟く。まあ、勝手に城の地下室の転移魔方陣を使って魔王城に行った、なんて口が裂けても言えないもんな。岸にボコられるだろうし。
周りのクラスメイト達も、「あのモブ崎の事だし」「一人でどっか行ったんじゃねえの」とか口々に呟いている。心配の声は特になかった。おもろ。
岸は一応、棒緑のことを信じたのか、首をかしげながら壇上に戻っていく。
「……うむ、なぜだろうか。とにかく、モブ崎一人のために訓練や授業を止めるわけにもいかない。では、今日も始めていくぞ」
そして今日も何事もなく、座学と訓練が始まる……と思っていたのか。
訓練の休憩中に、俺は木の影で座って一人休んでいた時、ドスンドスンと、地面を踏み込む大きい音が近づいてくる。おお怖え。怖すぎて手が震えちまう。もちろん、やって来たのは棒緑達だ。
棒緑、魏屋琉、半寒の3人。当たり前だが、モブ崎はいない。棒緑は顔をしかめながら俺の胸倉を掴んでくる。
「おいチー牛ゴラア、昨日モブ崎がお前の後ついて行ったはずだが、どこへやったゴラア!?」
やはり聞いてきたか。しかし、俺は心臓は爆速で鼓動を刻んでいるものの、何とか冷静を装って、目を背けて答える。
目を背けたら嘘ついてると思われるんじゃないかって?俺はコミュ障陰キャだぞ?常に目を背けてんだから、こういう時にあえて目を合わせたら怪しまれるだろうが。
「いや、知らないし会ってませんけど……」
「嘘つけや!」
暴力の掴む力はさらに強くなり、俺に顔を近づける。息くせえんだよ近づけんな。俺は息を止めていた。まあ、人のこと言えないけど。
しかし、隣にいた半寒は冷静に横から口を出す。
「棒緑、このニートのチー牛が、モブ崎を何とか出来ると思っているのかい?恐らく、チー牛の言うことは本当さ」
「あ?じゃあモブ崎はどこ行ったんだよ、つーか、半寒、なんでそんな冷静んだ?あいつは俺たちのダチだろうが!」
棒緑は俺を掴んでいた手を離し、半寒に詰め寄る。半寒はそれでも冷静に答える。
「この僕が、冷静に見えるかい?心配はしているさ。だが、まだ死んだと決まったわけじゃない」
「……チッ。ああうぜえ」
棒緑はひとまず落ち着きを取り戻す。不良共って、謎に友情みたいなもの大事にするよな。でも俺みたいな目障りな部外者は容赦しないってか?おめでたい頭だよ。
すると今度は魏屋琉が疑問を口にする。
「ていうかさ、チー牛さ、どうやってあんなボロボロの身体で魔族領から帰ってきたわけ?」
「そういや、てめえ、昨日の傷はどうしたんだよ」
……しまった。この言い訳を考えていなかった。俺は棒緑たちにボコボコにされた挙句、魔族領にぶっ飛ばされた。身体もボロボロなはずなのに、俺の身体は今はすべての傷や骨折が治っている。
どうする?冷や汗が止まんねえ。




