第四十四話 胎動
「美香!! アアァッ!!」
衝動のままにエレベーターへ向けて走るも、変異体に腕を掴まれ、足を止められた。
別の一体に頭を殴られ、そのまま床へと叩きつけられる。
「離せええぇ!!」
「恭平!!」
銃声が響く。
一瞬拘束が緩んだので抜け出して立ち上がる。
「恭平! もうダメ! 一度引かないと!」
鈴鹿のすぐそばに変異体がいる。
腕を伸ばし捕まえようとしている。
ダメだ、間に合わない。
「おおりゃああっ!!」
詩織がドロップキックを放ち、鈴鹿の近くまで来ていた変異体を蹴り飛ばした。
「お兄さん! もう無理ッス!」
奈津美の持つ弓が折られ、明穂は一本の矢を手に持ち変異体の首へ突き刺していた。
「恭平、あたしらは平気だ!」
「死んでも子どもと美香さんを取り返すんだよ!!」
「あたしらのことは気にすんな!」
奈津美と明穂の言葉に頭に上っていた血が引いていく。
俺の、俺たちのせいで、皆が死ぬのは違うだろ。
それを知って美香が喜ぶか。喜ぶわけないだろ。
迫る変異体の首を落とす。
同時に来なければ戦える。
しかし数が多い、多すぎる。
「皆集まれ! 撤退だ!」
「わかったけど、でもどうすんだよ」
「逃げ場なんてないよ!」
奈津美と明穂がエスカレーターから離れたことで、そこをふさいでいた防衛線に穴が空き、変異体が一気に押し寄せてくる。
鈴鹿を守る形で変異体を押し返す。
どうしたらいいんだ。
応援を呼ぼうにも俺の腰にあった無線機がなくなっている。
外からの銃声はまだ聞こえる。
陽動班の皆も頑張ってくれている。
「一か八か、やってきた階段まで行くか」
「反対側だよ。テナントの奥に逃げ込むのは」
鈴鹿の言うように俺たちが上ってきた階段は、エスカレーターを挟んだ反対側だ。
途中の変異体の数を考えれば現実的ではない。
テナントの奥に逃げても、そこが行き止まりだったら一巻の終わりだ。
俺たちを囲む円が縮まってくる。
いつかやったように喧嘩キックで将棋倒しにして距離を稼ぐ。
あの時は美香が跳び蹴りで包囲を広げてくれたが、今は代りに詩織がドロップキックをしている。
「行き止まりだったらどうすんだ。飛び降りるか?」
「痛いのはいやッスよ」
「動けなくなったらおしまいだしね」
俺は五階から落ちても足がしびれた程度で済む。
十階の高さは未だに経験したことはないし、それに一般人と変わらない体の鈴鹿がいる。
どうすればいいんだ。
変異体を押し返すと同時に、階下からガラスの割れる音が聞こえた。
鈴鹿が嬉しそうな声で「あ、見て!」と指差す。
「ああー、来てくれたッスよー!! ワンちゃんズ!」
獣の咆哮が響く。
「ウオン! (来たぞ)」
「シロ! 来てくれたのか!!」
下からも獣たちの唸り声がする。
黒犬三匹が変異体を吹き飛ばしながらエスカレーターを駆け上がってきていた。
シロよりは少し小さく見える。
三匹が俺たちのいる円の中に飛び込み、変異体を押し返してくれる。
おかげで変異体を押し返す負担が減り、考える余裕ができた。
「やっぱり、跳ぶぞ。途中のテナントへ逃げ込む。あそこにはもう変異体も残ってないだろう」
「鈴鹿はどうすんのよ?」
「ごめん、足引っ張ってる」
「そんなことはない。鈴鹿はシロに任せる。頼んでいいか、シロ」
「オン! (任せておけ)」
鈴鹿がシロの背中にまたがり、しがみついたのを確認する。
人ひとり乗せてもシロはびくともしない。あれなら大丈夫そうだ。
「奈津美、明穂、詩織、俺についてこい! 跳ぶぞ!」
走り出し、吹き抜けへ跳ぶ。
下のフロアの通路に着地し、再び助走をつけて跳ぶ。
振り返れば三人はちゃんとついてきている。
シロも余裕そうだ。
変異体のいない五階まで下りてきた。
テナントのひとつへ入る。
殿をしていた黒犬たち全員が入ったことを確認し、シャッターを閉める。
閉まった直後にシャッターから激しい衝突音がした。
長くはもちそうにない。
テナントの奥へと進み、途中にある防火シャッターを下ろしていく。
破壊音は続いており、遠からず突破されることは容易に想像できた。
「シロ、ありがとな。本当に助かった」
「オン (我と狼の人の仲ではないか)」
真っすぐな信頼を向けられて嬉しい反面、少しだけ照れくさかった。
動物たちの直接的で不純物のない感情は、今の世界の人間には持ち合わせていないものなのかもしれない。
いや、恵理奈ちゃんとかは別だ。
俺たち汚い大人には眩しいってだけだ。
テナントの奥にあるスタッフルームのような部屋へとやってきた。
ここで行き止まりだ。
奈津美たち三人は床に座り込み、水分補給や珠子特製のエナジーバーを食べ始めた。
少しでも体力を回復させようとしているのだろう。
「恭平、マキシーンたちに連絡して、合流してもらおうよ」
「そうしたいけど、無線機を落としちゃったんだよな……」
「ん? 私持ってるよ。はい」
「おお……!」
俺以外にも持っていることを失念していた。
心に余裕がなかったのか、それとも視野狭窄に陥っていたのか。
無線の送信ボタンを押す。
「こちら恭平だ。作戦は失敗、美香が攫われた。助けてほしい」
吉岡の顔を思い出し、思考が憎悪で染まりそうになる。
落ち着け、冷静になれ。
怒ってもいい。しかし冷静さは保て。
自分へ言い聞かせていると無線機から『Damn it! Kyohei, tell me where you are──I'll be right there.』とマキシーンの声が聞こえた。
「え、なんて?」
『どこいるマス! そこ行くネ!』
「あー、えーと、五階のエステサロンの奥だ。窓あるけど」
『開けるするマス!』
言われるままに赤い三角の印のついた非常用脱出口の窓を開ける。
それと同時に『少し離れていてください』と無線機から小池さんの声がした。
カン、となにかが部屋に投げ込まれた。
返しのついた鉄の棒、ロープが結ばれている。
大きな釣り針のような見た目だ。シングルじゃなくてトリプルフックのやつ。
その直後に、ヌッと窓から小池さんが現れた。
「どうも、山下さん」
「あ、どうも……」
すぐに斎藤さん、菊間、山口と続き部屋へと入ってくる。
窓の外を見ればマキシーンが、アメリカ軍の基地で見たロープの昇降機械で、するするとのぼっている最中だった。
ここ五階だぞ。
この人たちどんだけのスピードで登ってきたんだ……?
自衛隊員の底知れなさに呆気にとられた。
最後にマキシーンがやってくると、「Hey! キョーヘイ!」とテンション高く話しかけてきた。
「この人たち、Real NINJAネ!! ヤベーですネ! Oh! デカいワンころいるマース!Good Boy!!」
シロや黒犬たちを嬉しそうに撫でまわすマキシーン。
うるささが一気に増した。
シロたちも満更でもなさそうだった。
「それで、美香が誰に攫われたって? なにがあったんだよ」
菊間に話を振られ、美香のことを話す。
子どもがいなかったこと、吉岡に裏切られたこと、美香が攫われたこと、シロたちに助けられ命からがらここへ逃げこんだこと。
「ふむ、美香さんを。吉岡はなにが目的なんでしょう」
小池さんの言う通りだ。目的がわからない。
「たぶんね、美香さんがここにいる赤ちゃんのお母さんだからだと思うよ」
「つまり?」
山口に先を促され、鈴鹿が「あくまで推測だけど」と続きを語った。
「なんか真なる母とか偽の母とか言ってたでしょ、あいつ。たぶん美香さんが赤ちゃんの本当の母親、偽の母ってのは赤ちゃんを入れられて代替品にされた女性のことでしょ」
「んだそれ、気色わりいな。美香をどうする気なんだよ」
「よくないことになりそうだ。すぐに行く」
「だな」
菊間と山口の意見に賛成だ。
自衛隊の四人とマキシーンが来てくれたことで、戦力も格段に上がった。
これなら変異体を突破し、美香を取り戻せる。
「それじゃ──」
美香を助けに行こう、と続けようとしたところで、部屋に取り付けられているスピーカーから『ザザッ』とノイズが走った。
『信者の皆さま、喜ばしいことをお伝えします』
スピーカーから聞こえたのは吉岡の声。
『真なる母は迎え入れられました。これより再誕の義に移ります。皆さまも共に再誕する準備を』
なにを言っているんだこいつは。
再誕ってなんなんだ。
『不死の女神、真なる母の腕に抱かれんことを』
プツッという音と共にスピーカーは沈黙した。
それと同時に、ビルのあちこちから叫び声が聞こえ始めた。
このテナントでも、別の部屋から女性の悲鳴が響く。
『母よ! 母よおぉぉ!!』
『御許へと! 母よ!!』
叫び声が人間のものから化け物の唸り声へと変わっていく。
呼応し、反響するそれは、まるでビル全体が胎動しているかのように思えた。
吉岡、俺の美香になにをする気だ。
今すぐお前の元へ行き、その首を切り裂いて殺してやる。
「恭平! まずいよ、急がないと!」
「そう、だな」
鈴鹿の焦った声で、冷静さを取り戻せた。
皆の顔を見回す。
これから行うのは俺のエゴだ。
俺のエゴに、皆を付き合わせようとしている。
それを皆へ、押し付けようとしている。
それでも、こうするしか俺には方法がない。
「皆、俺一人じゃもう、たぶん、美香を助けられない。もしかしたら、この中の誰かが、命を落とすかもしれない。それでも、どうか、どうか俺を、俺たちを助けてくれ。助けて、ください。俺と、美香を、助けてください……! お願いします……!」
深く、深く頭を下げる。
俺にできることはそれだけだ。
突然、バシンと尻に衝撃を受け、体を起こしてしまう。
目の前には悪い笑みを浮かべた菊間がいた。
「なーに水くせえこと言ってんだよ、恭平! あたしらだって美香のこと助けてーんだ!」
「そう。あなたはなにもわかっていない。美香は私たちの大切な仲間」
菊間が助けたいと、山口が仲間だと言ってくれる。
「恭平に言われなくても私は行くつもりだったよ! なめんじゃないわよ!」
「そッスよ! 助けないわけないッス! お兄さんいつもひとり相撲ッスよ!」
鈴鹿と詩織が憤慨している。
「こちとら命に代えても助けたいってんだよ」
「そーそー、私らの美香さんへの恩義、とんでもないくらいあるんだから」
奈津美と明穂が助けたいと言う。
「はい、その願い、しかと受け止めました。お任せください」
「ですね! いやあ、恭平さん、あなた熱い男だ! 惚れ惚れします!」
小池さんと斎藤さんが頼りになる言葉を言ってくれる。
「キョーヘー、ミカの話なると頭イカれるマス。助けるしないヤツ、ココにはいないネ。それもわからないイカれキョーヘー、とってもバカデース」
皆の優しい言葉に涙がこぼれそうになる。
いや、マキシーンのは少し違うな。
「皆、ありがとう……。美香は十階のエレベーターから上階へと連れていかれた。目指すは──」
そこだ、と言うが早いか、部屋の扉が吹き飛んだ。
「キョ、ソサマ……。ハハ、ヨ……」
全身から煙を立ち昇らせる、成りたての変異体が現れた。
おそらく、近くから聞こえた悲鳴の主だろう。
扉の奥にも数体の姿を確認できた。
両腕の爪を伸ばしていく。
「行くぞ……!」
全身に力をこめ、駆け出した。
その成りたての変異体たちは、今までの変異体とはまったくの別物となっていた。
首を落としても数十秒後には戻ってしまうのである。
まさしく不死の化け物という言葉がぴったりだった。
体を切り裂こうが、頭を銃で吹き飛ばそうが、すぐに肉が蠢き、再生をはじめていく。
完全に倒すことはできなくなったが、まだやりようはある。
蹴りで吹き飛ばした変異体の一体が、歩き始めの幼児のように起き上がるのに苦労していたのだ。
「皆、足を狙え! 転ばしてしまえば時間が稼げる! 倒すのはあとだ、ホールまで急ぐぞ!」
皆で一丸となって走る。
途中で出会った変異体の足を切り飛ばし、追ってくるまでの時間を稼ぐ。
五階のホールには銃声や戦闘音に誘われた変異体が集まっている。
上下階からも集まろうとしている。
吹き抜けの下、一階から大量の変異体の群れがエスカレーターを駆け上がってきていた。
テナントの奥からも成りたてとそうじゃない変異体があふれ出してくる。
「ちくしょう! 吉岡のやつ、外の変異体を招き入れやがった!」
「入口のシャッターを開けましたか。外にはまだまだいましたから、それがすべてやってくると厄介ですね」
小池さんが少しだけ思案した様子を見せる。
「よし。私がここに残りましょう。上へ行く変異体の数は減らせるはずです。斎藤お前もだ」
「わかりました、隊長!」
斎藤が嬉しそうだった。
「美香さんとお子さまを、無事に救出できることを祈っています」
「ご健勝を!」
敬礼をしてくる二人に頷きで返しエスカレーターを駆け上がる。
「私はここだ。さすがに小池隊長たちも上下左右から挟まれたら分が悪い。私がここで食い止める」
「すまない……!」
下での戦闘音が激しくなっていく。
このフロアもテナントの奥から無限にいるのではと思えるほどの変異体が出てくる。
バリン、という音が聞こえると、五階の吹き抜け手すりの大半が下へ落下しているところだった。
「山口! 手すりを壊せ! 落とせ!」
「了解!」
初めて聞く山口の大声に面食らっていると、「早く行く」と急かされてしまったので頷きで返しエスカレーターをのぼった。
七階、出くわす変異体が成りたてと元々の半々だった。
しかし数が多い。
見渡す限りすべてが変異体だった。
「ってわけでここにはあたしが残る。さすがにこの数を春のとこには行かせられないんでな」
「菊間……」
「おい! 前に名前で呼べって言ったろ!」
「い、いや、すまん。葉子、お前ひとりでこの数は……」
「はっ! お前あたしに訓練で勝ったことねーだろーが! 心配すんじゃねえよ!」
「頼む……!」
片手を上げひらひらとさせる菊間を尻目に、俺たちは上階へ急ぐ。
八階、さらに変異体の数は増えている。
シロの号令で黒犬たちが奮闘してくれるおかげで、なんとかエスカレーターをのぼることができている。
「よしっ! 明穂、詩織。いいな」
「しかたないよねー」
「自分も大丈夫ッスよ!」
「お前たち、なにを……」
「恭平、お前は上だ。あたしらはここ」
「葉子さん一人でこいつらはちょっと無理でしょ」
「蹴っ飛ばして落としてやるッスよ! うりゃ!」
「恭平! はやく行けってんだよ! おら!」
変異体たちの攻撃をかわし、反撃をする奈津美たち。
奈津美たち三人は弓が使えなくなった今は、マチェーテを武器にしている。
リーチの短いそれは、意図せずとも変異体との距離が近くなる。
やつらの膂力は脅威だ。
いくらウイルスで強化された三人でも危険すぎる。
「オン! (ついていてやれ)」
「ワン! (わかった)」
黒犬たち三頭がそれぞれ奈津美たちのそばで戦い始めた。
「ほら! 押さえるだけならあたしらでも余裕だから!」
「行って! 美香さんを絶対に助けてよね!」
「赤ちゃんもッスよ!」
上階から来る変異体の首を切り落としながら様子を見ていたが、危なげなく戦えている。
「すぐに戻るから!」
鈴鹿とマキシーン、シロだけになってしまった俺たちは上へ上へと進んでいく。
九階、そこには異常なほどに巨大になった変異体がいた。
一体ではなく何体も。
偽の母が変異した異常個体のように、手足が大量にあり、全身から蒸気を上げている。
「グルルル……! (行け、狼の人)」
「シロ、無茶だ! あれはひとりじゃ倒せない!」
こちらに気がついた一体が、その多腕でこちらを捕まえようと掴みかかってくる。
ドゴン、という耳をつんざく衝撃音がすぐそばで響く。
異常個体の腕がいくつも吹っ飛んでいた。
「ワタシもいるマース。Hey.ワンころ、ちょっと乗せるネ」
めちゃくちゃでかい銃をもったマキシーンがシロにまたがる。
少し不服そうな顔をシロがしていた。
「マキシーンさん、あいつの弱点手の真ん中、頭っぽいのあるから」
「Thanks.スズカ。キョーヘー、心配ゴムヨーですネ。ワタシとてもツヨイ」
そう言って銃をぶっ放すマキシーン。
思わず耳を押さえてしまった。
「クゥーン…… (耳が)」
至近距離で銃声を聞かされたシロの耳がへにょりと倒れている。
シロが難聴になる前に帰ってこねば……。
「シロ、マキシーン、死ぬなよ!」
「ワン! (任されよ)」
「Don't worry about it. Go! Kyōhei. Go!」
マキシーンの応援を背に受け走る。
十階、見える範囲には数体の変異体しかいない。
戦闘音で下の階に集まったのか。
下階の変異体の密度的にその説が濃厚そうだ。
エレベーターまでの道を走る。
変異体の首を切り飛ばし、成りたては鈴鹿が足を撃つ。
呼び出しボタンを押すとエレベーターはすぐに来た。
迫りくる変異体に見送られながら、扉は閉じていった。
行き先ボタンを選ぼうとすると、最上階のところに血の跡がついていた。
鈴鹿が吉岡を撃ったおかげでついた目印を見て、迷わずに押すことができた。
「皆、死なないよね……?」
「大丈夫だ、と言いたいが、祈るしかない」
俺たちを美香の元へ行かせるために、自ら危険に飛び込んでいく仲間たち。
俺は、俺たちはとても恵まれている。
必ず美香と子を救い出し、皆でこのビルを出るんだ。
チン、という軽い音がして扉が開く。
最上階はきれいな絨毯が敷かれたホテルのような見た目だった。
その白い絨毯に、血の跡が道を作っていた。
吉岡の血だろう。
血の跡をたどると、ひとつの部屋の入口へとたどり着いた。
ドアを開けると、そこは大病院の手術室のようになっていた。
ガラス窓の向こう、手術台に寝かされた美香がいた。
そのすぐ横には巨大な肉塊があり、何本もの管が美香と繋がっている。
肉塊の横には裸の吉岡の背中が見えた。
「吉岡ぁ!!」
激情のまま叫ぶと、吉岡が顔だけこちらへ向けた。
「おや、これはこれは。ようこそいらしてくださいました」
身体ごと振り返る吉岡の胸から下腹部までが血まみれになっていた。
吉岡の足元には大量の臓物が落ちている。
その胸に、小さな異物を見つけた。
赤子くらいの大きさの頭だった。
「なに、あれ……? 赤ちゃんをお腹に入れたっていうの……!?」
鈴鹿が悲痛な叫びをあげる。
わずかに見える赤子の顔を見て、直感で、本能で理解する。
あれは、俺の子だ。
「ふふ、ふふふ! これより再誕の義を始める……。そこから僕の再誕を見届けてくれえぇっ!!」
恍惚とした表情の吉岡が、そう叫んだ。




