2.俺、この試合に勝ったら伊豆木さんに告白すr……ぶげっ!?
二重の意味で言っちゃダメな台詞である (-ノ-)/Ωチーン
迎えた試合当日。展開は下馬評の通りに初回から押され気味となり、いきなり五点と大量失点を許してしまった。実力差を痛感して諦めムードとなる中、優華は諦めるなっとばかりに声援を送り続けた。
「皆諦めるなー! まだまだこれからだよー!桜宮小ファイト!」
優華にとっては、この試合に勝ってもらった方が都合良いからだ。なにせ、試合に勝てば来週は決勝戦となる。そこで今日と同じ依頼を受ければ、単純計算で倍の収入が見込める。
完全に下心ありきの応援でも、勝ってほしいという想いだけは本物。
恥ずかしさなど微塵も感じさせることなく、先頭に立ってぴょんぴょんと跳ねながらスカートをひらめかせた。その姿を見た応援団長の美咲は「さすが優華ちゃん」っと関心しつつも、他のメンバーを促しながら前に出て、大きな声援を送る。
そこをキャプテンの大原翔太が一喝した。
「伊豆木さん達の言う通り、まだまだこれからだ!!」
その声に、六年生の鈴木健吾も副キャプテンとして続く
「俺達が勝つと信じてくれてる!その声援に応えないと男がすたるぞ!」
「負けてたまるか!今日も勝って来週の決勝でも……また伊豆木さんのチアガール姿をみるんだ!!」
「そうだ、あの伊豆木さんの手作りお弁当のためにも……逆転するぞ!」
「俺、この試合に勝ったら伊豆木さんに告白すr……ぶげっ!?」
どさくさ紛れで抜け駆け……いや、敗北フラグを立てようとした事で轟沈した上波和也君以外の野球部員たちの目に闘志の火がついた。勝てば来週の決勝戦でも優華のチアガール姿と手作りお弁当が楽しめる――その想いが彼らを奮い立たせた。
泥臭い守備、粘り強い打撃、執念の走塁。当初は弱小チームの無駄な足掻きと嘲笑っていた強豪の西山小も、次第に縮まる点差を前にして余裕ぶっこいてる場合ではないっとばかりに追加点を取る。だが、桜宮小の勢いは止まらない。七回裏にてキャプテンである翔太のヒットでついに同点へと追いついたのだった。
続くバッターの和也は抑えられてしまったものの、スコアは7対7。勝負はどちらに転ぶかわからなくなった。
「美咲ちゃんごめん、ちょっとお手洗いにいってくるね」
そんな中、優華は少しもよおしてきた事もあってか、そそくさとトイレに向かった。
用を足し、手を洗いながら鏡に映った顔を見る。
朝早く……より正確にいうと前日の下準備も含めた12人分のお弁当をこしらえ、当日はチアガールで応援だ。
少し疲労の顔を見せてるが、顔を洗ってパンっと顔を叩く。
「よし、残りは後二回!もうひと踏ん張りだから頑張ろう!!」
気合を入れ直してトイレを出たその時だった。
「むぐっ!?」
背後から突然、誰かの腕が彼女の体を締め付けてきたのだ。もう一方の手で口を塞がれ、声も出せなくなった。
「大人しくしろ!」
目の前にナイフがちらつく。突然の事で優華は動揺したが、慌てず冷静に周囲を見渡す。
(周囲は……誰も居ない。騒げば誰か来てくれるかもしれないけど、騒いだら……やっぱりこのナイフでグサーされるよね。なら、今は大人しく従った方が懸命か)
「わかりました。大人しくします」
優華は抵抗せず、両手を挙げた。
振り返った際にみた男の姿は、サングラスとマスクと帽子で顔を完全に隠した、典型的な犯罪者の格好だった。
男は優華を球場の裏手へ連れていき、古びた倉庫の前に到着した。
倉庫の扉を開け、優華を中へ押し込む。中は埃っぽく、使われていない資材が雑然と積まれていた。
男は倉庫にあった縄を手に取り、優華に命じた。
「両手を後ろに回せ」
優華は言われた通りに両手を後ろに回す。男はその両手首を不慣れな手つきで縛り始める。
(この縛り方……素人っぽいよね。縄の結び目が緩いから簡単に抜けられそう)
優華は内心で分析しながら、男の動きも観察した。男は彼女の両足も縛り、最後に口に布を詰めて猿轡をかけた。
「むぐぅ……」
試しに何か言おうとしたら、それは意味のないくぐもった声に変換されるだけだった。さらに身じろぎしても縄が解ける様子をみせてない、その様に男は満足したようだ。
「しばらくここにいろ。大人しくしていれば怪我はさせない」
男はスマホで一枚写真を取ると、倉庫の入口近くに座り込み、優華を見張り始めた。
普通の小学五年生の女の子なら、もうすでに泣き叫ぶんでのパニックの陥るところだろう。しかし優華は違った。慌てる事なく、冷静さを保っていた。
それもそのはず。
彼女の趣味は料理なのだが、それは対外的な評判をよくするための表向きの趣味。裏では縛られて監禁されるヒロインになりきるというアレな趣味を持っているのだ。
その趣味は姉の真理子に明かしており、時々『誘拐ごっこ』と称して姉に縛ってもらってるので、縛られる事には慣れていたのである。
さらにいえば、優華は単純に縛られるのが好きというわけではない。『縛られる等してピンチに陥ったヒロインに成りきる』のが好きなのであって、逆境から自力で脱出するヒロインにもなりきれるよう、縄抜けや鍵開けの技能をこっそり磨いているのだ。
つまり、優華の手にかかれば、雑な縛りならあっさり抜けれてしまうのである。
(でも、今の状況で抜けたらあの男にまた縛り直されるのがオチだよね。お姉ちゃん以外に迷惑かけないような状況だったらそれもいいけど、今は大勢に迷惑かけるから真面目にこれからどうするか考えよう……本当、なんでこんな楽しめないタイミングで誘拐なんかしてくれちゃってるのか)
内心でため息をつきつつ、優華は情報を集めるために倉庫内を観察した。出口は一つ──男が座っている正面の扉だけ。窓は高い位置にあるため、縛られてる今は脱出口として使えない。
次に男を見た。サングラスやマスクのせいで表情がみえないから年齢はわからないけど、落ち着かない様子をみせていることから、この手の犯罪には慣れてないようにみえる。
優華はゆっくりと体勢を変えた。わざとらしくも自然な動きで、チアガール衣装の短いスカートをずらし、その下のアンスコが見えるようにした。男の反応を窺うための小さなテストだ。
男は優華のアンスコをちらりと見たが、気まずそうに顔を背けた。その反応から、優華はある判断を下した。
(あたしの身体が目当ての変態じゃないみたい。だとすると……誰かの指示で動いてるだけの実行役かな?)
ならば、背後に「黒幕」がいるはずだ。誰が、なぜ小学五年生のチアガールを誘拐する必要があるのか?
(定石で考えるなら身代金目当て。でもあたしの家は貧乏だし、身代金だったらお金持ちの美咲ちゃんを狙うよね。なら次点での嫌がらせは、誰かに恨まれるような事やった覚えないし……あーもう、なんでこんなに頭使ってるのさ!!こういう分析はお姉ちゃんの役目で察しの悪いあたしがやるべき事じゃないってのに!!)
でも、今は姉である真理子が居ない。自分で考えて答えを見つけるしかない。今まで見聞きしたテレビや小説を参考にしてありえそうな筋書を探る。
頭からぷすぷすと煙が出てきそうなほどにフル回転させながら、誘拐監禁される理由を探ってると、倉庫の外から騒がしい音が聞こえてきた。遠くから叫び声がし、複数の足音が近づいている。男が慌てて立ち上がり、扉の方へ視線を向けた瞬間──
ガラッ!!
倉庫の扉が勢いよく開かれた。
ジャーンジャーンジャーン
「そこまでよ!」
「げぇ!関羽」
いろいろ混ざってるけど、気にしたら負けです(笑)




