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第3話 『遭遇』


「祝杯をあげるのに、相応しい店をピックアップしてくれ」


 学校からの帰り道。俺は大和と下校しながら、AIに店のピックアップを頼んでいた。

 だって今日、確実に秋月との距離が縮んだんだから。


『所持金、500円以内だとゴミ捨て場ぐらいしかありません』

「残飯を食えと⁉ いや、さすがにハンバーガーぐらいは行けるだろ‼」

『残飯バーガーをご所望ですね』

「誰がするか‼」


 スマホに思い切り怒鳴る俺を見て、隣を歩く大和が若干引いていた。

 やや早歩きになって離れて歩いてるし、なんか心の距離も置かれてる気がする。

 お前今朝、俺に親友とまで言ってたよな?


「ところでハル。秋月さんと一緒に帰らなくてもいいの?」

「いいのも何も……俺に約束を交わす度胸があるとでも?」

「……なんで爽やかな笑顔でそんなことが言えるのか、凄い疑問なんだけど」


 電車通学の俺たちは現在、電車を降りて徒歩で帰宅中だ。

 学校近くでも店を探したけど、大和と一緒にいると自動的に学校の女子に発見されそうだからやめた。だからこそ地元で店を探し中なわけだけど。


「もういつものガグナルドバーガーにしたら?」

「いや。特別な日だからこそ、もう少し豪勢に行きたい」

「いつもの味以上に安定して得られる幸せはないと思うけど?」

「……たしかにな。全財産500円をはたくんだ。変なものは食いたくないな」


 大和の提案を受け入れ、目指すは月に一度は行くガグナルドバーガー。

 祝杯としては些か不足だけど、どうせ炭酸は飲めないんだからどの店でも同じだ。

 こうなったら、ハンバーガーで乾杯と行こうじゃないか。


   ***


 地元で店を探し始めた時から少しだけ期待していた。

 もしかしたら、偶然会えるかもしれないと。


「大和とAI先生に質問。ナンパってどうやるんだ?」

「悪いけど僕、女の子を誘ったこと一度もないから」

『難破と失恋はどちらも沈没と言い表せます』

「うん……大和の解答は予想通りだけど、AI先生はいい加減にしろよ?」


 今にも液晶を割りそうなぐらい力強くスマホを握りしめる。

 いつもならこんなに怒らないけど、さすがに今回はなんて解答をしてくるんだ。


 俺たちが訪れた大手ハンバーガーチェーン店に、秋月とその友人の女の子がいた。

 二人で並んで窓際のカウンターに座り談笑している。どうやら、まだこっちには気づいてない様子だ。


「あの二人の近くで食べる?」

「いや、ちょっと待て‼ お前だけなら歓迎されるだろうけど……」


 果たして俺が声を掛けたとして、秋月はともかくその友人は何を思うだろうか?

 赤毛ポニテ少女の名前は、たしか赤森あかもり紅葉もみじだったか?

 秋月の関係者だってことでぼんやりと覚えているけど、俺の記憶が正しければイケメン以外の男子には厳しいタイプの女子だった。つまり俺が一番苦手とするタイプの女の子。

 そんな子においそれと声を掛けた場合、致死量の言葉のダメージは免れない。

 となると――


「よし、決めた‼ ここは当たって砕けろ作戦だ‼」

「作戦内容バレバレだね。じゃあ僕から声を掛け――」

「それには及ばない。あの二人には俺から声を掛ける」

「……珍しいね。女子の相手は基本、僕に任せるのに。もしかして秋月さんだから?」

「それもある‼」


 胸を張って力強く答えた。

 すると大和は首を傾げて。


「他にも何かあるの?」

「気にするな。別に大した理由じゃない」


 俺の男としてのプライドに賭けて言えるかよ。

 大和の次に出たら、期待をぶち壊しそうで怖いなんてこと……。


「そうと決まったらまずは買い物だ。大和はどれにする?」


 俺が店の自動ドアを潜ると、それに続いて大和も店の中に入ってくる。

 瞬間、女性店員さんたちの目が一瞬で大和に向けられていた。

 ……もう慣れたさ。この店のこういう態度にも……いっそ清々しいね。


「僕はあまりお腹が空いてないからポテトだけで」

「お前って本当、色々な意味で草食系だよな」

「そういうハルはどうするの?」

「俺はそうだな……ストロベリーシェイクとストロベリーチョコパイで」


 ハンバーガーショップに来た意味無っ‼


「たぶん今、俺とお前の気持ちが一つになったと思うんだけど?」

「僕もちょっとそんな気がする。どうする? お店変える?」

「いや、その選択が一番ありえないだろ。お前は俺にこの機会を逃せと?」


 街中――それも放課後に遭遇するなんて滅多に起きない大事件だ。

 それをスルーさせるとか。お前、人間じゃねぇよ‼


「わかったよ。なら僕は注文して商品を受け取って行くから、ハルは席の確保をお願い」

「任せとけ。……半日ぐらい掛けてゆっくりと秋月たちの近くに――」

「その間に食べ終わるよね? いる意味なくない?」


 相変わらず話の盲点を突いてくる。

 こいつには容赦ってものがないのか。


「少しだけ弱腰なのはいつものことだ」


 軽く首を捻って気合を入れる。

 同時に大和から500円と交換で鞄を預かり。


「いっちょやったるけん」

「うん。ハルならできるよ、たぶん」


 親友の微妙な声援を背中に受け、俺は店の奥へと進んでいく。

 今日は入学式だけということもあり、学校が終わったのは昼過ぎ。

 だからピークは過ぎているはずだが、まばらにお客さんはいるわけで。


 ……ほとんど奇跡だな。秋月たちがいるカウンター席に他の客がいないとか。


 自分の大和の鞄で顔の両サイドを隠して前進。

 間違いなく今、近くの客から好奇の目を向けられてるけど構うもんか。

 それぐらいこっちはギリギリなんだよ。


「……って何考えてるのか……わからない……」

「そんなこと……あれで結構……なんだよ」


 近づくにつれて聞こえてきた二人の会話。

 鞄で顔を挟んでいるため、内容は途切れ途切れだけど、どうやら第三者の話をしてるみたいだ。

 ガールズトークに登場するなんて、相当好かれてるのか相当嫌われているのか。どちらにしろ、半分だけ不憫なやつだ。ちなみにもう半分は、秋月の会話に登場しているという恨めしさである。


「――――」


 俺は二人の会話を盗み聞きしながら、無言のまま、右端に並んで座る二人から一番遠い左端に腰を下ろした。

 これでのちの『うわっ‼ すごい偶然だな‼ お前らも寄り道?』みたいな空気作りに繋げられる。

 いきなり声を掛けるのは無理でも、俺には今まで秋月と関わるために駆使してきた頭脳がある。それをキチンと活用すればこれぐらい――


「もっと真面目にやりなよ」

「――――ッ」


 鞄を顔に張り付けたまま座っていると、後頭部に激痛が走った。


「痛いぞ、大和」

「いや、さすがにふざけすぎだと思ってさ」


 鞄をカウンターに置いて軽く見上げると、そこには澄まし顔のイケメンが。

 こいつ、相変わらずブレねぇな。


「少しは親友の頭を攻撃したことを謝れよ。バカになったらどうする?」

「心配ないよ。それがハルのデフォルトだからさ」

「なんだと‼ つうか凶器はなんだよ‼ 地味に硬かったぞ‼」

「ああ。それなら、今僕が持ってるやつだよ」


 大和の持ち物は一つ。

 両手で持った緑のトレイだった。

 なお、上に乗ったフライドポテトが少しこぼれてる。たぶん、俺に攻撃した代償だ。


「まさかその角を使ったのか⁉ そもそも来るのが早すぎだろ‼」

「ハルがノロノロしてたんじゃない? 一人ハロウィンしてたし」

「誰が一人トリックオアトリート男だ‼」


 怒りのまま大和に詰め寄ろうとした。

 けれどそんな俺に対して、大和が小さく右側を示す。

 俺がその指先に誘われるまま、視線を動かしてみれば。


「――――」

「――――」


 二つのそれぞれ違う顔が俺たちを捉えていた。

 赤森の方は俺には敵意剥き出しで、大和には少し頬を赤らめて。

 秋月の方は大和には目もくれず、驚いたように俺だけを見ている。


 完全に大和のやつに謀られた。

 でも見つかったのなら、当初の計画を実行するまで。


「キグウダナ。オマエラモ、ヨリミチカ?」


 こうして、俺の棒読みセリフから奇妙な遭遇戦は開始された。


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