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リリアナ・アルファという女

皆様、ごきげんよう!

本日は、シュベルの騎士団視点の回です。

ゆるーく見ていってください。



 戦争国家シュベル、その最前線基地の朝は、鋭い金属音と共に始まる。

 地平線が白む頃、練兵場には一糸乱れぬ掛け声が響き渡っていた。

 そこにあるのは、侵略を企む悪はいない。己を律し、国を背負うという誇りに燃える「騎士」たちの姿だ。


『……腰が高いぞ。それでは重装歩兵の盾は崩せん。もう一度だ!』


 騎士団長リリアナ・アルファは、訓練場で泥にまみれる若手騎士たちの模擬戦を見守っていた。

 彼女の纏う真紅の鎧は、朝日を浴びて静かな闘志を放っている。


『は、はい! 団長!』


 若手騎士たちが、荒い息をつきながら再び剣を構える。


 彼らが流す汗は、お嬢様が「パン代」として投げ捨てる札束よりも、この世界では確かに泥臭く、そして切実な価値を持っていた。


『……良い。その気概を忘れるな』


 リリアナは小さく頷くと、兵舎の方へと歩を進めた。



 ◇◆◇



 通路の脇では、年古参の兵士たちが互いの鎧の継ぎ目を点検し合っている。


『団長、こいつの右肩のビスが緩んでやがりました。戦場で外れてりゃ、今頃首が飛んでたところです』

『まったくだ。助かったぜ、相棒。……この戦いが終わったら、故郷の娘に新しい靴を買ってやる約束なんだ。死ぬわけにはいかねぇからな』


 兵士たちの静かな笑い声が響く。

 そこには、明日をも知れぬ戦場へ赴く者たちの、確かな結束があった。


 食堂から漂ってくるのは、お嬢様が好むアールグレイの香りではない。

 麦を煮込んだだけの簡素な、だが栄養だけはたっぷりと詰まった戦時食の匂いだ。兵士たちは、その硬いパンを大切に噛みしめ、愛する家族や守るべき祖国へ想いを馳せている。


 リリアナは、その光景を静かに胸に刻んだ。

 彼女の肩には、この千を超える団員たちの「命」と「未来」が、重くのしかかっている。


『……清廉な騎士道こそが、我らの剣だ。不当な略奪も、卑劣な策も、我らシュベルには不要なものに過ぎない』


 彼女は独り、決意を新たにするように呟き、団長室へと歩を進めた。



 ◇◆◇



 団長室に着いたリリアナは、机の上に広げられた戦術地図を静かに見つめていた。

 使い古された地図には、幾多の戦場を潜り抜けてきた彼女の指先によって、無数の進軍ルートが書き込まれている。


『……補給線の維持が鍵となるだろうな。ならここの警備は最重要事項だろう』


 そこへ、一人の男が入室してきた。シュベル重装騎士団の副団長だ。彼は報告書を机に置くと、少しばかり楽観的な色の混じった声を出す。


『団長、最終確認をお願いします。……偵察部隊の報告によれば、侵攻先の敵国は未だに防衛体制すら整っていないようです。ギルドも足並みが揃っておらず、これでは「勝ち戦」になるのではありませんか?』


 その言葉に、リリアナは地図から視線を上げ、副団長を真っ向から射抜くような鋭い瞳を向けた。


『勝ち戦など、この世には存在しない。その慢心が騎士道を濁らせるのだ』

『……っ、失礼いたしました』


 リリアナは再び地図に目を落とし、静かに、だが熱のこもった声で続ける。


『我々の目的は弱者の蹂躙ではない。腐敗した秩序を正し、シュベルの正義を示すことだ。敵がどれほど準備不足であろうと、あるいはどれほどの軍勢で待ち構えていようと、私のやるべきことは変わらない。……私は、真正面から騎士道を貫くのみだ』


 卑劣な闇討ちも、品性のない毒霧も、彼女の辞書には存在しない。

 たとえ敗北が約束されていたとしても、彼女は背を向けず、正々堂々と名乗りを上げ、真正面から剣を交える道を選ぶだろう。それこそが、彼女を「赤の終焉」たらしめる、絶対的な誇りなのだから。


『奇襲や罠といった策は一切不要だ。我々は王道を歩む。……全団員に伝えろ。一糸乱れぬ進軍こそが、敵への最大の敬意であるとな』


 高潔な精神、揺るぎない覚悟。

 リリアナの言葉には、鋼のような重みがあった。



 ◇◆◇



 一晩に及ぶ不眠不休の準備が終わり、太陽は西の地平へと傾き始めていた。

 シュベル王国の巨大な城門の前。そこには、一万を超える重装騎士たちが、一糸乱れぬ隊列で静まり返っていた。

 燃えるような夕日に照らされた彼らの鎧は、刻一刻と深まる闇の中で、まるで猛烈な闘志を具現化したかのように、輝いている。


 ――だが、あたりは静寂に満ちている。


 数万人もの人間が集まっているとは信じがたいほどの沈黙が、その場を支配していた。

 聞こえてくるのは、時折響く軍馬の低いいななきと、荒野を吹き抜ける風の音だけ。

 兵士たちの瞳には、愛する家族や安穏な日常を振り切った者だけが持つ、鋭くも静かな「覚悟」が宿っている。


 そこへ、カツ、カツ、と重厚な金属音が石畳に響く。


 リリアナが、数多の視線を一身に浴びながら最前列へと歩み出た。

 彼女はゆっくりとした動作で、幾多の戦場を共にしてきた愛剣を腰の鞘へと差し込む。


 彼女が振り返る。

 夕日に縁取られたそのシルエットは、まさに「赤の終焉」の異名に相応しい、絶対的な強者の威容そのものだった。


『……時が来たな』


 短く、だが地を這うような重みのある一言。 

 リリアナは、並み居る一万の騎士たちを一人残らず射抜くような鋭い視線で、ゆっくりと全軍を見渡した。

 彼女が口を開くと、その通る声は夕闇を裂き、広場に集まった者たちの心臓を直接掴むかのように響き渡る。


『全団員よ、聞け! 我々は略奪者ではない、シュベルの誇りそのものだ! 敵がどれほどの混乱に陥っていようと、卑劣な策に頼らず、真正面から我らの正義を証明せよ!』


 その言葉に、騎士たちの背筋が一段と伸びる。

 リリアナは愛剣を抜き放ち、残照を反射する切っ先を天へと掲げた。


『恐れるな! この私が居るのだ! このシュベルに負けは無い! ……全軍、進め!!』

「「「「おおおおおおおーーーーっ!!!」」」」


 地を割るような勝鬨が上がり、リリアナの真紅のマントが風に爆ぜる。

 彼女の合図と共に、重装騎兵たちの蹄の音が、大地を激しく揺らす地鳴りとなって響き出した。


 一糸乱れぬ鉄の軍勢。

 彼らは信じている。自分たちの歩む道こそが正義であり、その先に待つのは輝かしい勝利であることを。


 背後に広がるのは、彼女たちが守り、そしてこれから拡大せんとするシュベルの平穏。

 一方で、彼女たちが進む先にあるのは、平穏を札束で叩き売り、地形を更地へと書き換える「黄金の天災」が待つ地。

 対照的な二つの運命が、今、夕闇の中で交差しようとしていた。



ここまでお読みいただき、ありがとうごさいます。

さて、第三章が始まりますよ。更新頻度?期待はしないでください……

面白いと思っていただけたら、星やレビューやリアクションで応援してくださると嬉しいです。

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