表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/36

国家防衛イベント『シュベルの戦い』

皆様、ごきげんよう!

本日は、第一回・国家防衛イベント『シュベルの戦い』の回です。

ゆるーく見ていってください。



硝煙と熱波に包まれた戦場から、優雅にリゾート地へ帰還したセシリアご一行。

 真っ白なパラソルの下では、セシリアはティーテーブルで優雅にお茶を楽しんでいた。


「ふう……やはり空気が綺麗になると、お紅茶も一層美味しく感じられますわね」


 セシリアは、最高級のボーンチャイナに注がれた琥珀色の液体を口に運び、満足げに目を細めた。彼女のドレスは、あれほどの激闘を経たというのに、埃一つ、塵一つすらついていない。


「お、お嬢様ぁぁぁ!! 全然美味しくないですよぉ!  胃に穴が開きそうですってばぁ!!」


 対照的に、メイドのモカは、震える手で電卓を叩きながら絶叫していた。その液晶に表示された数字は、もはや一般人の理解を拒絶する桁数に達している。


「さっきの『お掃除』で使った特注黄金魔導弾の経費、計算したんですぅ!私の給料に換算したら、千年分を軽く超えてるんですよぉ!?どんだけ撃ち込んだと思ってるんですかぁ!?」

「あらあら、モカ。相変わらず数字に細かいですわね」


 セシリアは、扇子で口元を隠しながら、くすくすと上品に喉を鳴らした。


「たった一億ゴールドほどでしょう? 淑女の身嗜みを整えるための、必要経費ですわ。……そうですわね、平民の方々で言うところの『パン代』程度ですわよ」

「どんな高級なパンを食べるつもりなんですかお嬢様ぁぁぁ!? 大陸中の小麦を買い占めてもお釣りが来ますよぉ!」


 モカが頭を抱えてのけぞる横で、シラヌイはどこから取り出したのか、大きな酒瓶を片手にケラケラと笑っていた。


「まぁ、よいではないかメイドさんや。お嬢様の『お掃除』は、派手で見ておるだけで清々しいぞ。何より、この美しき更地を眺めながら飲む酒は、格別に旨い。のう、お嬢様?」

「えぇ、シラヌイ様。わたくしの美学をご理解いただけて光栄ですわ」


 更地を吹き抜ける風が、セシリアの黄金の縦ロールを優雅に揺らす。


 そんな穏やかなティータイムの静寂を破ったのは、空中に浮かび上がったアイザックのシステムメッセージだった。


【通達。リゾート地境界線付近に、未確認の集団が接近中。……解析完了。以前解散させたはずの『セシリア対策委員会』の再結成、および武力行使を目的とした侵攻を確認しました】


「ひぃぃ!?  対策委員会ぁ!?  あの『お嬢様のやりすぎを阻止する会』の生き残りじゃないですかぁ!  しかも攻め込んできてるって……お嬢様ぁ!  どうするんですかぁ!?  どうせまたガトリングで地形ごと更地にするんでしょう!?  どうせ金の暴力ですよねぇ!!」


 モカがティーカップをひっくり返しそうになりながら、あらん限りの声で絶叫する。遠くの地平線からは、怒号と共に砂煙を上げて突進してくるプレイヤーたちの姿が見え始めていた。


「あらあら、せっかく綺麗にして差し上げて、わたくしの別荘を建てる準備をしていましたのに……本当に、懲りない方々ですわね」


 セシリアは、ティーカップをソーサーに置くと、面倒そうに溜息をついた。その瞳には、敵としての敬意など欠片もなく、ただ「掃除の邪魔をする羽虫」を見るような色しかない。


「アイザック。わざわざあのような方々にお相手して、わたくしの喉を枯らすのは無粋ですわ。……あの方々に『迷惑料』として、一人あたり一億ゴールドほど、お配りして差し上げて」


【了解。……『セシリア対策委員会』に所属している全ての人物の口座に、一括で『迷惑料』を振り込みました】


 直後。地平線から響いていた怒号が、嘘のようにピタリと止まった。

 突進していたプレイヤーたちが、一斉に立ち止まり、各々のシステムウィンドウを凝視して固まっている。


『は、はぁ!? 嘘だろ……本当に、本当に所持金が一億ゴールド増えてるぞ!?』

『待て、俺の年収の何倍だよこれ!? 倒すより貰う方が、圧倒的に効率が良いってどういうことだよ?!』


 先ほどまで殺気立っていた「委員会」の面々は、一人、また一人と吸い込まれるように街の方向へと引き返していった。


「ええ、これで静かになりましたわ。一億ゴールドで平穏が買えるのですから……実にお安いものですわね」

「あぁ、今度は買収のほうでしたかぁ……じゃないですよぉ?!お安くないですってぇ!?  解決方法が力技すぎて逆に怖いですよお嬢様ぁぁ!!」



◇◆◇



 突然、全てのエリアの空にシステムメッセージが浮かび上がる。

 見上げた空に浮かぶ巨大なシステムウィンドウには、こう書かれていた。


【警告:他国からの宣戦布告を確認。第一回・国家防衛イベント『シュベルの戦い』開始まで、残り三日】


『はぁ……!?どういうことだよ?!』


 王都の広場にいたプレイヤーの一人が、震える声でウィンドウを指差した。

 その場にいた者たちの顔からは、瞬く間に血の気が引いていく。


『嘘だろ……? シュベル王国って、あの、数多の戦争を仕掛けて一度も負けたことがないっていう……あの「戦争国家シュベル」かよ!?』

『無理だ、防衛なんてできるわけがない! 相手は最強の戦闘集団だぞ!?』

『終わった……この国、滅ぼされるぞ……!』


 絶望の波が広がる中、王都の片隅にあるギルド『乾杯同盟』の溜まり場でも、同じウィンドウを見上げる面々がいた。


「……はぁ!? シュベルって、あのシュベルかよ! マジかよ、ふざけんなよ!」


 カインが椅子から転げ落ちんばかりに身を乗り出す。その横で、バッカスは低く唸りながら腕を組んだ。


「これは……なかなかに骨が折れそうだな。あの重装騎士団を相手にするとなれば、並大抵の準備では足りんぞ」

「これ、結構面倒なことになりそうやな。報酬は良さそうやけど、命がいくつあっても足りひんわ」


 ラックが溜息をつく中、隣でマイペースにジョッキを傾けていたイグニスが、場違いなほど暢気な声を上げる。


「なんか考えるのめんどくさいなぁ……よし、とりあえず乾杯しない? 景気づけにさ!」

「そんなことしてる場合かよ!!」


 カインのツッコミが虚しく響く。


 三日後。この王国は、最強の戦争国家に攻め込まれる。皆、その事実に頭を抱えるしかなかった。

 ――とある、お嬢様達を除けば。



 ◇◆◇



 王都の混乱など露知らず、リゾート地の更地には、再び優雅なティータイムの静寂が戻っていた。

 セシリアの目の前には、先程のシステムウィンドウが浮かんでいる。


「『シュベルの戦い』……? あぁ、あの戦争国家シュベルですわよね。騎士団は精鋭揃いだと、小耳に挟んでおりますの」


 セシリアは、まるで週末の観劇の予定でも確認するかのように、さらりとその名を口にした。


「ひぃぃ!?  お嬢様、さらっと言いますけど、相手はあのシュベルですよ!? しかも、その騎士団を率いているのは『赤の終焉』の異名を持つリリアナ・アルファですよぉ?! というか、お嬢様ってシュベルのこと知ってたんですね!?」

「淑女に対して失礼ですわよ、モカ。わたくしも無知ではないのですわよ? 礼儀作法の一つとして、排除すべき『大きなゴミ』の名前くらい、嗜みとして覚えておりますわ」


 セシリアは、扇子をパサリと閉じると、不敵かつ優雅な微笑みを浮かべた。その瞳は、強敵への恐怖など微塵もなく、ただ「大規模な清掃作業」を前にした高揚感に満ちている。


「まぁ、たとえ攻め込んでくる敵があのシュベルだろうと、妾たちのやることは一つだけ……そうであろう?」


 シラヌイが酒瓶を置き、面白そうに目を細めてセシリアを促す。


「えぇ、シラヌイさん。その通りですわ。……汚い軍靴でわたくしの庭を汚そうなど、万死に値する無礼。あの方々、全員まとめて『お掃除』してやりますわ!」


 セシリアは立ち上がり、地平線の彼方を見据えて高らかに笑い声を上げた。


「おーっほっほっほ!!  さあアイザック、次の予算は……そうですね、十兆ゴールドほど用意しておいてくださいまし!」


 狂気と黄金の輝きを孕んだ笑い声が、更地となったリゾート地に響き渡る。


 戦争国家シュベル――彼らはまだ知らない。自分たちが「敵」としてではなく、単なる始末すべき不燃ゴミとして、一兆分の一の誤差もなく「お掃除」される運命にあることを。




ここまでお読みいただき、ありがとうごさいます。

ひっさびさの更新となりました。お待たせして大変申し訳ございません。不定期更新となりますが、気長にお待ちください。

次回「リリアナ・アルファという女について」

面白いと思っていただけたら、星やレビューやリアクションで応援してくださると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ