最前線でお茶会してたらイベント開始してましたわ
皆様、ごきげんよう!
本日は、国家防衛イベント開幕!の回です。
ゆるーく見ていってください。
国家防衛イベント『シュベルの戦い』開始まで、残り五分。
王都を守る城壁の前には、かつてないほどの緊張感が漂っている。
防衛ラインに並ぶプレイヤーたちの顔は一様に蒼白く、勝ち目のない戦いに怯えている。
その最前線――最も過酷な激突が予想される地点を任されたのは、ギルド『乾杯同盟』の面々であった。
「おいバッカス! 敵の本隊は一万を超える重装騎士なんだぞ! 迎撃態勢はどうなってんだ! 配置の最終確認をしろよ!」
カインが、胃薬を持ちながら叫ぶ。その横で、ギルド長であるバッカスは、事もなげに豪快な笑い声を上げていた。
「がっはっは! カイン、心配性だな! 準備は万端だぞ。ほれ、冷えた酒樽も予備を三つ用意しておいた!」
「自分たちの飲み会の準備じゃねーか!! 迎撃用の資材を確認しろって言ってんだよ!」
「がっはっは! 勝利の美酒がなくては、戦う力も湧かんだろう?」
絶望的な戦力差を前にしても、バッカスの陽気さは揺るがない。そしてその背後でも、さらなるカオスが進行していた。
「ねぇ、とりあえず火薬をそこら中に、敵が通りそうな道から味方の足元まで埋めといたけど……え?ダメなの? ……えっ、俺って頭おかしいの!? ねぇなんでみんな引いてるの!?」
イグニスが、目を輝かせながら自爆用のスイッチを弄っている。
「あーあ、シュベルの『赤の終焉』に正面からぶつかって生き残れる確率、俺の計算やと0.001%やわぁ。……なあ、それって最高にスリルあって楽しみやなぁ! ぐちゃぐちゃにされる前に一発かましてええ?」
ラックが、死地を前にして不敵な笑みを浮かべていた。
統率が取れたあちらに対し、こちらはあまりにも無秩序。
「終わった……この国、本当に終わったんだ……」
周囲の一般プレイヤーたちは、最前線を守る彼らのやり取りを聞いて、より一層深く絶望の淵に沈んでいく。
非情にも、カウントダウンの数字が削られていくばかり。
圧倒的な戦力を前に、誰もが「敗北」の二文字を覚悟している。
――その時だった。
「皆様、何をそんなに険しいお顔をなさっていますの? 淑女の美肌に障りますわよ」
薔薇の香りを纏い、優雅に扇子を広げて現れたのは、セシリア・フォン・ローゼンブルクであった。
「ひぃぃ!? お嬢様ぁ! 皆さん今、真剣に死ぬ覚悟を決めてるところなんですから、邪魔しちゃダメですってお嬢様ぁ!!」
モカがいつものように情けない悲鳴を上げながら、セシリアのドレスの裾を必死に引っ張る。だが、セシリアはどこ吹く風で、戦場の惨状を眺めていた。
「メイドさんや、落ち着け。お嬢様には、この場を誰よりも平和に解決する『とっておきの妙案』があるそうじゃぞ?」
シラヌイが面白そうに目を細めてカインたちを見やる。
「ええ、そうですわ。皆様がそのように青いお顔をなさる必要はありませんのよ。私が、この場所を世界で一番安全で、世界で一番エレガントな場所に作り替えて差し上げますわ」
「はぁ!? お嬢様、相手はあの『赤の終焉』リリアナだぞ!? 平和に解決って、金で買収でもする気か?!あいつが金で靡かないことは知ってるだろ?!」
カインが絶望のあまり半笑いでツッコミを入れるが、セシリアは余裕の微笑みを崩さない。
「いいえ、カイン様。今回は、私のとっておきの妙案を出す時ですわ!それに、買収は少しばかり退屈しておりましたの」
セシリアは、兵士たちが必死に土嚢を積み上げている防衛拠点の中で、最も視界が開けた、いわば敵から最も狙われやすい場所を優雅に指差した。
「皆様、防衛というのは、耐え忍ぶことではなく『おもてなし』をすることですわ。あそこの見晴らしの良い場所に、わたくし専用の黄金ガゼボを設営しますわ」
そのあまりに突飛な提案に、カインは白目を剥きそうになりながら叫んだ。
「はぁ!? そんなの的になるだけだろ!? 敵の弓兵や魔導師に『ここを狙ってください』って言ってるようなもんじゃねーか!」
だが、セシリアは扇子で口元を隠し、鈴が鳴るような声で笑う。
「いいえ、あれは『清掃の拠点』ですわ。あそこから見えるものすべてを、一兵たりとも逃さず、エレガントに磨き上げる拠点……。アイザック、早速設営の準備を」
【了解。とっておきの妙案及び、作戦『淑女の嗜み』を開始します】
アイザックの無機質な声が響いた直後、王都の防衛線のど真ん中、本来なら最前線となるはずの場所に、凄まじい光が収束した。
地面が黄金色に輝き、地響きと共に、純金と大理石で彩られた巨大で豪華なガゼボが、物理法則を無視した速度でせり上がっていく。
「ちょっと待ってくださいお嬢様ぁ! あんなキラキラした建物、戦場じゃ目立ちすぎて逆に怖いですってば! でもこの光景を見慣れちゃった私が一番怖いですぅ!!!」
モカがガクガクと膝を震わせる中で、ガゼボの周囲には瞬く間に「不可視の防護結界」が展開されていく。それは防御というより、お嬢様のお茶会に「埃ひとつ入れない」ための、過剰なまでのシールドであった。
「あら、素敵な見晴らしですわ。シラヌイさん、お茶の用意をしてくださるかしら?」
「カカッ! 承知した。これほど広大な戦場をお掃除するのじゃ、喉も乾くからのう」
呆然と立ち尽くす乾杯同盟の面々を余所に、ガゼボの中には最高級のソファとテーブルがセットされ、戦場は一瞬にして「超上流階級のサロン」へと変貌を遂げた。
「……なぁ、カイン。俺、酒飲みすぎて幻覚見てるのか? あそこに豪華なソファが見えるんだが」
バッカスが、手にした酒瓶を二度見しながら、震える声で呟いた。
「いや……俺にも見える。あのお嬢様、あのバカみたいにキラキラしたガゼボの中でスコーンを口に運んでる……」
カインは、あまりの心労に胃を押さえ、その場に膝をついた。もはやツッコミを入れる気力すら、黄金の輝きに吸い取られてしまったようだ。
「……これ、爆弾とか設置する意味ある? あのお嬢様自身が、歩く核兵器みたいなもんじゃん。」
イグニスが、自分の抱えていた火薬樽をそっと地面に置く。専門家の彼から見ても、ガゼボから漏れ出す魔力の密度は異常だった。
「これ、生き残る確率0.001%どころか、あのお嬢様が暴れ出したら、俺らの戦う場所すら残ってへんのとちゃうか?運ゲー以前の問題やなぁ……」
ラックが乾いた笑いを上げ、絶望と期待が混ざったような顔で黄金のガゼボを見つめる。
一万の敵軍を前に、味方の精鋭ギルドを戦意喪失(というか呆れ)に追い込むお嬢様。
戦場は戦いの場ではなく、お茶会の場として改変されてしまったのだ。
◇◆◇
地平線の彼方から、大地を震わせるような咆哮が響き渡った。
夕闇を切り裂き、シュベル騎士団の先遣隊が姿を現す。その数は一千、二千……いや、後続を含めれば一万に迫る圧倒的な鉄の奔流。
先頭に立つのは、「赤の終焉」リリアナ・アルファ。その瞳には、揺るぎない正義と、王都陥落への不退転の決意が宿っていた。
その時、全プレイヤーの視界にシステムメッセージが展開される。
【イベント開始まで、10……9……8……】
王都側のプレイヤーたちが恐怖に息を呑む中、防衛線の中心に建つ「黄金ガゼボ」の中だけは、別世界の静寂に包まれていた。
セシリアは、シラヌイが淹れたばかりの茶を一口啜ると、満足げにカップをソーサーへと戻した。
「……3」
セシリアは立ち上がり、ドレスの裾を整えながら、ガゼボの柱に偽装されていた黄金のガトリング砲へと手を伸ばす。
「……2……1」
モカが「もう嫌だぁぁぁ!」と椅子を盾にして縮こまり、カインが「来るぞ……!」と剣を強く握りしめる。
「……0」
【国家防衛イベント『シュベルの戦い』開幕】
システムメッセージが弾けるのと同時に、セシリアは地平線を埋め尽くす赤い軍勢を見据え、朗らかに告げた。
「……さて、大掃除の始まりですわ。――まずは、あの先頭の方から消えていただきましょうか」
ここまでお読みいただき、ありがとうごさいます。
久々に見たら前回の更新から1ヶ月立ちそうでした。さすがに更新しなさすぎる。
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