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少女とスライム、テイマーを目指して  作者: 上辻樹
第三章「スリーピー・ホロウ」
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アレを倒せ


セリスは、目には見えない大きな流れを感じていた。

研鑽のため、グレイに学ぼうと思った。

テイマーに関することだけじゃなく、物事の考え方や、見方を学ぶつもりだった。

アリシアが自分とは大きく違う視点を持っていることは感じていた。


しかし、二人の関係を見て悟った。

正確には、コミュニケーション――その意思の通じ方だ。


二人の関係はまるでテイマーと魔物。

最低限の指示で意図をくみ取る。


アリシアは何を見ても、見たこと以上のことを感じない、考えない。

直感と対処だけを重点的に思考する。


とてつもなく重厚な魔力を纏う、紫紺色の鎧騎士。

首がないことが不気味だが、そんなことよりもこれがエルネスト先生のクローカーとは似ても似つかないことが気にかかる。

セリスの知っているクローカーはもっとずんぐりむっくりの、灰色の鋼鉄の四角い巨人だ。


「クローカー、なのよね?」


セリスが聞くと、アリシアは頷く。


「たぶんそうです。動きが似ています」


「似ている? 匂いだって全然違うのに……」


今は濃厚なセイレーンリングの匂いが感じられる。

それはあのアイアンゴーレムからは感じられなかったものだ。


「二人とも、話はそこまでだ。アレを倒せ」


「はい」


「……わかったわ」


その指示の裏を読む。

倒せということは、手伝わないということだ。


クローカーの、というより、エルネスト先生の噂は聞いている。

昔は防人という組織に所属していた武闘派で、テイマーとしても一流だったと聞いた。


「どうする? まだ相手の能力もわからないわよ?」


「そうですね。戦いながら考えます」


「……本気、なのよね。わかったわ。でも私はそこまで器用じゃないから、防御と回避を重視させてもらうわ」


「わかりました」


方針は決まった。

その直後、クローカーがゆらりと身を屈めるように動く。


――直感だった。

セリスが倒れ込むように地面に伏せると、その頭上を剣の横薙ぎが突風のように通り過ぎた。


今理解したのは、クローカーが完全にコントロールを失っていることだ。

でなければ、躊躇なく切りかかってはこないだろう。


そしてその直後。

クローカーの身体が大きく跳ね飛ばされた。

それがアリシアの攻撃だったと遅れて理解する。


そして空中に跳ね飛ばされたクローカーに高速で射出された水の光線が追撃をし、全く対応できずにきりもみに回転して地面を二転三転しながら、クローカーは転がった。


膝をつき、起き上がろうとしたところで、すでにアリシアは頭上まで迫っていた。

背中へラピスを押し当て、水による衝撃を発生させて、地面へとめりこませる。

衝撃で地面がひび割れ、その余波でセリスは体勢を崩した。


(なに、今の。この子、本気で戦うとこんなに強かったの?)


試合で見た時は、手加減をしていたのだろう。

相手の生死を問わないのであれば、本来ならばこれくらいのことが可能なのだ。


「妙ですね」


アリシアが独り言をこぼす。


「クローカー、あなた、もしかして、違うんじゃないですか?」


「違う?」


セリスの問いに、アリシアは視線を向けることなく答える。


「先生のクローカーって、これくらいは避けるか防御ができると思うんですよね。勘ですけど。だから、違うのかなって」


「違うって、何が……」


クローカーが微かに動いたかと思うと周囲に白い鉱石が漂い始める。

それを見て、セリスも気がつく。

普段はこれを身体に纏わせて、あのアイアンゴーレムとしての姿を保っていたのだろうと想像がついた。


しかし、なぜ、と疑問が残る。

今のクローカーの姿を隠す理由がわからない。


「やっぱり、今ので倒せるとは思っていませんでした。私やラピスよりも魔力の量がとても多いですよね。それに、衝撃を和らげるために、攻撃を受ける直前にこの石の壁を作っていましたね」


「賢すぎるわね。確かに、これはただの魔物の戦い方じゃない。明らかに人間の意思がある」


まるでテイマーに操られているようだ。

彼は人型の鎧だが、頭がないのはなぜなのだろう。

それは生き物としての自由がないということなのではないだろうか。


思考を高速で巡らせながら、自身の父親のことを思い出す。

あの時、父がどうやって家族を襲ったか。

父はテイマーだった。

相棒は少し大きめのオオカミだった。

あの時、そのオオカミが、まるで狂犬病にでもかかったかのように、正気を失い、次々に人を襲った。


(セイレーンリングは、魔力を乗っ取る。だから、魔力で繋がるパートナーの魔物にもその影響は作用する。そこまではわかる)


だが、何が違うのだろう。

アリシアの覚えた違和感の正体を言語化しなければ、正体に迫れない。


クローカーの動きは人間に近いものだった。

そこにヒントがあるのではないか。


「――え、もしかして」


嫌な想像が脳裏をよぎる。


「アリシア! ストップ! クローカー! あなたも!」


セリスの言葉に、両者の動きが止まった。

やっぱり、言葉が通じる。


「入れ替わりよ、これ! クローカーはエルネスト先生なんだわ!」


「どういうことですか!?」


「テイマーとパートナーは基本的には主従関係がある! 命令には従うという原則がある! だから、エルネスト先生は――ああもう! ややこしい! とにかく! その鎧騎士はエルネスト先生! 操っているのがセイレーンリング!」


セリスは言いながらグレイの方を見る。

彼は満足そうに笑っていた。


「ほぼ正解だ。よくたどり着いたな」


「なんでそんな態度!? そんなことより!」


「ああ、あっちの『エルネスト』だろ? そっちは心配すんな」


グレイが不敵に笑う。


「何を言って……」


「俺でもどっちが本物かはわからねえんだよ。だから今回は手が必要だった。アリシアだけじゃわからなかっただろうな。本物に遭遇したことのあるお前だからたどり着いた答えだ。よくやった。さて、ここからは俺の仕事だな」


そう言って彼は閉じていた魔力を開く。

激しさはない。

ただ、穏やかな流れの大河のような魔力だ。


「少し休憩しよう。アリシア、そいつ縛っとけ」


アリシアは少しムッとしたあと、ラピスを細いヒモ状にして、クローカーの手足を縛った。


「セリス、セイレーンリングってのは厄介でな。装着すると、テイマーの完全な人格と記憶を持った存在が複製されるんだ。片方は人間の身体に残り、リングの目的意識──生存本能のようなものだな──を、埋め込まれる。そしてもう片方はパートナーの魔物に移される。こっちには何も手を加えられないが、魔物の元の人格は上書きされて消える」


「え、それって……」


「ああ。今までのテイマーとしての記憶を持ったままの魔物が、自分の意思に反して虐殺を命令される。そして徐々に何も感じなくなっていくんだ。自分自身に疑問を持たなくなる。地獄だろうな」


思い返してみれば、確かに父はオオカミを使ってみんなを襲っていたような気がする。


「魔物になった方も自分自身が隣に存在していたら、その瞬間だけは異常事態を察知できるが、すぐに精神が肉体に引っ張られて、時を待たずに魔物へ変わる。人間の記憶と知能が移ったとしてもそれを維持する方法はないしな……。リングは人間の方の人生の続きを乗っ取る。人を操るってのはそういうことなんだ」


「でも、エルネスト先生は先生をやってましたわよ……?」


「言ってみれば、ままごとだ。リングに教師をやる理由はない。学校で次の標的を探してたのかもな。まあ、これは特殊なケースだ。エルネストだけの力じゃなくて、周囲のサポートもあった。つっても、この辺はプライベートな問題だ。あまり俺の口から聞かせることじゃない」


そう言うと、セリスは空に何かの気配を感じた。

姿はないが、風を切る音がかすかに聞こえる。

そして突如、上空から何かが落ちてきた。


「あとは本人に聞こうじゃねえか」


――落ちてきたそれは、両足の折られたエルネストだった。

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