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少女とスライム、テイマーを目指して  作者: 上辻樹
第三章「スリーピー・ホロウ」
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どういう人なの?


――収穫祭の三日前。


明確に開始の合図がないのならば、いつを始まりと定義するのだろう。


すでにアストレイアの大通りはこれ以上ないほどに賑わっていた。

飾り付けも終わり、露天商が色々な種類の果物や野菜を並べている。

遠くからやってきて外国の陶器や装飾品を売っている商人もいるようだった。


アリシアは準備の時からずっと町を見て歩いていたが、毎日新しい発見がある。

そしてやはり、確信めいたものも感じていた。


幼いころに、この町の、この景色を見たことがある。

それは両親との数少ない記憶。

色も匂いもすっかり褪せてしまっているが、確実に知っている。


「――急に立ち止まってどうしたの?」


セリスが不思議そうに顔をのぞき込む。


「……いえ、両親のことを思い出していました」


「来たことがあるって言ってたわね。どう? そのころとは違う?」


「そこまではっきりとは覚えていませんよ。でも、懐かしさは感じます」


町の雰囲気がじんわりと心に染みて暖かくなる。

それを見たセリスが、少し冷ややかな表情を見せた。


「そう、良いわね。少しうらやましいわ」


「すみません。浮かれすぎました」


「なんで謝るのよ。別に悪いって言ってないじゃない。あなたはあなたの思い出を大事にしなさい。私がそれをうらやましいと感じるのは、あくまで私の事情で、私の勝手よ」


セリスの強がりも理解できるが、それはそれとして、気まずさは感じる。


「えっと……、セリスさんはご家族でこういうお祭りに行ったことはあったんですか?」


「あったけど、ここまで立派じゃないわ。小さな領地だったしね。両親も真面目だったから、参加は義務のような雰囲気があったわ。とてもじゃないけど、楽しむなんてことはなかった。だから決して楽しい思い出なんかじゃない。でも、それも私の思い出なのよね」


そう自問自答して、セリスはふう、と小さくため息をついた。


「そんなことより、私はこの時間を楽しむことにしたのよ。過去の私よりも今の私の方が大事だし。そんな私の思い出のために、暗い顔はやめてよ?」


「わかりました。私が楽しむことが、セリスさんのためにもなるってことですね」


「そういうこと!」


セリスが満足げにニコッと笑う。

アリシアもそうだが、セリスも家族の話をする時はわざと明るく振る舞う。


そうしないと周囲が気を遣うからだ。

アリシアもこの数ヶ月で彼女と周囲の距離感からそうした空気を感じていた。

身元を隠すには遅すぎたのだと、彼女は言った。


しかしながら、彼女が今を楽しもうとしているのは、本音なのだろうと思える。

アリシアが心置きなく楽しめるよう気を遣っているわけではなく、彼女も一緒に楽しもうと本気で言っているのだろう。


過去は変えられない。

思い出は未来にしかない。

アリシアがそう考えるようになったのは、セリスの影響も少なからずあるだろう。

セリスもそう考えているかは、知らないが。


しばらく歩いていると、知った顔を見かけ、アリシアは「あ」と声をあげる。


「――おじさん!?」


「よう、久しぶりだな。そっちのは友達か?」


露天商の並びの中に、大きな眼帯をしたグレイが座っていた。

並んでいる商品は何の変哲もない指輪やネックレスなどの装飾品だ。

宝石や複雑な意匠もなく、本当にどこでも買えそうな品物だった。


「はじめまして。私はセリスと申します。アリシアさんの学友として共同生活をさせていただいております」


「あー、寮の部屋か。はじめまして。俺はグレイだ。よろしくな」


「まあ、それでは、あなたがアリシアの師匠の方なのですか?」


「師匠だなんて立派なもんじゃねえよ。――アリシア、学校は楽しいか?」


「はい。通わせてくれて、本当に感謝してます」


ずっとお礼を言う機会がなかったために、ここで会えて、胸につっかえていたものがとれた気がした。


「礼は卒業してからにしてくれ。それより、二人はこの祭りで何か買ったのか?」


「いえ、まだ何も。見て楽しんでるだけです」


「それはもったいないな。出会いってのは一期一会だぞ。昨日見た品物が今日ないなんてことは日常茶飯事だ」


グレイは自分の商品を指さしながら、冗談めかして言う。


「そんなことで買い物をしていたら、部屋がいくつあっても足りませんよ」


「お前は変わらないな。倹約家っていうか、ケチだな」


「もう。本当に必要なものは買いますから、放っておいてください」


「いいや、お前は必要でないものを知る必要がある。ちょうどいい、お前ら別行動してお互い相手にプレゼントを買ってみるのはどうだ? もちろん、中身は内緒で。最終日に交換するのなんて、盛り上がるぞ」


また変なことを言い出した、とアリシアが呆れていると、それを聞いたセリスが手をパンと鳴らす。


「それは素敵な考えですわね! 予算はどのくらいにいたしましょう!?」


「そうだな……。あまり高価なものでも仕方ないからな。この銀のネックレスを基準にするのはどうだ? 学生が頑張って買うくらいの値段だが、年に一回の祭りで買うには相応しいだろう」


「承知いたしました! アリシア、よろしいわね!?」


「ええ……。まあ、わかりました。やります」


「まあ、どうしてそんなに嫌そうなのかしら……?」


「グレイさんが何を考えてるのかわからないからです。セリスさんへのプレゼントを選ぶことには賛成してますよ」


「では、贈り物勝負と参りましょう。負けませんわよ」


「勝負なんですか? これ」


困惑の表情をグレイに向けると、彼は腹が立つくらいわざとらしい真面目な顔で深々と頷く。


「勝負だろ。センス対決だ」


「……嫌な人。セリスさん、まだ日もありますから、今日はゆっくり回りましょうよ」


「いえ、出会いは一期一会。そうですわよね? 今日からもう品定めをしておかなければなりません。なので、私は失礼します。グレイ様、まだこの町には滞在されるのですか? 私もお話を伺いたいことがたくさんあるのですが……」


「ああ、祭りの間はいるよ。今日の夜、良かったら一緒に飯でも食うか?」


「よろしいのですか? お二人も久しぶりに会ったではないのですか?」


「いや、こいつ、多分この挨拶の後はもう会う気ないぞ」


考えていたことを見透かされ、アリシアは苦虫を噛みつぶしたような顔をする。


「……よくわかりましたね」


「義理があるから一応会ったら挨拶はしないといけないけど、その後まで一緒にいる必要はない、とか考えてるだろ。そういうやつだ、お前は。セリス、だったか。夕飯の時間になったら店に直接集合でも構わないか? 店の場所はこいつが知ってる。な?」


「はあ、わかりました。でも今晩だけですよ」


「おう。じゃ、そういうことで。アリシアもセリスも、収穫祭を楽しんで」


グレイと別れ、すっかり姿が見えなくなってから、セリスは興奮気味にアリシアに言う。


「あの方がグレイ様なのね! 思っていたよりもずっと素敵なおじ様だったわ!」


「……どこが?」


「どうしてずっと不機嫌なの? あなたの育て親でもあるのでしょう?」


「それは、そうなんですけど、なんか、嫌じゃないですか? 親しい人間の――なんて言ったらいいんですかね……。とにかく、変な感じです。本音を言えば私は夕飯に同席したくないです」


「そんなのダメよ。初対面の男性と一対一で食事なんてできるわけないでしょう?」


「いや、それは……」


アリシアはうーん、と唸ったあと、頭を振る。


「……やめやめ。余計なことは考えないことにします。っていうか、セリスさん、別行動の予定だったのでは?」


「気が変わった、と言うより、今日の夕飯での会合に向けて情報を集めないといけなくなったって言った方が正しいわね。まだあなたの口からグレイ様について詳しく聞いたことなかったもの」


「あ、ああ。なるほど。そういうことですか」


「――で、どういう人なの?」


歩きながら、アリシアはグレイのことを思いついた順にぽつりぽつりと語り始めた。

まとめてしまえば、住所不定の胡散臭い旅商人のおじさんでしかないのだが、セリスにはその話がえらく面白かったらしく、テイマーとは無関係な彼自身の性格や好みについてまで、根掘り葉掘りと聞いてきた。


アリシアも彼の人生について詳しく知っているわけではない。

昔話を掘り下げて聞いたことはないため、憶測と自分の目で見たことしかわからない。

さらには、セリスがグレイの何を気に入ったのかもわからない。

相応の考えが本当に理解できないまま、夕方になるまでアリシアはおとなしく橋渡し役を続けた。

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