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少女とスライム、テイマーを目指して  作者: 上辻樹
第三章「スリーピー・ホロウ」
19/23

これから作る

山の木々が色づき始める。

森では落ち葉とどんぐりが地面を覆い尽くしているころだろう。


ベンチでぼんやりと秋の空を眺めるアリシアは、そんなことをぼうっと考えていた。

夏が過ぎるのはあっという間だった。

気候はそれほど変わらないはずなのに、家にいたころよりも早く過ぎたような気さえする。


学年で言うと、ちょうど半年が終わったところだ。

ほとんどの生徒は自分のパートナーを得て、一緒に散歩している姿もよく見かけるようになった。


テイマーのパートナーがペットと違うのは、躾けに関して厳しい訓練を受けなければならないところだ。

何があっても絶対に、刺激に驚いてパニックを起こしてはならない。


それを防ぐために魔物とテイマーは魔力を通じて意識を繋げ、本能を抑える訓練をするのだが、そこで躓いている生徒もけっこういるようだ。

アリシアからしてみれば、その苦悩は感覚として理解できないため、アドバイスを求められても答えられることはない。


(そういえば、みんな私のこと、怖がらなくなったな……)


大会で優勝したおかげで、仲間として認められたようだった。

前まではろくに挨拶もしてくれなかったが、今はわからないことを聞いてくるくらいにはなった。

それに、放課後に魔物との訓練を手伝ってほしいと頼まれることも増えた。


逆にアリシアも魔法についてたくさんのことを学んだ。

自然の力を利用する魔法や、身体能力強化の魔法や、精神に作用する魔法。

しかし、知識は増えても一向に使える気はしない。

初級魔法の火球や水鉄砲ですら、全くできない。


セリス曰く、根本的な部分で魔法や魔力に対する捉え方が違うのだろうということだった。


アリシアが考えるよりも、魔法は他の人たちにとって身近で、生活の一部なのだ。

アリシアの生活は彼らに比べるととても原始的で、料理のために火起こしや薪割りをすることは信じられないだろう。


数ヶ月の勉強の結果、やはり魔法は諦める他なさそうだった。


その代わり、ラピスは少しだけ成長した。

いつの間にか、水を発射する能力を会得していた。

水鉄砲や、水球、果ては水の刃を飛ばすこともできる。

自分の体積を減らすのではなく、魔力を水へ変換するコツを見つけたようだ。


(私だけ、何も変わってないな)


青空を泳ぐ雲を眺めながら、そんなことを考える。

確かに知識は増えたし、ラピスも成長した。


でも、出来ることは増えていない。

前に進んでいる気がしない。

置いて行かれている気すらする。


停滞感と焦燥感を僅かに感じる。

こうして座って答えのない悩みをぐるぐると巡らせている間にも、時間は進む。

先のことなどあまり考える質ではないが、そんなアリシアですら先のことを考え始めていた。


自分は、テイマーの資格さえ手に入ればいいと思っていた。

学校を卒業して、あとはどこかの町でゆっくりと暮らしていけばいいと。


しかし、周りのみんなは卒業したらどこで働くとか、家を継ぐとか、軍に志願するとか。

明確な未来像を描いて、日々努力している。


それに比べて、自分はどうだろう。

何も考えてなさすぎるのではないだろうか。


どうにかなるとは思っているが、目標がなくては努力はできないのではないだろうか。

だから、いつまで経っても魔法が使えないのではないだろうか。


「……何してんの?」


「あっ、セリスさん」


手に栞の挟まれた読みかけの本を持っているセリスが、通りかかった。


「悩んでいるんですよ。このままでいいのかなって」


「……ああ、なるほどね。隣、いいかしら?」


「どうぞ」


セリスは隣に座り、アリシアに遠慮することなく、読みかけの本を開く。


「何読んでるんですか?」


「過去の事件の記事をまとめた本」


「腕輪の情報ですか」


「まあ、そんなとこ。あれから何も進展ないしね」


しばらく二人は無言のまま、それぞれのことを続けていた。

時間がゆっくりと流れている。

しかし、そのゆっくりとした時間にすら、アリシアは妙な焦りを感じる。


「どうして人は過去のことを調べるんでしょうね」


「何、どうしたの。病んでるなら、一緒に気晴らしでも行く?」


「いえ、病んでるわけではなくて。過去を調べることで、何がわかるんでしょう」


「病んでるわね」


セリスは本をパタンと閉じる。


「あなたは、過去に興味がないの?」


「……そうですね。私はラピスと暮らすことしか考えていませんでしたから」


「自分の両親のことは?」


「少し考えたこともありますけど、知ってどうにかなるわけでもありませんし……」


「そうかしら? 私は自分の両親が死んだあと、調べられることは全て調べたわ。誰かから恨みを買っていなかったか、とか」


「それで、何かわかったんですか?」


「何も。でも、何もわからないということが、わかった」


「それって、意味、あります?」


「これから作るのよ」


毅然とした態度でセリスは言う。


「どういうことですか?」


「意味はね、後からでもつけられるの。私のやったことは、今は無意味かもしれない。でも、何年後か、何十年後か。いつか意味ができるかもしれない。リングを追っていることだってそうよ。破壊したって、私の家族は帰ってこない。でも、未来において、意味はあるはずよ」


「そんなもんですかねえ」


「先に進む足が止まっているのなら、過去を振り返るのも悪くないわよ。意外と、そういうところに、ヒントがあるのかも」


「ヒントって、何の?」


「……あんたねえ、ちょっと思考を止めすぎよ。そうだ、そろそろ収穫祭があるのよ。アストレイアの町全体で盛大に祝う行事よ。一緒に行きましょう。お祭りだから、学校も休みだったはずだし」


収穫祭、と言われて何か懐かしいものを感じる。

もしかすると、両親と過去にこの町に来た時の記憶かもしれない。

思えば、そういった思い出にさえ、触れられずにいた。

思い出したくなかったのか、単純に忘れていたのか。

自分でもわからない。


「セリスさんは、収穫祭の経験は?」


「ないわよ。だって私も今年の春にここに来たのよ?」


「あっ、だったら、私の方が先輩ですね」


「え、来たことあるの?」


「あるみたいです」


「随分と他人事じゃない。どうせ何も覚えていないんでしょ。ちょうどいいわ。隅々まで見て回りましょう」


セリスと約束をして、また空を眺める。

少し話してすっきりして、ただただ流れる雲を目で追っていた。

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