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 俺は突き立てたままのバスタードソードから手を離し、小さく何度も後退りする。


(…………やった。ついに……ついに……やり遂げた…………)


 何度も、何度も、何度も何度も何度も、筆舌に尽くし難い辛労をした。


 理不尽も、不条理も、地獄もたっぷりと味わった。


 しかし、それでも、血と汗と涙を垂れ流しながら、一歩、また一歩と前に進み続けた。


 そうして、長い道のりの果て、夢にまで見た目的地にとうとう辿り着いた。


 ……だというのに、心にあるのは迸る達成感などではなく、心をくり抜く虚脱感だった。


(……チッ、クソが)


 足元を見下ろすとそこにあるのは地面に縫い付けられた相手の姿。


 今一度、自らの手で行った所業を直視する。


 血溜まりの中に四肢は投げ出され、先ほど蹴り上げた時に折れたのか右腕が不自然な位置から曲がっている。最後に、天井を真っ直ぐに見つめる光のない目を見て静かに踵を返した。


「謝罪する。すまないことをした。だが、貴方との契約者となった後、このような真似は決してしない。両親より授かった鄧子明の名に誓おう」


 誠心誠意の言葉だ。何があろうと今の誓いは絶対に守る。


 後味の悪さに耐えかね、足を引き摺るように歩みを進める。


 人を殺したことは一度や二度ではない。何年も寝食を共にした者を手にかけたこともある。しかし、手にかけた者たちへの罪悪感はすでに風化していた。なぜなら、それはお互いに生き残りを懸けていたからだ。


 だが、今回は違う。


 何も事情が分かっていない相手を一方的に嬲ったのだ。この事実が深く心を抉った。


(家族には……絶対に話せないな……)


 床に突き立てたままだった槍を引き抜いて肩に担ぎ、相手の方へと振り返る。


 相手の胸に刺さったままのバスタードソードが抗議するかのように照明の光を眩く照り返してくる。だが、俺はそれを無視することにした。決して安い代物ではないのだが、例え後で返却されても受け取るつもりはなかった。


(切り替えよう。夢の実現のための最難関は越えたんだ。これからのことを考えよう――)


 相手に背を向け、大きく一歩を踏み出した。


■■■

 

 少人数で使うことを想定した応接室。そこに諸手を挙げて咆哮する人物がいた。


「良し! 良しッ! 良ォしッ!!」


 小太りでややだらしない体形を高級そうなスーツで覆う中年の男性は昂る心中を全力で身体で表現していた。


「上手くいった! 上手くいったッ! まさかまさかの大当たりだッ!」


 ガーネットにミスターと呼ばれていた彼の踊りはますます激しさを増した。


 戦前に政争で敗北し、郊外からも離れたド田舎で蟄居すること十数年。彼はそれでも諦めずに力を蓄えてきた。そして、戦後すぐに戦勝国側に取り入りずっと好機を伺っていた。


 薄汚い貧民の子どもから魔力持ちを選別して鍛え、蟲毒の如く争わせ続けた。そして、最後まで残った選りすぐりの命と宝物の一つを賭けてみれば結果はこの通り。


「あのガキが契約者となった今、後見人である私の成功は約束されたようなものだ! 祖国の、いやいや、この国の中枢に食い込むことも夢ではない!」


 彼は一頻り喜んで落ち着きを取り戻したところで空中に浮かぶ映像へと視線を戻す。そこには、手駒が入場口に向かって歩き出す姿が映っていた。その様子に彼は慌てて服装を整える。


「ここは声をかけて労うべきだな。あのガキはこれから重要な切り札になるのだからな。いや、ここはこちらから出向いた方が心証が良いか。よし、そうしよう!」


 再び気分が高揚し、考えていることが全て口に出てしまっていたが、室内にはそれを指摘する者はいない。


 服装に次いで髪を確認した彼は手駒を出迎えるべく意気揚々と歩き出し、ドアノブへ手を伸ばす。


 そして次の瞬間、映像から流れたアナウンスに足を引っ掛けられた彼は、歩き出した勢いをそのままに顔からドアへと突っ込んだ。

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