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「では続けさせていただきます。そんな身体能力に優れる獣人にも短所がございます。まず、魔力を使う才能に恵まれる者が極めて少ないことです。次に、この才能に恵まれたとしても魔力量は並人よりも格段に少ないことです」
魔力という単語に迅が首を傾げた。
「魔力とかについてはまだ軽く説明を受けた程度なのでいまいち分からないんですけど、そこまで身体能力が高ければ魔力とか使えなくても大丈夫じゃないんですか?」
「いいえ、魔力を扱う才能がなければ成し得ないこともございます。ですので、この才能に恵まれ難いというのは大きな不利となっているのでございます」
「そうだったんですか……すみません、軽い気持ちで言ってしまいました」
俺はカリスさんの語勢が少し強まったことを感じて反射的に謝ると、すぐにカリスさんが深々と頭を下げてしまった。
「いえ、こちらこそ申し訳ございません。少々取り乱してしまいました」
このやりとりにククゥちゃんが耳を少し伏せて不安そうな表情で俺とカリスさんのことを交互に見ていた。この雰囲気はまずい、そう思って強引に話題を戻した。
「俺は全然気にしてないですから、それよりも話の続きが気になるのでお願いします!」
カリスさんは微笑みを浮かべて小さくお辞儀をするとすぐに続きを話してくれた。
「かしこまりました。では欠点の続きですが、年に一度『発奮期』というものがございます」
聞き覚えのない言葉に首を傾げるとカリスさんが間髪入れずに説明をしてくれた。
「毎年六月の中旬頃に赤い満月が夜空に輝くですが、この期間に獣人の感情が著しく昂るのです。獣の特徴を大きく持つ者ほど強く昂り、強い興奮状態となって荒ぶってしまうのです」
「荒ぶる? 大声で騒いだりとかですか?」
「はい、それもございます。ですがひどい者となると公共物の破損、獣人や並人問わず襲い掛かって死傷させるなどといった行為に及びます」
「それは……」
返ってきた答えは自分の楽観的な予想を遥かに上回るものだった。俺が元いた世界でも暴れる人はいたし、そういう人を取り押さえるとなれば同じ人種であっても大人が数人がかりだった。それが体格に恵まれた外国人を凌駕する身体能力の獣人となると一体どんな事態になってしまうのだろうか。
「はい、ご想像の通り過去には発奮期の度に公共物の半壊や全壊、死傷者が相当数出ていたそうです。ただ、現代では発奮期への対策方法が確立しておりますので大きな被害が出ることは稀です。とはいえ、そういったことが積み重なった結果、獣人に対する差別が未だ根強いというのが現状でございます」
「差別……ですか」
人種差別。高校の授業では何度も耳にした言葉だが、いまいち実感のないものだ。
「はい、私とククゥはこの市から正式に認可を受けてメイド養成所や幼年学校に通っていますので差別を受けることはほぼございませんが、全く無いという訳ではございません。もちろん直接差別的な態度をとられることはありませんが、視線や口ぶりにそれを感じることがございます。また、この市の外となると生き辛いと感じることも少なくありません」
「…………」
何と言えばいいのか分からない。
「ですので、獣人に興味があると仰られた時に私はとても嬉しかったのでございます。体目当てに誘いをかけてくる者は掃いて捨てるほどいますが、本当の意味で獣人に理解を示していただける方はほとんどおられませんので」
「…………」
やはり、何と言えばいいのか分からない。
「正直に申しますと、私は恐れていたのです。アークという特別な御方にお仕えするにあたり、獣人の私では気に入らないと拒絶されるのではないかと悩んでいたのでございます。ですが、このようにデートにお付き合いしていただけるほどのご配慮を賜った上、獣人への理解を示していただけました。本当に感謝の念に堪えません」
立て続けにかけられる感謝の言葉に俺は嬉しく思う反面、心苦しくも思っていた。
「いや、そんな……俺だってカリスさんに感謝してます。迷惑ばっかりかける俺を助けてくれましたし、お世話になってばっかりで……。だから、俺の方こそお礼を言わせてください」
そうだ、何度も助けてもらった。
物を壊しまくってカリスさんの仕事を増やしたこともあれば、焦る気持ちに突き動かされて散々迷惑をかけたりもした。それでも、手を差し伸べてくれた。
そう、差別に耐えながら。
それに対して俺はどうだ?
「ジン様」と声をかけられて意識が引き戻される。
ふと視線を上げると、ちょうどカリスさんの潤んだ瞳と目が合った。




