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「そのように仰っていただけて恐悦です。私は貴方様にお仕えできて幸せでございます」
「えっ、あのその……? あ、ありがとうございます?」
今にも泣き出しそうに感じるカリスさんの表情と声色に、ついさっきまで真剣に考えていた内容が頭から吹き飛んだ。
(こっ、こういう場合ってどうすれば良いんだ!?)
ふと視線を感じて目を向けると、じっとこちらを見るククゥちゃんと目が合った。
「カリスお姉ちゃん、どうしたの?」
よく見るとククゥちゃんも表情を崩しかけている。まずい、もらい泣きして二人とも泣いてしまったらそれこそどうしようもない。
「どっ、どうかなー? あのっ、カリスさんすみません、何かすみませんっ!?」
俺の変な受け答えにカリスさんは目元を拭いながら小さく笑う。
「いいえ、ジン様が謝られるようなことはございません。私は感極まっただけで悲しい訳ではありませんから、ククゥは泣かなくてよいのですよ」
そう言ってカリスさんがククゥちゃんの頭をそっと撫でると、崩れそうだった表情はゆっくりと持ち直していった。
ひとまず何とかなったと、ほっと胸を撫で下ろす。しかし、この空気をどうにかしないといけない問題が全くの手付かずだ。とりあえずこの話はもう止めにして……いや、いっそのこと外に出て街の賑やかさに混じった方が良いかもしれない。そういえば、ククゥちゃんの服選びもまだしてない。
「あの、カリスさん。俺が騒がしくしちゃったんでそろそろ出ませんか? 獣人の話の続きはまたの機会ってことでお願いします」
カリスさんとククゥちゃんの承諾の返事を聞いた俺は席を立ち、会計を済ませる旨を伝えてから席を離れた。そして、そのまま世紀末世界の猛者、ではなく店長のパザートさんに声をかけてIDカードのワンタッチで支払いを済ませる。少し遅れて来た二人と合流すると、右手を胸に当ててお辞儀をしてくれている店員さんたちの上目遣いのヒャッハースマイルに見送られながら店を後にした。
街の喧騒で暗い雰囲気がいくらか和らいだところで買い物を続けた。再びカリスさん主導で服飾店を回り、帽子を見て回ったりククゥちゃんの服を見繕ったりしていく。また、屋台で季節限定の飲み物を飲んでみたり、女性向けの装飾品店に入ってみたり、手芸用品店で生地や裁縫道具を購入していった。
そうして、日の光が赤みを帯び始めたところで本日のデートはお開きとなった。
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商業区域から居住区域にある邸宅までの移動中の車内。
ほぼ丸一日歩き回って疲れたのかククゥちゃんはうつらうつらしていた。俺はその様子を見て邸宅に着くまで寝ていても良いよと声をかけたのだが、ククゥちゃんは頑として受け入れなかった。
そして二度目の提案を拒まれたところで俺はククゥちゃんの意思を尊重することに決め、そのままそっとしておいてあげることにした。
「ククゥへのお気遣いありがとうございます。また、本日はお付き合いいただきありがとうございました。ククゥ共々スイーツや飲み物もご馳走になりまして感謝の念に堪えません」
「いえいえ、むしろお礼を言うのは俺の方ですよ。今日はすごく良い息抜きになりました。ありがとうございます」
「そう言っていただけて恐悦でございます。そして、ジン様の目標達成の一助となれたことは私の誇りでございます」
「あはは、誇りだなんて大袈裟ですよ。でもここまでしてもらった以上、成果の一つも上げないといけないですね」
この言葉を聞いたカリスさんはきょとんとした表情になり、くすくすと笑いだした。
「ジン様はすでに成果を上げられてございます。お気づきではありませんか?」
俺は何のことかさっぱり分からず、「どういうことですか?」と首を横に振る。
「風船を掴んだ時にアーク様のお力を使われましたが、その時からこれまでに何も壊したりしておられません」
カリスさんが指摘した内容に、はっと気が付く。
「スイーツ店や装飾品店などで何度も繊細な物に触れておられましたが、そのどれもが壊れることはありませんでした。意識的に力の加減をされているご様子も見受けられませんでしたので、力の制御に関しましては概ね成功されたということではございませんか?」
無意識に自分の両手を見つめていた俺は大きく息を吐いた。




