夜アイス
夕飯が早かったせいか寝る前にお腹が空いてきた。
笠原の部屋が不気味すぎて逃げてしまった。
キッチンで何かないか冷蔵庫をのぞく。
さっき笠原も帰ってきて部屋に入ったみたいたが…特に物音はしない。
もし聞いてライダースを出そうとしてたなら良いが、違ったら…と思うと恐いのだ!
笠原があんなブランド服着るとも思えないし…
「おっ、美味そうじゃん?」おばあちゃんの大好きなアズキアイスが大量にストックされてるので1本貰って食べていると笠原が降りてきた。
「食べる?美味しいよ。」と冷凍庫から出して笠原に渡す。
「お前、部屋のカーテン閉めてくれた?」笠原に聞かれる。
「ごめん、夕方物音が部屋からしたから…姉ちゃんが来てるのかと思って入ったんだよね。」と答える。笠原の様子を見る。あのクローゼットは?
…でも、聞くのが恐い!
「そうかあ〜こんな事言っちゃダメかもしれないけど…何か居るよな?あの部屋?」笠原もジッと琴子の顔を見てくる。
「いや…部屋じゃないと思う。
あのライダースだよ。夕方部屋入ったら…クローゼットが開いてたんだよ。使わないと言ってたじゃん。
取っ手もない壁と一体型のだし。壁にもフック大量にあるからって。」笠原を見つめる。
「あのクローゼットが開いてたの?それは無いわ。
俺すっかり存在忘れてたし。」やはり笠原はいじってなかった。
「中のキャリーケースに仕舞い込んだライダースがファスナー開いてはみ出してたよ。
本当に触ってない?」琴子は聞く。
「…会社でさ、ライダースの話したら隆史が着たいって。服持ってないから暖かいコートなら欲しいって。
やっぱりあげるわ。明日持っていくわ!」笠原が腰を浮かせてアイスの棒をゴミ箱に捨てた。
「明日は配信無いよね?」琴子が聞く。
「うん、でも早く捨てなきゃ!
下手に捨てたら戻って来そうじゃん!なんか。だから服持ってない人にあげよう!」と笠原は決めたようだ。
「今夜はとにかくクローゼット開かないように下に紙噛ませようか?使い終わったノートの表紙破って持って来る。」琴子も立つと笠原が首を振る。
「部屋戻らなくていいよ。俺も持ってる。そのまま部屋来てよ。今夜1人で寝ないといけないんだぜ!
俺ずっと狭い家だったから、まず広い部屋に1人ってのが恐いんだよ!慣れなくて!」笠原にそんな可愛い弱点があるなんて!
2人で父母や祖母の眠りを妨げないようにソッと階段を登る。
「6畳一間に布団4枚並べて寝てたんだぞ!それが急に部屋に1人とか!どんだけ落ち着かないか?
それも…誰かにジッと見られてる気がどうしてもするし!」笠原がスゴい可愛く見える。団地の2DKに大人が4人で住んでたのだ。それは姉の10畳の部屋に1人とか恐いし落ち着かないだろう。
部屋に入ると急に空気がジトッとする。
梅雨のせいだけとは思えない。甘くすえたような…独特の閉塞感を感じる。
「お姉ちゃんの部屋はこんな感じだったかなあ〜?」とクローゼットの方を見る。夕方閉めたままだ。
ホッとしたが、笠原が開くと琴子は、ギョッとした。
立てたキャリーケースが移動してる!手前に!
「確かに奥の隅に押し込んでたのに!」琴子は声にならない悲鳴を上げる。
笠原は琴子の様子にビビる。
「本当にやめてくれ!きっと勘違いだよ。閉める前に手前に扉に引っ掛かって寄ったんだろ?なっ?」ハンドルを持って奥へ戻した。そして足のレールの上の歯車にノートの端をちぎって小さく畳んだ紙を噛ませた。クローゼットの折り畳み開き戸は噛んで動かなくなった。
「これで今夜は何とか…
ふう、お前一緒に寝ないか?」笠原がごく自然に聞いてきた。




