第4話:ギルドで絡まれたんだが?
「……確認しました。問題ありません」
受付嬢さんが頷く。
「初依頼、達成です」
「よっしゃあ……!」
この達成感はエグい……!!
「こちら、報酬になります」
手渡された銀貨が、手のひらにずしりと沈む。
思ったよりも重かった。
(……クエストクリア……!)
(うわ、マジで稼いだ、稼げた……!)
「……初回としては、上出来だな」
「だよな? わかるーー!」
レオンの評価に、俺のテンションはさらにアガッた。
「……これは次からは、一人でもいけそうだな」
調子に乗った言葉が、ぽろっと口から出た。
「おいおい、新人」
後ろから声が飛んできた。
──やべ、フラグ回収キタコレ──
「公爵家のコネで登録かァ?」
「ラクでいいよなぁ!交代してくんねーかなぁ?」
くそ、まさかのテンプレっぽい絡みを喰らう日が来るとは──!!
「いや、初回クエストはちゃんと自分でやりましたけど?」
「はぁ?
……証拠はあんのかよ、証拠は!!」
一歩、距離を詰められる。
(近い近い近い!!)
(あー、嫌すぎる!)
そのとき。
相手の立ち位置、距離、動き。
何となく、“こうすればいい”って分かった。
(でもなんか、まだ“使わなくていい”──)
「そこの受付嬢さんに聞いてみれば分かりますけどー?行きましょうか、一緒に!!」
───
少し離れたところで、ハルトがギルドの低ランクらしき男たちに絡まれている。
(……助けるか?)
(いや、ここは……)
───
おっと、レオンは助けてくれないらしい。どうする俺!!
ちょっと困りだしたところで、受付嬢さんからギルドマスターらしき人にヘルプが出たようだった。
「……騒ぐな」
低い声──なんていうんだろ、バリトンボイスってやつか?
そんな声が落ちた瞬間、空気が止まった。
偉い人って凄い。
一言で、全部止まった。
「覚えてろよ!」
と、吐き捨てて立ち去るモブさん達を見送る。
(……なんか、めんどくさいのに目つけられたな)
もう疲れた、公爵邸に帰りたい。
(……でもまあ、これも“冒険者っぽい”のか……)
慣れるまでは、もうちょい掛かりそうだった。
「っあー!疲れた〜!」
帰りの馬車の中でダレている俺を見て、レオンが労いの声をかけてくれる。
「……上出来だ」
「ありがと、レオン!
次はあれだよなー、クエスト進めて、ランク上げして……」
楽しげに指折り数えて、ふと気づいた。
「そういや、俺武器なんもなくね?」
───
一方その頃、教会で。
「……え、私が、聖女?」
目の前の話に、ユウコは戸惑っていた。
「……はい、貴方様のスキル『家事:EX』は、本当に素晴らしい能力でして──」
王宮からここまで一緒に来た人は、『司祭』さんだそうで、教会でも結構偉い人らしい。
それにしても──
「私、陽翔の母ですから……」
違和感は、早めに言っておくのがいいわよね。
「どちらかといえば、『聖母』じゃないかしら」
軽い調子で言った、その一言に──
司祭の表情が、固まった。
「……聖母、ですか」
低く、繰り返される。
その声音は、先ほどまでとは明らかに違っていた。
「ええ。母ですから」
司祭さんが繰り返してくるので、私もまた頷いて答えた。
──私、なにかおかしなこと言ってるかしら?
「……“母なる加護”に類する力……」
司祭の目がわずかに熱を帯びるが、ユウコは気づかなかった。
司祭さんが、なにかブツブツ言ってるけど、ちょっと声が小さくてよく分からなかったわ。
「……陽翔、ちゃんとやってるかしら……」
──翌日。
レオンと二人、朝食を食べる。
昨日、俺が気づいた、『武器なんもなくね?』問題で、レオンが
「ギルドの近くに、武器屋がある」
って提案してくれた。
今日はこのあと、レオンと一緒にその武器屋に行く予定だ。
……さすがに、初見でいきなり独りで武器屋に行くのは気が引けていたので、正直助かった。
「……では行こう」
食事を終えて、席を立つ。
公爵邸を出て、いつもの馬車に乗って移動する。
ちょっと見慣れてきた街並みを見ながら、俺は武器屋に思いを馳せていた。
「……最初は、ナイフか剣を勧める」
……レオンが、まるで俺の思考を読んだかのようにアドバイスしてくれた。
「確かに、どっちもアリだな…!」
うんうん頷いている間に馬車が止まり、俺たちは武器屋に入った。
「うぉ……!
リアル武器屋ってこんな感じなのか…」
レオンが「初心者向けだ」と言っていた割には、なんか本格的な雰囲気の武器屋だった。
「普通に玄人向けじゃね…?」
恐る恐る店内に入ると、すぐにそれっぽい武器を見つけた。
どれどれ、と値段を見ると──
「……ん? 高くね?」
ソシャゲのイメージだと、もっと安いんだけど……。
これ、昨日の報酬じゃほとんど選択肢ないんだが?
「……気になるものはあったか?」
俺がうんうん唸っていると、レオンが隣に立っていた。
「いやー、まぁ、剣かナイフなんだけど……」
「……とりあえず、持ってみろ」
なるほど、素振りしていいのか!
俺は、恐る恐る剣を握る。
──おっっっも!!!
「……腕がダメになる予感」
剣は辞めておこう。
「次はナイフ……」
(……なんか、しっくりくる)
握り直すと、重心の位置が“分かる”。
(……これなら、振れる)
こんな形のナイフなんて持ったことはなかったけど、妙な確信があった。
「これにしようかな」
俺が選んだナイフを見て、レオンも頷いた。
「……そいつは軽いが、癖がない。最初にはいい」
奥から、しわがれた感じの低い声がした。
──いつの間にか、店主がこちらを見ている。
そりゃそうか、俺たち以外に誰も客は居なかった。
俺がナイフを持っていくと、店主が言った。
「それにするなら、鞘込みでこの値だ」
(……おっと)
(……そっかー、サヤも要るのか。
これ、手持ちで足りるか?)
「……差額は出す。貸しだ」
レオンから助け舟が出た。
「マジで? 助かる!!」
こうして俺は、初めての相棒ともいうべき、武器を手に入れたのだった。
(……これが、俺の最初の武器……!)
ただのナイフだったが、なんだか地に足がついたような充足感があった。
続く




