第3話:教会行きなんだが?
──母さんが、まさかの聖女枠……!?
「どうやらその力は、王宮で抱えるには大きすぎるようだな」
王様が水晶を持ってきた神官と、目配せした。
「……教会に預ける」
「……仰せのままに」
神官が、母さんに向き直った。
「ぜひ、我らのもとへ」
母さんが、ちょっと引いた。
「え? ……そんな大げさな……」
(──ん? え、待って……)
(母さん、連れてかれる?)
周囲の真面目な雰囲気に、母さんも断れないと察したようだった。
「教会……。あの、うちの子も連れて行っていいのかしら。ほら、陽翔ったら、私が居ないとパジャマも脱ぎっぱなしで──」
──ちょ、待てよ!!
「パジャマの話は今すんな!!」
「だって事実でしょ?」
「事実でも出すタイミング考えろ!!」
こんな時でも、思わずいつものツッコミをしてしまう。
「……ていうか、行かねぇよ」
思わず本音が出た。
「俺は……俺でやるから!」
「……あら、そう」
一瞬、空気が止まる。
(……このままじゃ、ずっと一緒だ)
(何も変わらなくなっちまう……!)
「……ほう。自立を望むか」
王様が、また訳知り顔で目を細めている。
「……俺は、別でいいです」
思ったより、すんなり言葉が出た。
「世話になるだけじゃ、意味ないんで」
(……自分でやれること、ちゃんと探さないと……!)
「……では、レオン」
「……は、」
王様に呼ばれたレオンが、向き直る。
「……おぬしが、この青年の身元引受人となること。……よいな」
「……かしこまりました」
こうして俺は、とうとう自立への第一歩を踏み出した。
─母さんとは、その場で別れることになった。
「無理だと思ったら、すぐに母さんのところに来るのよ!陽翔はすぐ無理するんだから……」
「大丈夫だって、レオンもついてるし」
「知り合ったばかりじゃないの……!」
「……ご婦人、参りましょう」
まだ何か言いたげな母さんを、神官が促して連れていった。
「……お前は、どうしたい?」
レオンに尋ねられて、俺はワクワクした気持ちを抑えきれずに答える。
「まずは、ギルドに行ってみたい!」
「……では一度戻り、服を着替えて街に行く」
……確かに、このキラテカ服は、街で浮きそうだった。
俺は何度も頷いて、また馬車に揺られて公爵邸へと戻った。
(……静かだな)
俺の正面で、終始無言で座ってるレオンを、見るともなしに見る。
ずっと騒がしかった母さんが居ないだけで、周囲の音がやけに鮮明に聞こえるみたいだった。
「……おかえりなさいませ、レオン様、ハルト様」
執事さんたちに出迎えられて、俺が使ってた部屋に戻る。
「……こちら、レオン様より預かった服でございます」
用意してくれた紅茶を飲んでいると、メイドさんがラフな感じの服を持ってきてくれた。
「こ……これは……!
まさに、チュートリアルで貰う初期装備──!!」
動きやすいシャツ、ズボン、ベスト──そして、ベルトについてる小さなバッグに、銀貨が入っていた。
「ありがとう!……着替える!」
思わず声が弾んだ。
さっきまでのちょっとしんみりした気分が、嘘みたいに軽い。
服を受け取って、さっそく着替える。
(……なんだよ)
(ちょっと──いや、だいぶ楽しい!!)
シャツに袖を通す。
動きやすい。
ズボンも軽い。
ベストを羽織ると、なんとなく“それっぽく”見える気がした。
「……よし」
鏡の前で、軽く拳を握る。
さっきまでの自分とは、少し違う気がした。
着替え終わると、ドアを開けてレオンが入ってきた。
ちらりとこちらを見て──
「……似合っているな」
「だろー!?
いやぁ、さすが初期装備!この感じ、いいなー!
次の装備手に入れてもさ、なんとなく売れないやつ!」
「……初期装備?」
「いや、こっちの話です」
ベルトのバッグを軽く叩く。
中で、銀貨が小さく鳴った。
(……いよいよこれで、チュートリアルスタート!って感じだな)
「……行きますか、ギルド!」
「……ああ」
レオンが短く頷く。
俺は、期待に少しだけ胸を張って、部屋を出た。
(……もう、逃げるだけじゃない)
(……やってやんよ──!)
───
「……ここが、冒険者ギルドか」
扉を開けた瞬間、ざわめきが流れ込んできた。
何人かの視線が、こちらに向く。
「……ん? 黒……?」
「見ねぇ色だな……」
屈強そうな男たちが、こちらを値踏みするような目をしてくるのは、普通に怖い。
(あー、やっぱ珍しいんだな……)
あまり気にしないようにしよう、と思い直して、ギルドの奥にある受付へと進む。
──ここで、ひとつ安心することがあった。
文字が、読める……!!
「あのー。ギルドに入りたいんですけど……」
受付嬢が、一瞬だけ困った顔をした。
アレッ!?
──ひょっとして、言い方間違えた系の??
「……登録には、身元の確認が必要でして」
……そっちでしたか。
「……公爵家で預かっている者だ」
俺の後ろから、レオンがフォローしてくれた。
その低い声に、空気が変わる。
うーん、やっぱりイケボ!
「……っ、失礼いたしました!」
受付嬢さんが、慌てて書類を引っ張り出し、周囲がさっきよりもザワザワしだした。
「公爵家だと……?」
「マジかよ……」
(うーん、これがコネってヤツか。
つえぇな、公爵家……!!)
えーと、名前、出身地……「異界」?
……いや、わからんから空白でいいか。
名前以外ほとんど空白で、受付嬢さんに用紙を返却した。
「……で、登録料とかは……」
「……あ! お金は大丈夫です……!」
それは、公爵家だから??
「では、こちらに手を」
受付嬢さんが、小さな金属板を差し出した。
「これが、冒険者カードになります。
こちらに手をかざしてください」
冒険者カード、キターーー!!
受付嬢さんに言われるまま、手をかざす。
なんか決済出来そう。
なんて思いながら手を乗せると、淡い光が浮かび上がる。
「……あら?」
受付嬢さんがほんの一瞬、首を傾げる。
(……なんだろ?)
「……基礎値は平均的、ですね」
(あー、そこ引っかかったのかな?
公爵家の関係者なのに、低いのね的な!)
なるほどね、と頷いている間に、受付嬢さんがさらに俺の能力を読み解いてくれる。
「スキルは……“適応”……?」
(なんだそれ?)
光が一度だけ揺らいだ。
受付嬢さんが、もう一度カードを見直した。
「……珍しい表記、ですね」
やがて、カードから手を離すと、
『名前:ハルト・タイラー
ランク:F
スキル:適応』
っていう文字が印字……刻印?されていた。
ふぉー!ファンタジー!!
「登録は完了です。
ランクは、Fからのスタートになります」
「はい、了解です!」
(Fか……まあ、最初はこんなもんだな)
「初回の依頼はこちらからお選びください」
受付の横に、木の掲示板があった。
おー!!
よくある感じ!!
どれどれ……と眺めてみると、よくあるおつかい系のクエストが並んでいた。
「荷物運び、薬草採取、害獣退治……」
目線ぐらいの掲示板に、『Fランクおすすめ』のコーナーがあったので思わず読み上げる。
「害獣は、一角ウサギやスライムなどが該当する」
「……へー! ソロでもやれる?」
「……油断しなければな」
レオンが、「自分を頼らないのか?」って目をしてる気がする。
俺は、とりあえず自分で達成してみたかった。
「うーん、じゃあ、薬草採取で……」
慣れたら、害獣退治と薬草クエストをまとめて受けたいところだが、とりあえず初回だし単体クエストでいいだろ。
受付嬢さんのところに戻って、受けたいクエストを伝える。
「薬草は、ギルド裏の森に自生しています。
葉が三枚で、茎に細かい毛があるものが対象です」
受付嬢さんが、目当ての薬草の詳細を教えてくれたけど──
(いや、それだけで分かるのか……?)
ゲームなら、アイテムゲットしたら勝手に仕分けしてくれるが、この世界ではそうもいかないだろうし。
「似た草も多い。間違えるなよ」
デスヨネーーー!!
レオンが補足してくれると、「あー、チュートリアルの騎士だったわ」って再確認しちゃうなぁ。
そんなレオンに案内されて、裏の森にやって来た。
「……で? どれだよ、薬草……」
ガチで、似たような草ばっかりだ。
うーん、と唸っていると……
ふと、視界が“整理された”気がした。
目に入る草の中で、ひとつだけ──違うと分かる。
「……これか?」
触れた瞬間、確信に変わる。
(……これは……!)
(薬草ゲットだぜーーー!!)
楽しくなった俺は、次々と薬草を見つけていった。
(……街に戻ったら、ちゃんと本も買っとくか)
毒消しとかも、そのうち必要だろうしな……。
俺の異世界ライフが、始まった……!
続く




