第2話:王宮行きなんだが?
──翌朝。
目が覚めた瞬間、俺は一瞬だけ「昨日のは夢じゃないのか?」と錯覚した。
……いや、違う。
天井が高くて綺麗だ。
無駄に装飾が豪華だ。
そして……布団がフカフカだった。
「……マジで、夢じゃないのかよ……」
もそりと起き上がり、ぼそっと呟いたところで、ドアがノックされた。
「失礼いたします。お目覚めでしょうか」
メイドさんだ。
昨日の人とは別だが、やっぱり丁寧すぎる。
「……何故、我が目覚めを知っている……。
あ。ごめんなさい。ウソです。
お目覚めです!」
自分でもよく分からない返事をしながらベッドから降りると、すぐに着替えが差し出された。
いかにも“ちゃんとした服”だ。
柔らかくてサラサラ、ちょっとテカテカで。
……何故か、サイズもピッタリだった。
「レオン様より、本日は王宮へ向かうため、こちらをお召しくださいと申しつかっております」
「……王宮……」
昨日の言葉が、じわっと蘇る。
(これは死亡フラグか……?)
一瞬、布団ダイブしたくなったが、そうもいかないらしい。
「陽翔……!
ほーら、もう。ぼーっとしてないで、さっさと着替えなさい!」
メイドさんの後ろから、聞き慣れすぎた声。
「……母さん」
すでに身支度を整えた母が、後ろに立っていた。
ファンタジー世界なのに、なんか普通に馴染んでるのが無性に腹立つ。
「ちゃんとしたところに行くんだから、身だしなみはきちんとしなさいよ」
「いやそれは分かるけど、順応が早すぎない!?」
異世界二日目でこれってどういうことだ。
「こういうのはね、慣れよ」
「いや、そんな簡単に慣れたくねぇんだわ」
着替えながらいつものやり取りをしていると、再びノック。
「……準備はできたか」
レオンだ。
「……はい」
──ええい、死なば諸共だ!
観念して頷くと、レオンが一度だけ俺たちを見て、軽く息を吐いた。
「……では行く。馬車を用意してある」
(馬車……)
いよいよ、って感じがしてきた。
逃げ場は、……もうない。
「……はぁ〜」
小さくため息をついて、俺は一歩踏み出した。
公爵邸の外に出た瞬間、冷たい空気が頬を撫でた。
見上げた先には、石造りの街並みと──見慣れない空。
「ちょっと待って、月がふたつあるじゃん」
「……ツキとは?
……空の星のことであれば、あれは衛星だな」
「……月ですら無かった……」
御者さんに促されて、馬車に乗り込む──
「えっ、たか……!
四駆の車高レベルじゃね?」
「なんか、あれね……!
これ、シンデレラとかに出てくるみたいな馬車ね……!
お母さん、こういうの憧れてたのよ〜!」
「……知らんわ!!
母さんの、そんな乙女な一面なんて……!!
知りたくもなかった!!」
「……閉めるぞ」
俺たちがギャーギャーしてるのに慣れたらしい、レオンが表情も変えずにスルーしてくる。
……いや、冷たい目よりマシか?
馬車の扉が閉まるのと同時に、馬がいなないた。
ガタリ、と車体が揺れ──ゆっくりと、馬車が動き出す。
「うおっ……!」
思わず声が漏れる。
アスファルトでは有り得ない振動が、硬めの座席から伝わる。
小石に車輪が乗るたびに、尻がガタガタする。
窓の外を、海外にありそうな石畳の道と、映画みたいな服を着た人影が流れていく。
見慣れない服装、見慣れない建物──
(……マジで異世界なんだな、ここ……)
部屋にいたときより、ずっとリアルだ。
「まぁ〜!ヨーロッパみたいね。
一度ね、新婚旅行でパリに行ったことがあるのよー!あの時は、父さんも私も若くて……」
「あ。すいません。
酔いそうなんで、窓開けていいですか」
ガタリ、と開けた窓から吹き込んできた風が、母さんの戯言を吹き飛ばして──くれたらいいな、と思った。
しばらくして、馬車の揺れがゆっくりと収まっていく。
やがて、カタンと音を立てて止まった。
「……着いたぞ」
レオンの声と同時に、扉が開かれる。
外に出た瞬間──
思わず、息を呑んだ。
「……は?
……でっか」
目の前にあったのは、見上げても見上げきれないほどの巨大な建物だった。
「……うーん、そういや、ソシャゲのトップ画面にこんな城あったような……」
俺が首を傾げていると、テンション高い声が聞こえた。
「まぁ〜!立派ねぇ!
写真撮りたいわ〜!」
「スマホねぇだろ!!」
俺がすかさず突っ込むと、母さんが「そういえば」って顔した。
「そうだったわ。
……あのとき、慌ててたから……
家に、置いてきちゃったのね……」
あのとき。
俺の胸に、ちくりと罪悪感が湧き上がる。
(……いや、今それ考えるとこじゃないだろ……)
「……行くぞ」
俺の感傷を知る由もなく、レオンに促された。
(……なんかもう、帰りたい……)
登城する前から疲れて、レオンの後ろをトボトボとついて行った。
「レオン様、お待ちしておりました」
レオンを見かけた門番が、すぐに道を開けた。
(マジで顔パスだ……!
さすがチュートリアル騎士、顔が広い!)
中に入ると、空気が一変した。
静かで、広くて、やたらと天井が高い。
油断すると、「あーーー!!」
とか、「やっほーーー!!」
とか叫びたくなるようなホールだった。
(ここ騒いだら怒られるやつ。
……ここは観光地じゃなくて、死亡フラグがあるとこだからな?
落ち着け俺……!)
深呼吸を繰り返していると、のほほんとした母さんの声が響いた。
「まぁ〜!すごいわねぇ……!」
「母さん、もっと声小さくして!!」
「やぁね、母さんそんなうるさくないわよ!」
「……!わ、分かったから……!」
ホールを進むと、その先の重厚な扉が開かれる。
赤い絨毯の先に……玉座に座る影が見えた。
(……あ、これ王様だ。
ガチのやつじゃん、すげぇ……!)
ある程度進んだところでレオンに促されて、頭を下げる。
(やっべ、「こうべをたれよ」とか、「このゴールドをもってゆけ」とか言わないかな……)
場違いな妄想にプルプルしていると、王様から声がかけられた。
「よく来たな。……話は聞いている」
(……どんな話聞いてるんだろ……)
(「道に、見たことない黒い髪の人間が落ちてたんで拾って帰ったら、頭のヤバそうな親子でした」……とか?)
(絶対ロクな話じゃない)
今度は冷や汗を垂らしながら、頭を下げたまま、じっとする。ちょっと疲れてきた。
「異界より来た者、と聞いている」
(あ、異世界、じゃなくて、「異界」ってネーミングなんだ。へー!)
「まぁ、やだわー!
異界だなんて、そんな。大げさねぇ」
母さんんんんんん……!!
横目で見ると、母さんはすでに面を上げていた。
レオンが報告する。
「……発見時、不可解な言動が見られました」
ごめんなさい、現在進行形で不可解です。ごめんなさい……!
「……そこの若者も、そちらのご婦人も……ただ者ではないようだな」
母さんも……!?
ただの母親なんだが!?
──いや、だいぶクセは強いが……!
「おぬし達の能力を測らせてもらう。
──水晶を持て」
おっ!
これは、チュートリアルの能力判定イベント!
キタコレ……!!
「……じゃあ、まず俺から……」
ドキドキしながら、水晶に触った。
──うっすら光った。
「……まあ、そこそこだな」
水晶を持ってきてくれた神官ぽい人に、めっちゃ雑な視線を向けられた。
──あれ?
俺、異世界系チートないの?
能力値、デフォ?
マ???
「じゃあ、次は私ね」
母さんが、水晶に触れる。
その瞬間──
眩い光が弾けた。
そしてじわりと、空間そのものが“整っていく”ような感覚。
重苦しかった空気が、一瞬で澄み渡った。
「うおっ……!? まぶし……!!」
(いやいや、待て……!!
なんでだよ!!)
『家事:EX
・空間を整える
・対象を“適切な状態”にする』
「まぁ、なに、これ?
私、ゲーム全然分からないのに……」
「これは凄い……!!」
「聖女様に、勝るとも劣らないのでは……」
母さんが発動したらしいスキルに、城内がザワザワしだした。
「……なるほど」
王様まで、なんか訳知り顔で目を細めて頷いてる。
(いや、家事スキルで、なんでこここまで清々しくなるんだよ!!)
(人間空気清浄機かーーー!!)
……ところで、俺のステータスは?
スキルの詳細クレ!!
続く




