第11話:火を纏うんだが?
「……このまま森で暮らすのも悪くないが…」
ウサギを食べ終わり、森が暗くなってきた。
焚き火の明かりだけが、周囲をぼんやりと照らしている。
「物資が足りんな」
「だよな」
俺は立ち上がった。
「……一回、街戻るか」
「道具が欲しいんだよなー!
キャンプ用品て、何屋に売ってるんだ?」
森の出口にスタンバイされてた、公爵家の馬車に乗り込む。
「道具屋だな。野営用の一式は揃う」
「へぇ、便利だな」
「金はかかるがな」
クッ……金か!
世の中、所詮はカネなのか!!
──まぁ、知ってたけどね!
とりあえず、買い物は明日だ。
ギルドで一角ウサギの素材を換金してから、道具屋に寄ることにした。
翌日、ギルドで一角ウサギのツノと皮を納品する。
「はい、確認しました!
ハルトさんの素材、状態がいいって評判なんですよ!
無駄な傷も少ないし、処理も丁寧で」
おー!?
それは、モンスターハンティングゲームのおかげだろうか!
なんにせよ、褒められて嬉しい。
銀貨を受け取った。
思ったよりも、重い。
そして、その金を握りしめて道具屋に行く。
「ロープ、ランタン、……スキレット、コップ……」
「一通り揃えるのか」
ウキウキで道具を選ぶ俺の後ろから、レオンが声をかける。
「まぁな。野営するなら必要だろ」
並べられた道具を見て、少しだけテンションが上がる。
あと、これが入るリュック。
……それと、寝袋も欲しいな。
「うーん、それっぽい」
「さっきの報酬では全く足りんな」
ニヤついていた顔が、一瞬で現実に引き戻される。
……はい、また借金させて頂きます。
またレオンに借金するカタチになったが、背に腹はかえられない。
俺はホクホク顔で、馬車に乗り込んだ。
「……で。今日も森に行くのか」
「ああ。しばらくはな」
レオンの問に頷く。
「Dランクを目指すのか」
「まぁな! 討伐数も必要だし、もっと腕も上げたいし」
俺は、買ったばかりの装備を軽く叩く。
「それに──試したいこともある」
「火か」
「それ!」
さすがレオン、察しがいい!
「……言っておくが、一角ウサギ相手なら火は相性が悪い」
「なんでだ?」
「皮の価値が下がる」
「……あー、なるほどな」
それは困る。
「じゃあ、火を使っても問題ない相手を探すか……」
「荒野だな」
「荒野?」
「王都の外にある砂地だ。サンドリザードが出る」
城壁の外には、見たことのない地形が広がっているらしい。
新フィールド情報キターーー!!
……って、観光気分で行く場所じゃないんだろうけど。
「……なんか、強そうだな」
「一角ウサギよりはな」
少しだけ、笑う。
「いいじゃん。やってみよう」
馬車に乗り込み、揺られることしばし。
公爵家の御者が、門衛と短く言葉を交わす。
やがて、馬車が門を抜けた。
最初はまだ草原が広がっていたが、やがて乾いた風が吹きつける。
砂が、わずかに頬に当たった。
風に削られた岩と、乾いた大地──
今までの森とは、まるで別の世界だ。
「……荒野フィールドだ……」
どこかで、砂が崩れる音がした。
馬車が、比較的安全だという大岩の隣で止まった。
俺とレオンが荒野に下りる。
じめっとしていた森とは正反対の、乾いた風が吹き上がる。
「敵にエンカする前に、ちょっと試させて」
「任せる」
頷くレオンと少し距離を取り、剣を構える。
「……こう、だろ」
剣先に意識を集中させる。
魔法はイメージ、魔法はイメージ……!
燃え上がる、炎の刃!
……の、はずだった。
じわり、と刃が熱を帯びる。
空気が、かすかに歪んだ。
「……地味だな」
「十分だろう」
「いやもっとこう、ドバッと……!」
反論したその瞬間、
ボッ、と火が跳ねた。
思わず、手を引く。
「おっ!」
だが、すぐに消えた。
「……あー」
「安定していない証拠だ」
「……出すのと、纏うのはまた別、ってことか……」
うーん。
俺が改めてイメージを固めようとしていたら、ふと視界の左が気になった。
「……あれ?」
「どうした」
「なんか、そこの砂山動いた?」
「サンドリザードの巣だな」
レオンが答えた瞬間、砂山からサンドリザードが飛び出して来た。
砂を弾き飛ばしながら、牙を剥く。
体長は、しっぽ合わせて俺が寝たぐらいはありそうだった。
「キタァーーー!!」
「良かったな、一匹だけだ」
「わー!? やったね!?」
全然嬉しくない!
いや、ラッキーなんだろうな!
──やるしかない。
剣を握り直す。
──さっきの、使えるか?
「キバに気をつけろ。毒がある」
「それ! 早く言ってぇ!!」
思わず後ずさる。
「解毒は?」
「持っていないな」
「マジかよ!!」
ピクニック気分で来て、すんませんでしたーーー!!
サンドリザードが低く唸る。
砂を蹴り、一直線に突っ込んできた。
「ふおぉ!」
とっさに横に跳ぶ。
牙が、すぐ横をかすめた。
そうだ落ち着け、敵は直線で来る。
「くらえっ!」
刃に熱を乗せて振り抜く。
──弾かれた。
「クソッ!」
「表からは通らん!」
「……裏か!」
そういうヤツね……!
もう一度だ!
俺は、サンドリザードと対峙する。
敵の前足が砂を踏みしめたタイミングで横にかわす。
「ここだーーー!」
避けるのは最低限でいい。
敵が一匹だけなら、これでやれる!
サンドリザードの腹部目掛けて斬りかかる。
ジュッと音を立てて、焼けた匂いが鼻に届く。
「まだだ……!」
体勢を崩したサンドリザードが、もがく。振り返りざまに、牙が迫る。
「っ!」
ギリギリでかわし、踏み込む。
「もう一発!」
今度は、意識して──
刃に、熱を留める。
じわり、と赤く染まった剣が、腹を裂いた。
──ズンッ。
サンドリザードの体が、崩れ落ちる。
「……やれた!」
「悪くない」
これは捌くのが難しそうなので、道具屋で買ったロープで馬車に括り付けた。
「帰るのか?」
レオンの問いかけに、頷く。
「森に行く。毒消し草が呼んでる」
俺は、撤退を決意した。
「“聖母”様、次の祈祷の準備が──」
「……ええ、すぐに行きます」
呼ばれて、母は顔を上げる。
その手は、わずかに止まっていた。
「……陽翔」
小さく、名を呼ぶ。
だが、すぐに表情を整えた。
「行きましょう」
視線が、ほんの一瞬だけ遠くを見ていた。




