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西宮からお店の中をリードしてと頼まれた俺は混乱した。ここに来たことなんて一度もない。中のことをぜんぜん知らないし、どんな水着が置いてあるのかも全くの未知数。おまけに。
店の外からでも分かるほど、俺がリード出来るような場所じゃない。むしろ、男の俺が足を踏み入れていいような場所かさえも悩ましい。一緒に本を買いに行った時とは訳が違う。
けども。せっかく、西宮が頼りにしてくれてるんだ。無理でもここはやる。やれるように演じる。
「……西宮。俺から離れないって約束して」
「東野くんこそ、ボクから離れないでね。一人にしないで」
「離れられないよ」
男が一人でうろちょろしてたらどんな目で見られるやら。西宮から離れないようにするのと西宮に離れないようにしてもらわないと。
「それじゃ、入ろっか」
「う、うん」
後ろから西宮が服の裾を握ってきた。
ちょっとドキッとしながら、俺は西宮を連れて店内に足を踏み入れる。
あ、詰んだ。分からん。なーにも分からん。
入ってすぐのところで早速、立ち止まった。真っ直ぐ行けばいいのか。それとも、右か左か。周りを見ても売られているのは女性用の水着だらけ。
だから、適当に歩いて西宮が着る水着を発見するっていう流れでもいいんだけど……圧倒的に場違い過ぎてちょっとキツそう。
西宮にはゆっくり決めて、なんて言ったけどあんまり長考されるのは……いや、西宮に最後まで付き合うって決めてるし、どれだけ時間が掛かっても何も言うまい。
「えと。西宮が候補にしてる水着とかってある?」
「ぬ、布面積が多いやつ」
布面積が多いやつ。布面積が多いやつ……あー、あれか。確か、サーフィンする人が着てるような。全身を覆えるタイプの水着か。それなら、なんとなくイメージ出来るぞ。たぶん、スポーツ用コーナーとかに……あった。スポーツ用って書いてある。
「それなら、一回、あっちから見てみよ。西宮が気に入るのがあるかも」
スポーツ用と書かれた案内を見つけて向かおうとすれば裾を握っていた西宮の手に力が入って、止められた。
「ご、ごめん……もうちょっとだけ、布面積少ない方がいい」
「オッケ。そっち方面で探してみよ」
結局のところ、色々見てみないと西宮が望んでる水着は見つかりそうになく、手当たり次第に見ていくことにした。
こうして眺めていると女の子の水着って色々あるんだな。ビキニかスク水しか頭になかった俺には凄く新鮮に見える。西宮ならどれを選んでも可愛く着込なせるんだろうなあ。で、それに緊張する情けない俺ってのが今から目に見える。当日はちゃんと目を合わせるように意識しないと。
そんなことを頭にしながら見ていくとワンピースと書かれたコーナーが出てきた。見るからに布面積が多い。けど、俺がさっき思い浮かべたのよりは少ないように見える。
「ここはどう?」
「ちょっと見てもいい?」
「どうぞどうぞ」
西宮も気になったのか一つ一つ手に取って見始めた。ワンピースなんて外出用の服装ってイメージしかなかったけど、水着にもあるんだな。不思議だ。
「……ごめんね」
急に水着を見ていた西宮から謝られた。
「え、何が?」
俺は西宮に謝られる理由がこれっぽっちも分からなくて逆に不安になる。
「布面積が多い水着ばっかり選んでるから」
「それで、西宮がなんで謝んの?」
「男の子って肌の露出が多い方が嬉しいでしょ」
「……それは、なんというか。まあって感じではあるかと」
「本当はボクももっと肌が出るような水着にも挑戦って気持ちはあるんだけど……ボク、スタイル良くないから」
「そんなことぜんぜんないと思うけどな。西宮が気にしてる背が高いってのも俺には魅力的だし、手足だって健康的な細さでバランスよく見えるし……って、ちょっと。いや、かなりキモいな。俺」
いくら、付き合っているとはいえ西宮の体をじろじろ見て口にするのは自分でも引く。けど、思ってることは本心で西宮のスタイルが悪いなんて俺はぜんぜん思わない。
「あ、ありがと……でも、女の子としての部分がこんなだからさ」
胸元に手を当ててボソッと漏らす西宮。西宮が何を言いたいのか。何を気にしているのか。それだけで伝わった。
「だから、せめて、東野くんが可愛いなってちょっとでも思えるような水着を買いたくて」
「なるほど。だから、俺を付き添い相手に選んでくれたんだ」
「あと、ボクには場違い過ぎて誰かに来てもらわないと心細くて」
「場違いなのは俺の方が絶対に上だと思うんだが」
「……それと、東野くんに会う口実が欲しくて」
「……あざす」
どれも西宮の本心なんだということが伝わってきて嬉しいやら照れ臭いやら。
「水着の話だけど、西宮が気に入ったのを選ぶのが一番だよ。こんなこと言うと興味ないように聞こえるかもしれないけど、俺は西宮がどんな水着を選ぼうとドキドキしかしない自信がある」
「ま、真面目な顔して凄いこと言うね」
「だって、好きな子とプールとか今まで生きてきた中で初めてなんだ。変に意識するなって言われても無理。絶対、意識する」
「そ、そうなんだ……」
「そうなんですよ。だから、西宮が俺に謝ることとかないからやめてくれな。西宮に気負わせてるのかなーって不安になる」
「……そうだよね。うん。ごめんね。ここからは、ちゃんと着たい物を選んでみるから……意見とかもらってもいい?」
「それは、もちろん。俺の少ない語彙で全力で述べさせてもらいます」
「あはは。頼りにしてる」
西宮の顔に笑顔が浮かんだ。たぶん、西宮はずっと気にしてたんだ。選んだ水着に俺がガッカリしないかって。だから、どことなく店の中に入ってから元気がなかった。まあ、自分が場違いだと思い込んでたってのもあると思うけど。
「東野くん。これは、どうかな?」
そんな西宮がようやく笑ったんだ。ここは、ガッカリするようなことは言わない。
「露出控えめで西宮の希望通りに沿ってると思う。けど、露出が控えめってだけで、オヘソは出そうだし、下はスカートなんですんごい可愛らしい。西宮に着られたら直視するまでにしばらく掛かりそう。あ、想像しただけで可愛い」
「め、めちゃくちゃ言ってくれてる」
「あと、水色ってなんか可愛いからそれだけで見てみたいかも。あ、引かないでください」
「引きはしないけど、ぎょっとはしてる。じゃあ、こっちは?」
「今度のも見た目は服みたいだけど、さっきとは違って肩が出てるデザインだからスゲーセクシー。西宮が肩を出してきた日には俺は。俺は……っ」
「俺はどうなるの?」
「刺激が強過ぎて失神しそう」
「そんなに!?」
「……いや、ごめん。冗談」
「も、もお」
「けど、かなりドキドキしてプールどころじゃなさそう。わりと真面目に」
「そ、そうなんだ。じゃあ、着ないほうがよさそうだね」
「え、着ないの?」
「え、着てほしいの?」
「いや、西宮が選んだのが一番だから強くは言えないけど……そりゃ」
俺だって男だし。好きな子の肌に興味がないなんてないし。緊張して挙動不審になるかもだけど、肌を露出してくれてたら嬉しいってなるもんですよ。
「……東野くんのえっち」
「ああっ。ごめん。嫌だよな。ほんと、ごめん」
「……別に。そこまで嫌じゃないよ。こんなボクでもそういう風に見てくれてるんだって思ったらちょっとだけ嬉しいし」
「西宮」
「あ、相手が東野くんだからだよ。誤解しないでね」
「それは、もちろん」
「なんか、すっごくニコニコしてる……それにしても、水着どうしよ。決めるのが余計に難しくなったかも。東野くんがなんでも褒めてくれるから――」
言いながら西宮の動きがピタリと止まった。まるで、何かに視線を奪われているような。同じように西宮が見ている方に目を向ける。そこには、セーラーと書かれていた。
「あれが気になるの?」
声を掛けてみれば西宮が現実に戻ってきたようで急いで首を横に振る。
「う、ううん。今はあんなのもあるんだと思って見てただけだよ」
そうは言っても気になってるんだろうな。また食い入るように見てるし。西宮に勧めても手に取ることはなさそうで俺がかわりに手に取ることにした。
セーラー服みたいなデザインだけどちゃんと水着になっている。
「これ、ちゃんとした水着っぽいよ」
「へ、へえー。そうなんだ」
「これにする?」
「む、無理だよ。流石に、ボクには可愛すぎて向いてないよ。こういうの着るキャラじゃないし」
「絶対、西宮になら似合うと思うけどな」
「それは、東野くんのボクを見る目が甘いから」
「でも、西宮も気になってたんだろ。なら、これに決めてみるのも悪くないはずだけど。俺だってこれを着た西宮を見てみたいし」
水着を西宮に渡してみると西宮はじいっと見ている。自分には似合わないと思っていても、西宮も可愛い物に興味があるはず。だから、目にした時もあんなに見ていたんだし。ゆっくり悩んで考えればいい。
「に、似合ってなくても笑わないでね」
水着に隠れた西宮が不安そうに顔だけを出しながら言ってくる。
「笑うもんか」
「そ、それじゃあ。次のプールはこれにしてみようかな」
「賛成」
セーラー水着を着た西宮を見れる喜びから俺は握り拳を作った。西宮には見えないようにしながら。
「試着する?」
「出来るのかな?」
「出来るっぽいよ。なんか、下着の上から試着するんだって」
「詳しいね」
「調べたんだ」
南條からプールの連絡が入った後、俺も水着のサイズを新しくしようと一人で買いに行ったからな。それで、その時に調べた知識って訳。
「じゃあ、試着してくる。まあ、ボクのことだから着れないことなんてないはずだけど」
「うん。いってらっしゃい」
試着室に向かった西宮に付いていき、外で待つ。一人にされるのは不安だけど、流石に中に入る訳にはいかないしな。まあ、ここでなら、人を待ってるって思われて変な目でも見られないだろうし。
それにしても、水着一つ選ぶだけでも女の子は色々なことを考えて大変なんだな。俺なんてサイズが合えばなんでもよかったから適当に選んだのに。西宮がどんな気持ちで選んでるのか知ってるしちゃんと可愛いって言わないと。
頭の中で可愛いと言うシミュレーションを行なっているとカーテンの向こうから服が落ちる音が聞こえてきた。
……よく考えればこの向こうに服を脱いだ西宮がいるんだよな。ちょっとだけ離とこ。
少し横にズレて西宮の試着が終わるのを待つ。しばらくして、カーテンが開いて西宮が出てきた。試着は済んだようで着替えも終わっていた。
「お待たせ」
「どうだった?」
「……ボクがボクじゃないみたいだった」
「ほうほう」
「……なんか、おじさんみたいだよ」
「こりゃ、当日が楽しみですな」
「っ。お、お金払ってくる」
「あ。一人にしないで。俺も行くから」
早足でレジに向かう西宮を慌てて追い掛けた。




