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電車に揺られること約二十分ほど。西宮が水着を買うのに候補としている店が入っているらしいショッピングモールの最寄り駅に着いた。
駅からショッピングモールまでは直結していて改札を通って少し歩くと入り口が見えて来る。自動ドアを通ると一気に冷たい空気が押し寄せてきた。
「ん〜涼しいー」
気持ち良さそうに西宮がTシャツの胸元をパタパタさせながら風を送っている。別に、西宮の服の中が見える訳でもないけど、なんとなく目に毒で視線を逸らした。
「えーっと、何階にあるんだっけ?」
「えっとね、三階なんだけど……あ、あそこに地図があるよ。場所を確認しよう」
西宮と一緒に大きなフロアマップを見に行く。フロアマップはタッチパネル式になっていて、三階を押すと西宮が事前に調べていたらしい店の名前が出てきた。
「エレベーターに乗って行くでもいい?」
「おけ。そうしよう」
エスカレーターよりもエレベーターの方がここからだと遠くなるものの、その方が中を散策出来ることもあって西宮の望み通りにする。一階は飲食店が多く、今度は西宮とここにご飯を食べに来るのもありかもしれない。
今日は集合が昼過ぎでもう食べて来ちゃったからなあ。
そんなことを考えているとエレベーターが見えてきた。夏休みということもあってか、たくさんの人がエレベーターを待っている。エレベーターは三つあるがその全てが行列待ちだ。一番人が少なそうな列の最後尾に並んだ。
「待つしかないな」
「こういう時間も嬉しいよ。もうすぐするとボクは時間を楽しむ余裕なんてなくなるからね」
「え、何その意味深な発言……大丈夫?」
「うん。東野くんに心配してもらうのも申し訳ないくらいボク個人の些細な問題だから」
「そうなんだ? よく分かんないけど、俺に出来ることがあれば言ってくれな」
「ありがとう」
そんなことを話しているとエレベーターが降りてきた。ドアが開いて、中から人が降りてくると入れ替わるように人が入っていく。先頭になった。
「もう一本、遅らせようか」
「そうだね。ぎゅうぎゅうになりそうだし」
俺と西宮くらいならどうにか乗れる分のスペースはあるように見える。けど、苦しい思いをするくらいなら見送って余裕がある状態で乗った方がいい。
待った方がちょっとでも長く西宮と一緒に過ごせるし。
という訳で、中の人達に行ってもらうようジェスチャーをして次のを待つ。けど、それも時間にすれば短くて。すぐに次の便が到着した。
今度は先頭で待っていたから中の人が降りてから一番に乗れる。と思っていたら、横の列で待っていた人が抜かすようにして乗った。
マナーがなってねえ、とは思うもののいちいち文句を言ってる場合でもなく、俺と西宮も乗り込む。
すると、次々に後ろで待っていた人達も乗ってきた。一斉に乗り込んでくる勢いに負けて、俺と西宮は充分なスペースを確保出来ずに奥へと流される。
危なっ。
壁際に追いやられた西宮に俺がぶつかりそうになる。流石に、この勢いのままぶつかれば西宮が痛い思いをするのは明らかで。そんなこと、させたくなかった俺は咄嗟に壁に両手を付いた。腕に力を入れて、背中に掛かる人の圧に逆らって西宮にぶつかるのをどうにか阻止することに成功する。
ふう。よかった。後はこのまま耐えるだけだ。三階なんて一瞬だし。
「……西宮。だいじょ――あっ」
西宮にぶつからないことばっかり考えてたせいで自分が今、どんな状態になってるか気にもしてなかった。壁に手を付いてって壁ドンみたいじゃん。しかも、西宮とめっちゃ近くなってるし。あばばば。
自分の格好と西宮との距離を意識してしまったから心臓の動きが早くなったのが分かる。ドッドッドッと音も大きくなった気がする。こんなの、西宮にも西宮以外にも聞かれてるんじゃないか。
「ご、ごめっ……ちょっとだけだから、耐えて」
「う、うん」
小声で答えた西宮が急いで目を逸らした。驚かせちゃったんだろう。反省……ん。西宮の頬が赤い。
「あ、あんまり見ないで……照れちゃうから」
「わ、分かった」
手で口を隠しながら訴えてきた西宮に急いで俺は下を向いた。これは、あれだ。西宮は嫌がってるんじゃなくて、恥ずかしくなってるやつだ。俺もそうだし。
西宮があんな風になっていると分かったせいで余計に緊張が増していく。エレベーターのドアが閉まってようやく動き出した。
降りる人と乗ってくる人がいて、二階で止まる。一瞬だけ人が少なくなったような気がするけど、すぐにまた増えた。さっきと状況は変わらない。
早く。早く着いてくれ。
そんなことを願っていれば三階に着いた。三階でも降りる人と乗る人がいて、降りる人の波に乗っかる感じで俺と西宮も降りる。すぐに店に向かう気にはなれなくて、端に寄った。
三階なんて一瞬だと思ってた。実際、時間にしても短かったと思うし。でも、状況が状況だったからかやけに長く感じた。まだドキドキしてる。
「す、凄い人だったね!」
「さ、流石は夏休みだよな」
俺と西宮の間に流れている照れ臭さからくる変な空気をどうにかしようとしてくれているのか西宮が言ってきた。ただ、顔はそっぽを向いたままで。無理にテンションを高めてくれているみたいだ。
「こんなことならエスカレーターにしておいた方がよかったかもな。休日のエレベーターを舐めてた」
「そ、そんなことないよ。エレベーターにして正解だったよ」
「え、そう?」
「うん。絶対……東野くんは嫌だった?」
「嫌っていうより西宮に苦しい思いをさせたんじゃないかって……その、色々な意味で」
人混みもそうだし、俺が密着しそうになったのもそう。そのせいで、無理をさせてる訳だし。
「……ちょっっっと、恥ずかしかった」
「……だよな。俺もだし」
「けど、苦しいとかはないよ……ボク達、つ、付き合ってるんだし」
「あ……あー!」
西宮に言葉にされて、全身が熱くなった。西宮は何も変なことを言っていない。俺達が付き合ってる事実を言っただけ。なのに、言葉にされるだけで破壊力が凄い。また恥ずかしくなってきた。
「……やば。今の方が恥ずかしいかも」
西宮もだんだん恥ずかしくなってきたのか頬が徐々に赤く染まっていく。
「西宮だけじゃないから。俺もだから」
女の子のことを好きになって。その子と付き合えてるなんて初めてで。恋愛初心者の俺には何もかもが新鮮で慣れないことだらけ。だから、ちょっとしたことでも緊張したり、恥ずかしくもなる。
もっと、スマートになんでも出来るようになって余裕を持ちたい。
「顔見たら分かるよ」
「バレてましたか」
「ふふっ。二人で慣れていきたいね」
西宮が俺と自分を表すためなのか指でピースサインを作った。
「……西宮の言う通りだな」
なんとなく、俺が西宮をリードしたいとか。手慣れていた方が西宮に喜んでもらえるんじゃないかと思ってた。けど、今すぐ俺だけが変われる方法なんてないんだ。それに甘える訳じゃないけど、西宮と一緒に慣れていきたい。その方がより嬉しいはずだから。
「何もかも初心者の俺で至らない点ばかりかと思いますがよろしくお願いします」
「いえいえ。こちらこそ。よろしくお願いします」
頭を下げてお願いすれば西宮も同じようにしてきた。顔を上げると目が合う。それから、どっちからでもなく、笑いが込み上げてきた。変なことをしている自覚はある。けども、それが楽しい。
「そろそろ、店に向かおっか」
「うん」
少し歩いて目的地に着く。店の入り口に女性用水着を着たマネキンが立っていた。
「じゃ、東野くん。お願いします」
「え、何が?」
「先頭に立って。ボクをリードして」




