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この前、南條から提案された俺と西宮。北上と南條の四人でプールに行こうという案に俺達三人は乗り気じゃなかった。
小さい頃は夏休みに家族でプールに行くイベントもあった。とはいえ、そんなことももうなく。最後にプールに入ったのも去年の授業でだ。遊びでプールなんて数年は経験していない。
特に夏だからプールだの海だのというのがインドアの俺には似合ってない。そういうのはもっとアウトドアの人間がよく似合う。
そういう理由で俺はどっちでもいい、と返事をして。北上も同じように返していた。北上もどっちかといえば、俺よりのタイプの人間だと思う。意外だったのは西宮も乗り気じゃなかったことだ。
西宮みたいな体を動かすのが好きな子はプールとか海に喜んで行くもんだと思ってた。でも、西宮もどっちでもいいかなあ、とあまり前向きとは思えない返事を送っていた。
正直、この段階で乗り気じゃない人間が三人で遠回しに断られたようなもの。だというのに、そうならないのが南條の強いところだ。
相変わらず結束力ないね、いやあるのか、と訳の分からないボケとツッコミを入れてから、どっちでもいいなら行くってことで、と決められた。
俺達三人としては、相談してないとはいえやんわりと断る雰囲気に持っていったつもり。とはいえ、完全に断った訳じゃないから、改めては何も言うことが出来ず。
結局、プールには四人で行くことが決定した。
それから、すぐのことだった。ボク、水着持ってない、から……一緒に選びに行ってくれる?と西宮から送られてきたのは。
という訳で俺は今、電車に揺られながら西宮の最寄り駅を目指している。西宮の水着選びの相手が俺でいいのか正直、謎だ。南條とか女の子同士の方が色々といいアドバイスが言えそうなもの。
でも、ラインを何回見返してみても、西宮は俺を相手に指名している。ついでに、おばあちゃんの家から帰ってから、とも。
役に立つ自信はない。それでも、西宮に選ばれたからには出来る限り、西宮の力になりたい。
頑張らないとな。
そう気合いを入れたところでアナウンスが西宮の最寄り駅の名前を告げる。何両目に乗っているかはラインで伝えているとはいえ、すれ違いが起きるかもしれない。
そうならないために最初からドア際に立っていたんだ。探そう。
ゆっくりとスピードを落とす電車に合わせてホームにいる人影の中から西宮を探すために視線を動かす。けども、いない。もしかすると、もっと奥なのかも、と思ったところで電車が完全にストップ。
ドアが開いて人が乗ってくる。当たらないように避けながら引き続き、西宮を探していれば西宮が乗ってきた。ちょうど、俺がいるドアから。並んでる人の後ろで待っていたっぽい。
「あっ!」
大きい声を出し掛けたのか、西宮が両手で口を塞いだ。目を細めてやっちゃったって顔をしてる。そんな姿もいちいち可愛く見えてしまう俺はこうして西宮と顔を合わせるのが久し振りで変に緊張してしまう。
「よ、よっ」
ついつい愛想のない感じで手を上げた。これが、俺の精一杯なんだ。許してくれ西宮。
俺が内心で反省しているとドアが閉まって電車が動き出した。
「ううぅ……やらかしちゃった。久し振りに東野くんに会えたからついつい大きな声を出しそうになって」
「大丈夫だよ。誰も気にしてない」
「誰も、は言い過ぎだよ。反省しなきゃ」
「そんなに気にしなくていいと思うけど」
「それは、それとして」
「な、何?」
西宮がじいっと見てきた。緊張している俺は自然と背筋が伸びる。けど、目を逸らすようなことはしたくなくて、俺も西宮を見返した。
西宮と目が合う。その瞬間、西宮が凄く笑顔になったのは気のせいなんかじゃない、と思う。こう考えるのは照れ臭くて体の奥が熱くなるけど、俺と会ったから、かもしれないし、そうであってほしい。俺は西宮と久し振りに会えて、凄く嬉しいから。
「えへへ〜久し振りの東野くんだから脳内保存しておきたくて」
「なんじゃそりゃ。つか、恥ずいんですが」
「ごめんね。でも、我慢して」
「はい」
変に圧を感じて俺は大人しく西宮が満足するまでじっとする。しばらくすると西宮は満足したのか首を大きく縦にした。
「うん。充電完了」
「それは、ようござんした。席、座る?」
「そうしよ」
電車の中は人がいるとはいえ、どっちかといえば空いている方で俺と西宮は近くの席に座った。隣に座る西宮との間には拳一つ分も隙間がない。混雑時の電車なら知らない人ともこれくらい近くなる時がある。
そのはずなのに西宮とめちゃくちゃ近くて、心拍数が上がった気がした。
「今日はごめんね。ボクの買い物に付き合ってもらっちゃって。ありがとう」
「いや、嬉しいよ。西宮と会えたから。昨日から楽しみにしてた」
「そ、そっか」
「ただ、俺で大丈夫かなとは思ってる。俺、女の子が好きそうな物とか気に入りそうな物とか詳しくないから」
女の子が着る水着なんて論外だ。知ってるのは漫画とかラノベによく出てくるビキニかスク水くらいだけ。けど、スク水を女子高生が学校以外で着用するなんて現実じゃほとんどないはず。かといって、ビキニを推せばエロい目で見られてると西宮に思わせるかもしれない。
西宮ならなんでも似合うけど、西宮にそんな風に思われるのは嫌だしな……見たくないことはないんだけど。
「けど、せっかくの指名をもらったから西宮が気に入るのを見つけるまでいくらでも付き合うよ」
「や、優し過ぎだよ東野くん」
「そんなことはないと思うけど。俺が出来るのってそれくらいだし」
「そんなことある。おおありだよ。頑張ってささっと決めるからね」
「……どっちかといえば、俺的にはゆっくり決めてほしいと言いますか」
「どうして?」
不思議そうに西宮が首を傾けて聞いてくる。きょとんと俺の言葉の意図には気付いていない。改めて言うの恥ずかしー。
「……その方が西宮と長く一緒にいられる、から」
別に、西宮とはこれからも会える。プールの約束だってしてるし、まだ誘えてもないけど、西宮と行きたい所だって。だから、これが最後って訳でもないんだし、短くたっていいはずなんだ。
なのに、俺はほんの少しだったとしても今日、西宮と一緒にいられる時間を伸ばしたい。なんて、内心ではなんとでも言えるけど、いざ口にすると羞恥心が凄い。頬が熱くなってきた。西宮に重たい男だと思われてないか心配だ。
「あ、そ、そうだね。その発想はなかったな……」
ぽかんとしていた西宮は小さく呟くと俯いてしまった。
やっぱり、付き合ってるとはいえ、まだ日も浅い相手からそんな風に言われるのは嫌だったか!? それとも、下心なんて微塵もないけど、変な風に捉えられたか!?
「や、よく考えれば西宮の都合だってあるし急いだ方がいいなら急ぐから」
慌てて自分でもよく分からない言い訳を口にしている。俺、何を言ってるんだろう。けど、何か言ってないと落ち着けない。こうしてる方がマシだ。
「……ううん。ゆっくりにする」
「無理しなくていいから。ほんと」
「無理なんてしてないよ。ボクも東野くんと長くいたいもん」
顔を上げた西宮の頬は赤く染まっていて。それでも、こっちを見る目からは嫌がられているような感じはしなくて。たぶん、俺が自分の気持ちをああいう風にあんまり言わないから驚かせて。それから、照れてくれたんだと思う。
そう考えれば全身の血が沸騰しているように体が熱くなった。
「じゃ、じゃあ。そうしますか」
「う、うん。そうしましょー」
変に照れ臭くてソワソワしてしまう。西宮も同じなのか足をもぞもぞと動かしていた。半ズボンから伸びる西宮の細くて長い真っ白な足が目に眩しい。首筋には窓から射し込む日の光が当たって暑い。
夏だなあ。




