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西宮と付き合った。というより、付き合えた。ただ、タイミングが悪かったと思う。告白したタイミングがって訳じゃない。まあ、場所もタイミングもベストかと聞かれたら悩ましいけど。と、話がズレたけどもそうじゃなくて、夏休みに入って西宮と会う機会が格段に減ってしまったからだ。
こんなんでも付き合ってる身なんだから会おうと自分から言えばいいのかもしれない。ていうか、会いたいならそうするべきだと思うし、そうするつもりでもいた。
けど、西宮は今、田舎に住んでいるらしいおばあちゃんの家へと帰省中で会えない状況なんだ。だから、タイミングが悪かったな、と夏休みに入って思う毎日を過ごしている訳であって。
「早く、西宮に会いたいなあ……」
読んでいたマンガのページを捲る手を止めて、急いで口を塞ぐ。なんか、女々しい感情が勝手に出てきた。誰にも聞かれてないよな。
自分の部屋にいて、他には誰もいないというのに気恥ずかしくて周りを確認する。当然、俺の他には誰もいない。
安心してから、マンガを読んでる間でも西宮のことを考えて……そんなにも西宮に会いたくなってるのかと冷静に受け入れた。
自分で言うのもなんだけど、俺はわりと冷めている人間だ。他人と会わないくらい、どうってことがない。実際、去年の夏休みは家族以外、誰とも知り合いに会ってないし。
そんな俺がたった数日、西宮と会ってないだけで西宮に会いたくなっている。俺の中でかなり西宮が大きな存在になっているらしい。
これは、たぶん、西宮と付き合ってるから、だけではないと思う。例え、あの告白がなくて、西宮と友達のままだったとしても同じように感じていたはずだ。それほどまでに、西宮と話すようになってからの日々が楽しかったから。
らしくもなく、感傷に浸っているとスマホからラインの通知音が響いた。西宮からかもと思って、読んでいたマンガに栞も挟まず閉じて机に置いて、スマホを手に取る。
画面には西宮が写真を送信した、という文字が並んでいる。西宮からならなんでも嬉しくて、すぐに西宮とのトーク画面を開いた。
それと同時にめっちゃでっかいカマキリいた、と並んだ文字と最後にビックリマークが三つ付けられた文章が送られてきた。
「か、カマキリ?」
わ、訳が分からん。なんで、急にカマキリ? あ、写真。うおっ。確かに、めっちゃでっかいカマキリがいる。こんなに大きいのは見たことない。
西宮から送られてきていたカマキリの写真。その大きさに圧倒されていると新しく西宮から文章が送られてきた。その内容、既読になるの早いね、という。
まるで、俺が西宮からの連絡をずっと待っていたように思われてる言い方だ。事実だからいちいち訂正はしないけど、なんか恥ずかしい。
頬に熱が集まってくるのを感じながら、西宮からだと思ったからと返事を送る。一応、夏休みに入ってからまったく西宮と連絡を取ってない、なんてことはしていない。近況報告みたいなものを送り合う時間を過ごしている。
だから、余計に西宮と会って話したいって欲が出てるんだけどな。
俺が送った内容にすぐに既読がついて、通話で話す?と返ってきた。通話。なかなかメッセージだけのやり取りが多かったから、久し振りに西宮の声が聞ける。
断る理由なんてどこにもなくて、俺は二つ返事で話したい、と送った。
すると、すぐに西宮から通話が掛かってくる。
てっきり、音声だけかと思っていればビデオ通話だ。出ると西宮の顔がドアップで画面に映った。
「わっ。距離感間違えた。ちょっと待ってね」
「ん、りょーかい」
「ビデオ通話とかほとんどしないから難しいね」
「あ、そういえば俺もだ。俺の方は大丈夫?」
手を伸ばしてスマホを持っているから西宮みたいにどこか一部だけが映ってるってことはないと思うけど。
「東野くんは大丈夫だよ。ちゃんと見えてる。これで、ボクの方も大丈夫かな?」
「うん、よく見え――ゲホゲホ」
西宮がスマホをいい位置に置いたのか西宮の全身が見えた。その瞬間、言葉が詰まってむせた。咳が出てくる。
「だ、大丈夫?」
「ご、ごめ。大丈夫」
たんに唾が喉に引っかかったとかじゃない。西宮の格好に驚いたからだ。西宮はうっすい服を着ていた。たぶん、キャミソールってやつ。ただでさえ、自分のファッションに興味がない俺が女子が着る服に詳しい訳がないけど、たぶん合ってる。
「……ど、どうかした?」
西宮がじーっとこっちを見てくる。西宮の胸元より上の部分がもろに見えて狼狽えてる気持ち悪いやつだって引かれてるのかもしれない。
「……いや、東野くんと数日ぶりに顔を合わせられたから嬉しくて。えへへ。なんか、照れるね」
照れ臭そうに頬をかきながらはにかんできた西宮に俺は自分の頬をぶん殴りたくなった。そんな風に言ってくれる西宮を相手に変なことを考えて申し訳なさがすごい。胸元にばっかり視線が吸い寄せられそうになるけど、絶対見ないぞ。ちゃんと目を見て話すぞ。
「俺も……今日、なんか西宮に凄く会いたくなってたからこうして顔を見られただけで嬉しい」
「っ。そ、そっか! ごめんね! おばあちゃんの家に行くことになっちゃって!」
なんか、また声が大きくなってる。ビデオ通話でよかったな。こんな声量のまま耳元で話されたら耳が終わってた。
「や、それは謝ることじゃないよ。むしろ、西宮はほんとに家族と仲良いんだなって。上手く口では言えないけど、こう喜ばしいというか」
「そ、そか! それは、よかった! でも! 東野くんに会えなくて寂しいよ!」
声を大きくしたままとんでもないことを西宮が言ってくれる。そう言ってくれて嬉しい反面、気恥ずかしさも強くなる。
けど、ここで何も言わないのは彼氏として……まあ、彼氏らしさとかさ、ぜんぜん出来てないし付き合ってる実感もあんまりないけど、どうなんだって話だよ。
「じゃあ、西宮がこっちに戻ってきたら会おう……や、会ってくれる?」
ここで言い切れないのが情けない。誰かを遊びに誘う経験をほとんどしてこなかったのが悪く出た。断られるのが怖い、だなんて思っても仕方がないことなのに日和ってしまう。
いつか、さらっと言えるようになりたい。
反省しつつ、気になる西宮の反応を見る。西宮は口をぽかんと開けたまま固まっている。かと思えば口を閉じて画面に食い付いてきた。
「会おう! 会おう!」
こんな風に表現されると喜んでいることがこれでもかと伝わってきて、正直、くすぐったい。でも、それが俺は嬉しくて、ついつい口角が上がるのを感じた。
「西宮。また近くなってる」
「あ、つい。ごめん。けど、楽しみにしてるね」
「俺も」
こうして話してるだけでも、俺は凄く楽しい。けど、実際に会った方がずっともっと絶対、楽しいはずだ。今から会える日が待ち遠しい。
「えへへ」
ニコニコと笑顔を浮かべる西宮。画面越しとはいえ、こうして顔を合わせるのは久し振りで。やっぱり、西宮って可愛いよな、と思う。
「あ、そうだ。カマキリの写真見た?」
「見たよ。突然のカマキリは一瞬、はてなになったけど」
「あはは。でも、大きかったでしょ?」
「確かに、大きいのは大きかったな」
「だよね。朝の散歩中に見つけたんだけど、東野くんにも見せてあげないとって思ってすぐに写真撮っちゃった」
「いいもん見せてもらったよ」
別に、カマキリはそんなに好きじゃない。けど、楽しそうに語る西宮を見ていられるなら、いくらだって聞いていても苦じゃない。
「……あ、カマキリの写真なんて送る女子なんて変だよね?」
「え、ぜんぜんそんな風に思わないけど。それに、西宮は俺に見せたいって思ってくれたんだろ。俺はそれが嬉しいし。西宮と色々な話が出来て楽しいと思ってるよ」
「……そっかあ。東野くん」
「ん?」
「好きだよ」
突然のカミングアウトにまたむせそうになった。
「え、な、何?」
「気持ちが強くなって言いたくなった!」
照れているのか西宮の声が大きい。心臓に悪いからいきなりはやめてくれ。ていうか、そんな場合じゃなかった。
「お、れも西宮のこと、好きだから」
改めて言うとなれば俺も照れくさくてぎこちなくなってしまう。そんな情けない俺なのに西宮は目を細めてくすぐったそうにしてくれる。甘いな、西宮は。
「んふふ。もっと、色々な話し、しようね」
それからも、西宮とは一時間くらい話していた。毎日、何して過ごしてるとか。ご飯は何を食べたとか。特に特筆すべきようなことじゃない。日常の。ありきたりな会話。
けど、その時間が楽しくて。西宮との通話を切った後は読書がすこぶる捗った。
その日の夜のことだ。
俺と西宮。北上と南條の四人で作ったライングループのトーク画面に南條が投稿した。今度、四人でプール行こうよー、と。




