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西宮が言ってたスパイクを決めたら男っぽいっていうのはどういう意味なんだろう。確かに、バレー部でもない西宮がスパイクを完全に決めたらそれはもうめちゃくちゃカッコいいと思う。敵チームだったとしても、拍手を送りたくなるはずだ。
でも、別に男っぽいとは思わない。何もバレーは男性だけがする競技じゃない。女性だってする。テレビで試合の様子が放送されたりする時は女性だってバンバンスパイクを決めている。
それに、せっかく女の子として見てくれる人が増えてきて喜んでたのにまた男っぽいって思われても西宮が嫌な気持ちになるだけだと思うんだけどな。
試合中だというのに俺は頭の中は西宮でいっぱいいっぱい。まあ、対してボールもとんでこないからいい――。
「東野、ボール!」
「え、ああっ」
タイミング悪く俺の方へとボールがとんできた。教えてもらったおかげでどうにか反応して、ボールを宙へと返した。のはよかったものの、ボールはふらふら。どうにかチームメイトが繋いでくれて相手コートへととんでいった。ふぅ。危ない危ない。
と一息ついたのも束の間。西宮がジャンプしたのが見えた。手はまたスパイクを打つ準備へと移行している。そして、ちょうどいいタイミングでボールがきたのだろう。西宮がボールを叩くと痛快な音を鳴らしながら落ちてきた。
ボールが向かう先には三原がいる。三原は自分の方にボールがとんでくるとは思ってなかったのか触れることには成功。けど、返すことは出来ずにそのまま西宮のスパイクが決まった形になった。
「うおースゲーな。西宮」
「いいアシスタがあったおかげだよ。ありがとう」
「なんのなんの!」
西宮と西宮へトスを出した男子がハイタッチを交わす。いいなあ。その役目、俺がよかった。羨ましい。
それにしても、やっぱり、西宮は凄いな。バレーは初心者だなんて言いながらスパイクを決めるんだから。カッコいい。カッコいい、けど。嬉しそうに笑ってる西宮は可愛いんだよな。ほら、ぜんぜん男っぽくないし。
「あーいった。突き指したかも」
突然、三原がそんなことを言い出した。西宮のスパイクを返そうとしてボールに触った時、ちゃんと受け止めきれなくて指を痛めたのかもしれない。スポーツ中の怪我なんてよくあることだ。運がなかったな。
「先生。保健室行ってきます」
「私達も心配だからついて行きまーす」
三原とよく一緒にいる二人が勝手に保健室へと向かおうとする。そんな三人に駆け寄る人影が一人。西宮だ。
「ご、ごめんね、三原さん。大丈夫?」
「うんーだいじょーぶだから気にしないで〜」
「う、うん……」
三原達が体育館から出て行った。別に、三原が突き指したのなんて西宮のせいじゃない。けど、西宮は自分のせいだと思っているのか表情が険しくなっている。
それは、プレーにも表れた。また怪我でもさせてしまうと遠慮しているのかさっきまでの勢いが西宮にない。どう見てもチャンスだと思えるタイミングで西宮にボールが回ってきても自分で決めようとはせず、チームの誰かに託している。
抜けた三原達三人のかわりに新しく入ったチームメイトの活躍があったり、西宮の勢いがなくなったこともあって一試合目は俺達のチームが僅差で勝利を収めた。
けども、あんまりいい気分じゃない。チームメイトは喜んでるけど、西宮が落ち込んでるんだ。素直に喜べない。
すぐにチームが入れ替わって二試合目が始まった。俺は休憩の時間だ。体育館の端っこに腰を下ろして試合を観戦する。
やっぱり元気ないな、西宮。
チームメイトを応援もせずに俺の目は足りない人数を補うために連続で出ると決まっていた西宮ばかり追ってしまう。西宮はさっきと同じで控え目だ。ぜんぜん楽しそうじゃない。
早く三原が戻ってきて大丈夫だったことを西宮に教えてあげてほしい。そしたら、西宮も感じる必要のない罪の重さから開放されて、思いのまま体を動かせるはずだ。
「東野、ちょっといいか?」
「あ、はい。なんですか、先生」
「保健室まで行って三原達の様子を見てきてくれないか。もし、復帰出来そうにないならチームの代理を立てないとだろ」
なんで俺がそんなめんどくさいことを……いや、これは好都合か。三原の突き指が大したことのないものだったら西宮にそう教えてあげられる。
「分かりました。行ってきます」
「すまんな。助かるよ」
ということで俺は体育館を出た。保健室は体育館とそう距離が離れてない。上履きに履き替えて、廊下を小走りで進む。静かだ。授業中だから当たり前だけど。
上履きと廊下が擦れる音を響かせながら俺は保健室へと到着した。引き戸の取っ手に手を掛けて、それを発見。職員室にいます、と書かれたホワイトボードがひもで吊るされていた。
なんだ。先生いないのか。まあ、中を確認して誰もいなかったら職員室にでも――。
「それにしても、西宮のやつ。ほんと鬱陶しいわ」
中からそんな声が聞こえてくる。この声の大きさは三原のものだ。どうやら、中にいるらしい。しかも、西宮のことを鬱陶しがっている。突き指させられたから怒ってるんだろうか。
痛いのは嫌だけど、そんなキレなくてもいいと思うんだけどな。西宮だってわざとじゃないんだし。
「あはは。三原って西宮のことほんと嫌いだよね」
「まあ、分かるけどね。最近、ほんと調子乗ってるっていうか」
「周りからチヤホヤされて舞い上がってるんだよ。ちょーっと髪型変えただけで可愛いってモテはやされてさ。自分が可愛いとでも誤解してるんでしょ。はっ。あんなのぜんぜん似合ってないっつーの」
な、なんだコイツら。めっちゃ西宮の悪口を言うぞ。さっさと突き指がどれくらいのものか聞いて戻りたいってのに動くに動けないじゃん。
「思い出しただけでイラッとする」
「どうする? また呼び出してこの前みたいに釘を差す?」
「あの時の西宮、ちょービビってたもんね」
「まあ、ちゃんと現実ってやつは教えといてあげないとじゃん? 西宮くん、なんだし」
なんとなく、なんで西宮がスパイクをあんなにも決めたがっていたのか想像出来た。コイツらだ。コイツらのせいだ。この前、三原達が西宮に声を掛けてきた時、俺はてっきり遊びに行くもんなんだと思った。だから、遠慮した。
けど、あの日、三原達は西宮に釘を差したんだ。西宮に何を言ったのかは分からない。可愛くない、とか。男みたいなんだから女の子ぶるな、とか。きっと、西宮が傷付くなような言葉をさんざん浴びせたんだろう。
そのせいで、西宮はスパイクを決めたら男っぽくなると考えた。それで、あんなにもスパイクに執着してたんだと思う。自分が男っぽいと周りに。三原達に証明するために。
三原達からさんざん言われて、西宮はどんな気持ちだったんだろう。今まで、自分のことを男の子みたいになるように振る舞って。それが、少しずつだけど周りから見られる目が変わってきて。そのタイミングで全否定される。
悲しくなったはずだ。それで、また、自分は可愛くない。女の子じゃない。男みたいに振る舞わないといけない。そんな風に思い込んでるはずだ。西宮はすぐに行動に移すから。
俺のせいだよな。あの時、俺が西宮と約束してるからって言ってたら西宮が悲しい思いをすることはなかったかもしれないんだ。ごめんな、西宮。
「でもさ、さっきの見る限りぜんぜん理解してないんじゃない。見せつけるように男子と仲良くしてたし」
そもそも、なんでコイツらが西宮のことをこんなに嫌うのか分からなかった。あんなにも可愛くて。人当たりがよくて。明るい女の子。嫌いになる要素なんてどこにもなくて、西宮なんて誰からも好かれるような女の子だ。そんな西宮が三原達に対して何かしたとも思えないし。
「ほんと男好きだよね。どうせ、裏で男子に泣きついてよしよししてもらってるんでしょ。イジメられた〜って。あー気持ち悪っ」
ああ、そっか。コイツらは嫉妬してるんだ。体育祭以降、可愛いと言われて男子に優しくしてもらってる西宮に。それ以前から、男子と仲良くしていた西宮に。それが、気に食わないんだ。
くだらない。くだらなさ過ぎて呆れてしまう。
けど、そういうのは三原達以外にもいるのかもしれない。女子が男子と仲良くする。高校生にもなれば、そういう光景を色々な理由でよく思わない周りの連中がいるくらい普通のことだ。
それに、自分と関わりのない相手でもなんか嫌いだなってのは誰にだってあるはずだ。今の俺みたいに。
だからって、それを西宮にぶつけるなよ。
三原達の声を会話を聞いてるだけで腹が立つ。あの日、西宮がこんな目に遭うなんて思いもしなかった自分にも腹が立つ。
せめて、なにか一言くらい言ってやらないと気が済まない。西宮の気持ちを知りもしないくせに。
さっきからずっと手を掛けていた引き戸の取っ手を思いっきり引こうとして――やめた。西宮は俺に助けを求めたりしてない。一人で頑張ってる。俺が出しゃばるのはここじゃない。傷付いてる友達に何が出来るか考えることだ。
戻ろう。これだけ西宮の悪口が言えるんだ。三原の突き指だって大したことないに決まってる。ていうか、怪我したのなんて自業自得だし。西宮が気にすることないよ。
そのことを一刻も早く西宮に教えてあげたくて。三原達からの西宮の悪口を遠ざけたくて保健室から離れる。
「そうだ。今度はさ、西宮が男となら誰とでも寝るって噂でも流してみる?」
「それいいじゃん。楽しそう」
やっぱり、無理だった。体が反射的に引き戸を開けていた。これ以上、西宮が傷付くようなことをするつもりなら話しは別だ。




