44
明日は終業式。明後日からは待ちに待った夏休みに突入だ。その前に、クラス全員で遊ぼう、と担任の提案によってクラス全員でバレーボールをすることになった。
ドッジやサッカー、野球などの球技が男子から挙げられたが女子の強い要望によってバレーに決まった。何やら、アニメ化もされた週刊誌で連載されていた大人気バレー漫画が映画化されるとのことで、やりたいらしい。
俺が知らないだけで意外とアニメやマンガを見てる女子ってのは多いのかもしれないな。親近感が湧く。
と、話が逸れたけどそういうことでバレーボールをすることが決まって、今からすることになっている。体操服に着替えて、体育館に集まった。事前に決められたチーム毎に分かれて集合する。
うちのクラスは全部で三十五人。一チーム九人のグループを四つ作り、その内の二グループを合体させる、という方法で俺達は分けられている。ややこしいので簡単にいえば、十八人対十七人で戦おうってことだ。
俺がいるグループには誰も知り合いがいない。いや、全員なんとなく名前は分かりそうなんだけど、仲の良い人は一人もいない。西宮も北上も南條も。みんな向こうのチームだ。教室での席を真っ二つにしてチームを決めた方法に異議を唱えたい。あっちがよかったなあ……。
「西宮さん、背が高いから頼りにしてるね」
「うん、任せて……って言っても、バレーは初心者だから上手に出来るか分からないけど。でも、やれるだけのことはするよ。勝負だから勝ちたいし」
「西宮さんって負けず嫌いなんだ。二人三脚の練習をするくらいだもん。そりゃ、負けず嫌いか」
楽しそうに西宮と南條が話してる。いいなあ。楽しそうで。
「ていうか、今日はシュシュどうしたの? また髪を服の中に入れてるけど」
「昨日、洗濯しちゃって持ってこれなかったんだ。だから、前のスタイルに戻してみた」
「そうなんだ。髪、鬱陶しいでしょ。私、ゴム余ってるから貸そうか? ついでに、アレンジしてあげる」
「ううん、大丈夫。ボクはこのままでいいんだ」
「分かった。もし、必要になったらいつでも言ってね」
「ありがとう」
なるほど、そういうことだったらしい。体操服姿の西宮がまた服の中に髪を入れてたから気になってたけど、洗濯してまだ乾いてなかったんだろう。
別に、俺があげたものを絶対身に付けてほしいだなんて思ってない。そういうのってなんか自分に対して言葉にしがたい嫌悪感を抱きそうだし。
ただ、もう夏だ。七月に入っているし、体育館の中には熱気が充満していて何もしていなくても汗が垂れてくる。とにかく熱い。南條にゴムを借りて楽な髪型にしてもらえばいいのに。西宮なら何だって似合いそうだし、そういう西宮を見てみたいし。
なんて。そんなことを考えながら西宮のことを見ていると南條が西宮に耳打ちしていた。すると、西宮がこっちを見て手を振ってくる。どうやら、俺が見ていたことに南條が気付いて西宮に教えたみたいだ。恥ずかしっ。手を振り返してみると南條が西宮の横腹を肘でつついていた。何してんだろう。
「おーい。集まれー」
先生がやって来た。西宮と南條も向こうのチームで集まりに行く。俺も移動しよう。端っこの方で座りながら先生の話を聞く。先生が手短に済ませた話が終わると早速、勝負が始まった。
チーム分けの結果、俺は第一第三試合に出る。
つまり、早速コートに立っているという訳だ。遊びだからこそ、コートに立つ人数も独自ルールで一度に九人も立つと結構、狭い。おまけに、女子もいるしなかなか動きにくそうだ。
まあ、端っこにいてボールがとんできたときだけ役に立てるよう心掛けていよう。
「あー……マジでめんどくさ。なんで、バレーなんてダルい競技するかな〜」
「ほんとそれな」
「化粧崩れるからやだわ」
前の方で三原達がダルそうに口にしていた。
「三原達、バレー部だろ。頼んだぞ」
「え〜頼られても困るんですけど〜。今じゃ幽霊部員だし」
三原達はバレー部だったらしい。男子が信頼しきっているがどうにもやる気は出てないようだ。気怠げに雑談している。
それでも、バレー部が同じチームにいるのは心強い。俺みたいな初心者よりはよっぽど活躍してくれるだろうし、俺も頼りにしていよう。
他人任せで試合に挑む。バレーは三原達のように部活などでちゃんと基礎がなっていないと難しい球技だと思う。まず、トスが続かない。ボールが空に上がっては色々な方向にとんで落ちる。たまたま上手くトスが続いてもタイミングよくスパイクを決めるなんて至難の業だ。両チームともラリーも続かないまま点数を取り合う形で試合が進んでいる。
俺もそうだ。ボールが落ちてくる真下に入り込めても誰にトスを上げればいいか分からずただ落ちないように打ち返すだけ。そのボールを味方の誰かが打ち返してくれたらいいけど、なかなか上手くはいかない。
けど、それがみんなは楽しいらしい。誰かが失敗しても誰も責めない。それどころか、笑いながら励まし合っている。
そりゃ、そうだ。全員下手でこれは遊び。試合でも勝ち負けが全てじゃない。楽しんだもん勝ちなんだ。
「負けないよ、東野くん」
「望むところだ」
前の方頼んだ、と言われて前に来ていたらネットを挟んだ向こうから西宮が話し掛けてきた。西宮はその身長を活かすためかずっと前衛にいたことは知っていた。けど、こうして向かい合うような形になるとは思っていなくて驚く。
相手チームからのサーブがとんでくる。それを、チームメイトが上手に打ち上げ、トスを繋いで相手コートにボールが返った。俺は何もしていない。
相手チームもとんできたボールを打ち返し、トスを繋いで西宮の真上にボールが上がった。タイミングよくジャンプした西宮。腕を大きく振りかぶっている。スパイクを決める気だろう。
させるか、とジャンプした途端、西宮がボールに軽く触ってボールがコートに落ちた。俺のジャンプは全く意味を出すことがなく、着地する。西宮は得意気な顔で意地悪そうな笑みを浮かべた。
「どう、ボクの演技は? 騙されたでしょ」
「く、悔しいぃぃぃ」
「いひひ……なーんてね。ほんとは東野くんにいいところ見せたくてスパイク決めたかったんだけど、タイミングが合わなくてああしたんだー」
「急に変更して対応するとかプロじゃん」
「大袈裟だよー本当は、こう、バシッとね」
スパイクを決めるための練習として西宮が素振りをしている。
「そんなに決めたいんだ」
「うん。そしたら、男っぽいでしょ?」
「え?」
「東野ー今度は後ろの方にいてくれー」
「呼ばれてるね」
「ああ、うん」
「ボクのスパイクが決まったら当たらないように気を付けてね」
「逃げないよ。西宮からは」
例え、西宮のスパイクが強力だったとしてもコートの後ろの方にいれば威力は落ちるはずだ。この位置なら返せるかもしれない。そう期待して足を止めた。
さっきの西宮の一言はどういう意味だったんだ。




