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放課後になった。北上がこっちを見ながら教室を出て行く。俺は頷いて合図した。分かってる、と。
南條とは正門で待ち合わせする話になってるらしい。昼休みに北上から教えてもらった。そこに、俺が西宮を誘って合流する、という形だ。
南條もいつの間にか教室からいなくなっている。昼休みからそんなに時間があった訳じゃないけど、結局、南條からはひと言もなかった。南條の中ではすっかり誘った気でいるんだろうか。
なんにせよ、早く西宮に声掛けないとだな。
ちょうど、帰る用意をしている西宮の元へと向かう。
「西宮西宮」
「東野くん」
声を掛けただけ。それだけなのに、なんだか西宮が凄く嬉しそうにしてくれてる気がする。声も弾んでるような気がするし、目を細めてニコニコもしてる。
そんな笑顔を向けられて俺はドキッとした。
「どうしたのっ?」
「今日って南條から何か聞いてる?」
「南條さんから?」
首を傾けた西宮。その反応で何も言われてないことが分かる。
「ボクは何も聞いてないけど、南條さんが何か言ってたの?」
「俺も南條から直接聞いた訳じゃなくて北上から言われたんだけど、これから、南條が北上にテスト前に勉強で助けてもらったお礼をするんだって」
「あ〜南條さん、北上くんにすっごく教えてもらってたもんね。それで、成績上がったーって喜んでたし」
「よっぽど嬉しかったんだろうな。甘い物奢るらしい。西宮もそうだけど、女の子って甘い物が好きだよな」
「う、うん。嫌いって子もいると思うけど、ボクは好き、だよ……あ。そ、それで、北上くんがどうしたの?」
「俺と西宮も誘われたかなって気にしてて」
「ボク達が誘われる理由がないと思うんだけど」
「だよな。でも、北上が俺達も一緒なのか南條に聞いたらうんって答えられたんだと。たぶん、一緒に勉強してたから誘うつもりだったんじゃないかな。けど、忘れたまま今日を迎えたんだと思う」
「なるほど……じゃないよ!」
「ええ」
「ちょっと来て」
急に西宮に手を引かれ、窓際に連れて来られた。西宮は周りをきょろきょろと見渡すとカーテンを引っ張って自分と俺を隠すように覆った。
「……これ、どういう状況?」
「ここからの会話は誰にも聞かれたらダメだから」
カーテンの中は狭くて、西宮との距離がかなり近い。おまけに、西宮は興奮しているのか俺に詰め寄るように距離を詰めてくる。日が差し込んでからなのか。緊張からなのか。体が凄く熱くなる。
「それで、東野くんは北上くんにどう答えたの?」
「西宮を誘って行くって」
「はあー……それじゃ、ダメだよ」
西宮は大きなため息をついて肩を落とした。今までどんなことをしでかしても西宮に呆れられたことがなかったのに初めて呆れられた気がする。傷付くな、これは。そんなに俺の返答はまずいものだったんだろうか。
「いい、東野くん。南條さんはね、北上くんと二人がいいんだと思うよ」
「そうなのか? 誘い忘れてるんじゃなくて?」
「断言は出来ないけど、あえて、ボク達には声を掛けなかったんだよ」
「なんで?」
「そういうことだから、だよ」
「そういうこと?」
そういうことってどういうことだ。さっぱり分からん。
「とにかく、北上くんに今すぐ行けなくなったって連絡して」
「わ、分かった」
西宮に言われたようにラインで北上に行けなくなった連絡を入れる。画面を西宮が覗き込んで安堵したように息を吐いた。どういう状況なのか意味不明だ。
「ふう……南條さん、ボクはやり遂げたよ」
「達成感をすごい出すな」
「これは、重要な事だからね」
「そんなになのか?」
「そうだよー。あ、この話は誰にも漏らしちゃダメだからね。しーっだよ」
人差し指を立てて口外しないようなジェスチャーをする西宮。目は閉じて、かなり真剣だ。よく分からないけど、それだけ西宮が真剣なら守る必要があるはずだ。
「誰にも言わないよ」
「うん!」
満足気に歯を見せて笑った西宮。それから、ようやくこの状況に意識が向いたようだ。
「……あ。そ、そろそろ出よっか」
頬を赤く染めて、西宮がカーテンの外に出る。俺も後に続けば、西宮は居心地悪そうに体を揺らしていた。
「けど、そっか。一緒に行かなくなったから、西宮とも遊べないんだな」
「ぼ、ボクならこの後、予定ない、よ」
「じゃあ、俺達もどっか行くか。甘い物食べにでもいいし」
「うん――」
「――西宮さん、ちょっといい?」
西宮が頷くと同時にクラスの女子が三人集まって西宮に声を掛けてきた。名前は確か、三原だった気がする。声が大きくて、西宮や南條とは違った形での目立つ女子だ。
「どうしたの?」
「この後、暇? 暇ならちょっと付き合ってほしいんだけど」
「えっと……」
西宮が困った顔で俺を見る。それに合わせて三原達も俺を見てきた。三原達にとって俺ってのは害のない存在のはずだ。話したこともないし。それなのに、俺を見る目が睨んでるように感じるのは気のせいか。なんか、怖い。
「あー俺のことは気にしなくていいよ」
「え、けど、せっかく……」
「そうだけど、また誘うつもりだから」
三原達にビビってこう言ってる訳じゃない。せっかく、西宮を誘ってオッケーがもらえたんだ。この機会を手放すのは辛い。
けど、それ以上に西宮が女子と遊ぶ機会を潰したくないんだ。
「まあ、西宮が決めてくれ。気負う必要はないからな。西宮が決めたことに付き合うし」
もしも、西宮が俺を優先してくれるなら西宮の気持ちを尊重するし、今度に回されても尊重する。何も西宮とは今日限りってことじゃないんだ。明日でも。明後日でも。また遊べる日は来る。
「……ほんとにまた誘ってくれる?」
しばらく考えてから西宮が聞いてきた。
「うん、約束する」
「……じゃあ、今日はこっちにしようかな」
「オッケー。じゃ、行こ」
「あ、うん。じゃあ、また明日ね……」
「また明日」
西宮が三原達に引っ張られて行く。さっきよりも明らかに元気がない。何度もこっちを振り返ってくれる。
「私達と遊ぶのそんなに嫌なの〜?」
「そ、そういう訳じゃ」
名残惜しそうに西宮がしてくれてるってのは俺の自意識過剰なんだろうか。そう思ってくれてるなら嬉しいし、西宮にあんな顔させた責任として早急に次の約束を俺から誘わないとだ。
「……ああ、でも。やっぱ、残念だな」
気にしなくていいよ、と言った手前、そんな風に思うなと言いたくなるけど西宮と遊びたかった。今日はそういう予定じゃなかったけど、昼休みから遊ぶつもりになってたから気持ち的に下がる。
別に、西宮とはまた遊べるんだから切り替えればいいってだけなんだけど……それだけ、俺の中で西宮と遊ぶことが楽しみになってるんだな。
「……帰ろ」
この下がった気持ちをどうにかするため、今日はもう帰って昼寝しよう。寝たら時間だって早く経つし。
そんな計画をして俺は帰宅した。あーあ、つまらん。




