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家に到着すると「お風呂沸かしてくるから待ってて」と母さんに言われ、俺と西宮は車の中に取り残された。玄関で待たせて体を冷やすより、暖房が効いている車内の方がいいと判断したんだと思う。
「成り行きでだけど東野くんの家に来ちゃったね」
「そうだな。俺から誘えなかったってだけが悔やまれるけど」
西宮の家に遊びに行った時、西宮は言った。俺の家で二人きりになっても問題ないと。あれは、だから、俺に家に呼んでね、と遠回しに伝えてきていたんじゃないかと思う。
異性の家で異性と二人きりになる。別に、西宮に変なことをしようだとか考えてもないし、友達ならそれくらい普通なんだと思う。家に行き来するような異性の友達がいないからよく分からないけど。
とはいえ、誘えるなら西宮を誘いたかったってのも本当だ。西宮に好きな人がいる、なんて知らなかったらもっと気軽に誘えたり出来たんだろうなあ。断られたら俺じゃないんだって言われてるような状況で簡単に誘えたり出来ないっての。
「じゃあ、また誘ってよ。今度は遊びに来たいし」
「いい、けどさ……西宮はいいのか?」
「何が?」
「何がと言われたら言いにくいんだけど……西宮が困るような問題が起こらない?」
西宮に好きな人がいると西宮から教えられた訳じゃない。告白されたことも西宮は言っていない。俺が一方的に知っているだけ。
だから、もし西宮の好きな人が西宮が俺の家で二人きりになったと知って嫌がり、西宮が傷付くようなことにならないか心配になる。
「友達の家に遊びに来るのに何も困ったりしな……いこともないかも。今日みたいに緊張したりはすると思うし。でもでも。ボクは東野くんに誘ってもらえたら喜んで来るよ」
俺と西宮は友達。だから、誘ってもらえたら嬉しくなる。それだけのはずなのに、西宮がそう言ってくれるだけで胸の奥が熱くなる。
俺だって誘っていいんだよな。西宮の好きな相手が俺の可能性だってあるかもしれないんだから。
「それなら、また今度。ちゃんと誘えるように頑張ります」
「ボクは頑張らないと誘えない相手なの?」
頬を膨らませた西宮が顔を近付けてくる。
「ボクって東野くんにとって頑張らないと誘えない相手なんだね」
「二回も言った」
「だって、悔しいんだもん。友達なのに頑張らないと誘ってもらえないなんて」
「もしかして、怒ってる?」
「怒ったりはしてないよ。けど、もっと仲良くならなきゃボクの気持ちは伝わらないんだろうなって。頑張らなきゃって鼓舞してるよ」
「西宮の気持ち」
「そうだよ。ボクが今、何を考えてるか分かる?」
じっと西宮が見てくる。俺も同じようにした。でも、西宮が何を考えてるか俺には分からない。たぶん、頑張らないと誘えないって言われたのが嫌だったんだとは思う。悔しかったらしいし。
けど、西宮が言いたいことはそんなことじゃない気がする。
「難しい?」
「降参だ。ごめん」
「謝ることじゃないよ。って、なんだかボク、めんどくさいね」
「いや、俺が女心ってのを知らなさすぎなのが原因なんだ。俺だって西宮の気持ちを知りたいし。こんなことなら、もっと女の子と友達になって遊んでればよかった。そしたら、西宮のことも緊張したりせずに家に誘えてたんだろうな」
女心を知るには女の子と関わることが一番なんだと思う。どれだけ、ラノベやマンガを読んでヒロインのことを知ったってそれはあくまでも創作上の人間。実際に生きている訳じゃない。本物の女の子とは違うんだ。
「それはダメーっ!」
「え、ダメなのか?」
「女遊びが激しい東野くんは嫌だ」
「いや、女遊びを激しくしようって訳じゃないんだけどな……女心を学びたいってのが目的だし」
「ボクで学べばいいよ。他の女の子じゃなくてボクで……ボクも女心ってのはよく分からない。けど、東野くんのためなら何だって付き合うから」
座席に手を付いて俺の方へと顔を近付ける西宮。鬼気迫るような表情に思わず戸惑ってしまう。
「だから、ね。ボクじゃ、ダメ?」
「そんなことあるわけないけど……なんか、凄いこと口走ってるような」
「あう」
今になって気付いたのか西宮の頬が赤く染まっていく。急にしおらしくなったというか。俺から離れて俯いてしまった。それから、居心地悪そうに体を揺らしている。
「……東野くんのせいだよ。女遊びを激しくしようとか言い出すから」
「戻ってくるんだ」
「だって、ボクじゃ勝てないもん」
ふてくされたように西宮が口にした。
「ボクより可愛くて、スタイルが良くて、女の子らしい女の子なんていっぱいいてさ。そんな子と東野くんが仲良くなったらボクが入る隙なんてなくなっちゃうよ」
ここまで西宮が言ってくれるのはやっぱり、西宮の好きな人が俺だから、なんだろうか。それとも、ただの仲良しな友達が減るのが嫌だからなんだろうか。
「西宮が教えてくれるなら俺はそれでいい。知りたいのは他の誰でもなくて、西宮の気持ちだし」
「……めんどくさいこと聞くけど、本当?」
「他の女の子と仲良くなったところで肝心の西宮の気持ちが分からなかったら意味ないし。それなら、西宮が教えてくれた方が西宮の気持ちが分かるかもしれない。ていうか、西宮がいいよ俺は」
俺が知りたいのは西宮が俺のことをどう思っているか。他の女の子の気持ちなんてどうでもいい。
「じゃあ、これからボクがボクのことたくさん教えてあげる」
ぱあっと表情を明るくさせて西宮が嬉しそうに笑う。こんな反応をされるとますます西宮は俺のことを好いてくれてるんじゃないかと思ってしまう。ここは一つ、確かめてみるか。
「じゃあ、早速なんだけどさ。さっきの答えを教えてくれ」
「さっきのはね。何も考えてなかったんだ」
「え」
「強いて言えば東野くんが分かるかな〜って思ってたくらい」
「なんじゃそりゃ」
そんなことを話していると母さんがやって来た。
「お風呂沸いたから二人とも中に入ってきて」
ということで車から出る。玄関に入ると母さんからタオルを渡された。
「まずは水滴を拭いてね。で、西宮さんはそのままお風呂に直行。深夜は靴下脱いで部屋に行くこと。いい?」
「あ、それならボクが後でいいです。東野くんの家だし東野くんが先で」
「そんなこと出来るはずないでしょ。西宮さんを預かってる形なんだから優先するよ。それに、ちょっとくらいなら深夜も大丈夫だよね?」
「まあ、俺から入るって訳にはいかないわな。西宮はお客さんなんだし」
「ね。ということで、さー入って入って」
母さんに促されて西宮が靴を脱ぐ。そのまま、靴下まで脱いだ。西宮の白くて細い生足が顕になる。タオルで足を拭いている。ただ、それだけなのに、なんだかドキドキするのは俺が変になったんだろうか。
「お邪魔します」
「あとで、着替え用意して持っていくからね。服は私のサイズじゃ合わないだろうから……深夜のになるけど、我慢いい?」
「だ、大丈夫です」
「綺麗なの選ぶから」
「き、汚くてもボクは平気です」
「いや、汚れてる服を西宮に着せるなんて俺が嫌なんだけど」
ジトーっと不服そうに西宮が目を細めてこっちを見てくる。何か言いたそうだ。西宮の立ち場になって考えてみる。
着替えを貸してもらうから汚れていても文句はない、という意味での発言だったのだろう。でも、俺としても西宮に汚れた服を着てほしくないってだけで。あれ、何も問題なくないか。
「ここがお風呂ね」
「ありがとうございます」
「脱いだ服は洗濯機に入れておいて。スカートは乾燥機かな。好きに使っていいからね」
「はい」
「それじゃ、ごゆっくり」
母さんが案内した洗面所に西宮が入っていったのを見届けて、俺はリビングまで移動した。わざわざ暖房を入れておいてくれたらしく、暖かい。制服もすぐに乾きそうだ。
「西宮さんといつから友達なの?」
「ちょっと前からだよ」
「そのわりには随分と仲良さそうに見えたけど……付き合ってるの?」
「別に、そういうんじゃない。友達」
「なーんだ。まあ、でも。深夜に友達がいてよかったわ」
「さっきも聞いたけど」
「高校に入ってから友達の話とかしなくなったからイジメにでもあってるのかって思ってたの」
「そんなんじゃない。つるむ相手がいなくなっただけだよ。だからって、別に辛いとかじゃないから。今は西宮が友達で毎日、楽しいし」
「そ。西宮さんのこと、大事にしなきゃね」
「分かってる」
「じゃ、母さんはあんたの部屋から西宮さんの着替え持ってくるから」
「あい」
ドタバタと母さんが音を建てながら階段を登っていった。俺の部屋の辺りから音がする。クローゼットを開けているんだろう。俺はオシャレに興味がないから服を自分で選んで買うなんてことをしない。全部、母さんが買ってきてくれる。たぶん、西宮に合うサイズの服が一着くらいはあるはずだ。
「西宮が出てきたら風呂に入って、ご飯食べて、西宮を送ってとすることいっぱいだ」
今日はまだまだゆっくり出来そうにないな。




