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「そういえば、からしついてきたけどいる?」
「ううん、大丈夫。ボク辛いの苦手だから」
「そうなんだ。俺も得意じゃないからいいや」
そんなことを話しながら母さんが迎えに来てくれるのを待っているとスマホからラインの通知音が鳴った。確認してみると母さんから着いたよ、とのこと。分かった、と返事を送っておく。
「着いたって」
「そ、そっか」
人の親に会うっていうのは緊張するものだ。西宮が背筋をぴんと伸ばして正した。元々、背中はいつも真っ直ぐで綺麗な姿勢なのに普段以上に直線になっている。
少しでも西宮の緊張をどうにかしてあげたいとはいえ、俺に出来ることはない。何を言ったって緊張している人から緊張を拭い去ることなんて無理だからだ。
「無責任だけどさ、西宮なら大丈夫だよ。母さんが嫌うような人じゃないもん」
「じ、自信ないよ……こんな、大きくて女の子らしくないボクだもん。男みたいで可愛げがないって思われるかも」
今まで伸びていた背中を丸めて西宮が不安そうに口にする。くそ、俺は馬鹿だ。西宮に自信をもってほしかったのに、逆に不安にさせた。なんで、もっと上手に出来ないんだろう。
「……ごめんな。余計に緊張させて。そんなつもりはなかったんだ。ただ、思ったんだ。一人でいる方が気楽だって思ってた俺を絆した西宮だから絶対、大丈夫だろうなって」
「ほ、本当にそう思う?」
「誰よりも西宮と仲良くなれたことを嬉しく思ってる俺が言うんだ。西宮なら母さんが相手でも大丈夫だよ」
「そっか……そっかあ〜。えへへ」
ニヤニヤと唇を緩めながら笑みを浮かべる西宮。いつの間にか背筋が元に戻っている。何かしてあげられた訳じゃないのにどういう心境の変化だろう。
「ボクの準備はオッケーだけど、東野くんは?」
「俺は別に……緊張するようなことないし。本当に大丈夫か?」
「うん!」
「そ、そっか。じゃあ、時間も遅くなるし早く帰ろう」
「あ、椅子は拭いていかないと」
ハンカチで濡れた椅子を拭いていく西宮。本当にいい子だと思う。椅子を拭き終わった西宮と一緒にコンビニを出る。雨はまだ振り続けていた。というか、さっきよりも酷くなっているみたいだ。駐車スペースに停めている車を発見。我が家のだ。濡れないように屋根の下を歩いて近付く。
正面にまで来ると前向きで停めていた母さんとガラス越しに目が合った。それから、母さんが隣にいる西宮の方に顔を向ける。一瞬、驚いたような顔をした。
けども、すぐにやめて運転席側の窓ガラスを開けた。
「傘がないから走って。深夜が開けてあげなさい」
「分かった」
言われたように後部座席のドアを開けに向かう。
「西宮、いいよ。車体低いから気を付けてな」
西宮が車に乗り込んでから俺も乗り込んでドアを閉めた。これで、俺も西宮も濡れずに帰れる。そう思うと自分の家の車ということもあって安心感が半端ない。
「迎えに来てくれてありがとう」
「買い物に出てたついでだからね」
母さんの隣の席には袋が二つ置いてある。食材でも買いにスーパーへでも行っていたのだろう。家を出た時は雨が降るとは思ってもなかったから、車にも傘を置いてなかったんだと思う。
「それよりも、先に言うことがあるでしょ」
母さんが後ろを振り向いてきた。体は西宮の方へと向けられている。紹介しろ、ということだ。
「ああ、うん。えっと、友達の西宮」
「は、はじめまして。西宮日向です。東野くんにはいつも仲良くしてもらってて……と、友達です」
コンビニを出る前は元気になった西宮だけど、完全に緊張がなくなった訳じゃないのだろう。背筋を伸ばして狭い車内の中だというのに声を大にして名前を告げる。
「……あ、大きな声でごめんなさい」
「ふっ。ふふっ。い、いいよ。そりゃ、いきなり親に会うってなれば緊張するもんね」
肩を落とした西宮に母さんが笑いながら声を掛ける。
「はい……あ、違っ、うこともなくて……その」
「そんなに硬くならなくていいよ。もっと、気楽にしてね。背中も椅子にもたれていいからね。窮屈でしょ」
「い、いえ」
とは言いつつ、西宮は少しだけ姿勢を楽にした。背もたれに背中を預けて頭の位置が下がる。西宮にとってこの車は窮屈でしょうがなかったはずだ。面接のような空気感がようやく消えてなくなった。
「じゃあ、改めて。はじめまして。深夜の母です。早速なんだけど……本当に深夜の友達? たまたま雨宿りが重なっただけってことはない?」
「ちょ。何を言い出すんだよ」
「いや、あんた学校でのことぜんぜん話さないでしょ。誰と仲が良いとか。誰とこんなことしたとか。それが、いきなり友達だって紹介されてもねえ……しかも、女の子だし。男の子ならまだしも、女の子の友達なんて……お母さん、まだ夢見てるみたいだわ」
「失礼な」
「日頃の行いの結果でしょ」
じろじろと西宮のことを見る母さん。俺に女の子の友達がいることが信じられないみたいだ。俺の親として正しい行動過ぎる。昔、遊んでいた友達も男ばっかりだったからな。
「ボクと東野くんは友達です。すっごく仲良し……だよね?」
はっきり答えて、はっきりさせずに西宮が確認してくる。そこは、はっきり言い切っておいてほしかった。別に、確認されたことが嫌なんじゃない。親の前で異性の友達を相手にそういうことを言うのが恥ずかしい年頃なんだ。はっきり言われても恥ずかしかったけど。
「な、仲は良いだろ」
「です!」
鼻息を荒くして、言い切った西宮。ちょっとばかし胸も張っている。なんでか、得意そうな感じだ。そんな西宮を見て、母さんがうっすらと口元を緩めた。
「てっきり、学校に馴染めてないと思ってたから友達がいるって知れて安心したわ。これからも、深夜と仲良くしてあげてね。この子、無愛想で口数も少ないけど笑ったり話したり出来る子だから」
「俺はロボットか何かなの?」
「東野くんはボクとたくさんお話してくれますよ。それに、よく笑いもしますし」
「うそ。西宮さんの前だとそうなの。へえー」
「ボクが話してる時の東野くんってとっても優しい眼差しで微笑みながら聞いてくれてて……ついつい話し過ぎちゃいます」
「も、もういいから。早く行こ」
なんか、西宮が体育祭の時に旭日さんを前にして不機嫌になっていた気持ちが分かった気がする。家族の前で見せてない部分を暴露されるとすんごい恥ずかしい。
「はいはい。それじゃ先に西宮さんを送るわよ」
「当たり前じゃん」
「お願いします」
「因みに、西宮の家は俺達の家から四駅離れた場所になるから。地図入れる」
流石に住所までは分からないので西宮の最寄り駅からこの前、家に行った時のことを思い出しながらマンションを探す。
すると、隣から西宮が覗き込んできた。自分の住んでる場所かどうか確認したいのだろう。
「このマンションで合ってるよな?」
「うん」
西宮の確認も取れたことだし、とスマホの画面を母さんに見せる。母さんは呆然としていた。
「どうしたの?」
「いや、なんであんたが西宮さんの家を知ってるのか気になって」
「……あ」
「もしかして、黙って後をつけたり」
「するか、そんなこと。普通に遊びに行かせてもらったことがあるんだよ」
「あ、そ、そうなんだ。深夜が女の子の家に遊びにね……」
「言いたいことは分かるけど、本当の話だから。この前、遊びに行かせてもらったんだよ」
母さんからすれば俺に友達がいたことでさえ驚きのこと。それが、相手が女の子で。家まで遊びに行くような相手とはなかなか信じられないのだろう。少し前の俺だって説明されても同じ反応をするはずだ。
「えーっと、とりあえず、西宮さんの家に……どれどれ。ここからだと、ちょっと時間掛かりそうな場所か。よし。西宮さんさえよかったら家に寄っていく?」
母さんが何か言い出した。




