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昼休み、早めに弁当を食べ終えた俺は図書室に来ていた。この前、期末テストに向けて西宮や南條、北上の四人で勉強した時、気が付いた。今まで図書室に来たことがなかったということに。
それで、どんな本が置いてあるんだろうと気になって見に来たという訳だ。
といっても、所詮は学校の図書室だ。俺が好きなマンガやラノベといった類の物は少ないだろう。置いてなくたって不思議じゃない。
中学には珍しいマンガが置いてあったからよく読みに通ったんだよな。懐かしい。まだ置いてあるのかな。
そんなことを思いながら本棚を一つずつ確認していく。やっぱり、置いてあるのは難しそうなタイトルの本が多いな。お、マンガあるじゃん。こっちにはラノベもある。品揃えいいな。
量は決して多くないがマンガやラノベが並んでいる棚を発見して俺は興奮した。ないと思ってたものがある時の喜びといったら半端ないものだ。うっかり声を出しそうになってしまうのを飲み込んでマンガに手を伸ばす。
残りの時間的に読めるのは一冊くらいだろう。手にした本を持って席に移動した。周りには本を読んだり、勉強をしたりと図書室を利用している生徒がちらほらいる。
その中の一人に混じってマンガを読み始めた。
読んでいるのは俺がまだ小学生の時に雑誌で読んでいた作品だ。お小遣いが足りなくて単行本は買えなかったけど、好きだったから懐かしい。今読んでもちゃんと面白い。あ〜もう休み時間の終わりか。放課後、また来よ。
放課後になった。帰る用意を済ませて俺はまた図書室に来ていた。
五、六時間目とマンガの続きを読みたくて授業に集中出来なかった。テスト前に何をしてるんだよ、と我ながら情けない。けど、続きが気になる状況でお預けをしていてはこの先もずっと授業に集中出来ない日が続くはずだ。
うん、それはまずいな。流石に、まずい。そうならないためにも、今日中に読み切ろう。五巻で完結してるしいけるはずだ。勉強に集中するためだし。
本棚からマンガを取り出していく。一気に全部、持っていこう。あれ、五巻だけない。嘘だろ。最後だけ読めないとか嫌だぞ。やめてくれよ。
本棚をくまなく探す。端から端へ。上から下へ。あ、あった〜。あったあった。よかった〜。
目的の本は一番上の段に仕舞われていた。本好きの身としてはこういうのはやめてほしい。なんで、最終巻だけバラバラにしたんだ。ちゃんと作品と巻数を整理して綺麗に本棚に並べてほしいもんだよ。
とにもかくにも、無事に全巻揃ってたんだ。早く読もう。読みたい。……くっ。取れない。背伸びをしてるのに微妙に届かない。
「取りたい本があるの?」
「そう、なんだけど……微妙に届かなくて……」
声を掛けられて答える。それから、相手が誰なのか気が付いた。
「西宮?」
声がした方に目を向ければ西宮が立っていた。両手を後ろにしながら背中をかがめて俺を見上げるようにしている。カバンを手にして。
「ボクが取ろうか?」
「頼んでもいいか? 俺の手の先にある本が欲しいんだ」
「オッケー。任せて」
俺よりも背が高い西宮なら余裕で手が届くことだろう。これで、一安心だ。背伸びをやめて体の力を抜く。すると、肩に手を置かれた。
「じっとしててね」
俺の真後ろから西宮が本に向かって手を伸ばす。取るために西宮は体を前傾姿勢というか。前のめりというか。とにかく、前に出ようとして、俺の背中に密着させてくる。
ぎゃああああああ!
女の子特有の柔らかさがこれでもかというくらい押し付けられて俺は絶叫した。
「ん、もうちょっと」
グイグイと体を押し付けてくる西宮。西宮は無意識なんだろうけど、俺としては意識しないでいられるような状況じゃない。めちゃくちゃ当たってる。
西宮は胸が小さい……は失礼になるか。控え目。控え目だ。自分でも言うくらいに。けど、ない訳じゃない。膨らみがちゃんとある。制服の上からでも控え目な膨らみがちゃんとあると分かる。
その控え目な膨らみが後頭部に当てられて俺は耳が急激に熱くなった。
「取れた」
ふっと体にかかっていた重みが軽くなる。
「どうしたの?」
西宮が退いたというのに俺は背中の丸まりをなかなかやめられない。そんな俺を西宮は不思議そうに見てくる。誰のせいだと思ってるんだよ。
「な、なんでもない……本、取ってくれてありがとうな。助かったよ」
「えへへ。どういたしまして。はい」
出した手にマンガが乗せられる。揃った背表紙を眺めて一呼吸。少しだけ、落ち着けた気がする。西宮と向き合う。自然と視線が西宮の胸元に引き寄せられそうになるのを無理に顔を見るようにした。
けど、顔は顔でダメだった。ニコニコと笑っている西宮を見てるだけで顔が熱くなる。こんなのもろに意識してるってバレちゃうじゃん。
「あ〜え〜に、西宮も本を探しに来たの?」
西宮のどこもまともに見ることが出来ず、視線を逸らしながら質問をしてみる。
「え、あ、そ、そうなんだ〜けど、目当ての本が見つからなくて」
「あ、じゃあ、俺も探すの手伝うよ。本を取ってくれたお礼だし。タイトルは?」
「も、もういいんだ。気にしないで」
焦ったように西宮が断ってくる。もしかすると、俺に知られちゃ困るような本なのかもしれない。となれば、これ以上、前に出るのは逆に西宮を困らせることになるからやめておいた方がいいな。
「そ、それよりも、東野くんはその本、借りて帰るの?」
「いや、読んでから帰ろうかなと」
「そうなんだ。じゃあ、席に移動しよ」
「ああ、うん」
読書スペースに移動する。なぜだか、西宮が追ってくる。席に座れば当然のように西宮も隣の席に座った。読むような本を西宮は何も持ってない。
「帰らないの?」
「ちょっとだけ勉強してから帰ろうかなって」
「隣で読んでて邪魔にならないか?」
「ぜんっぜん。むしろ、集中出来るよ」
「それならいいけど……邪魔になったらいつでも声を掛けてくれていいからな」
「分かった」
この時期は読書よりも勉強の方が大事だ。隣で読んでいて西宮の集中を削いでしまうようなら席を移動しよう。
そういう前提でマンガを読み始めた。
そうそう、序盤から味方キャラに裏切るやつがいるんだよな。でも、実は裏切りの裏切りって展開が用意されてて、分かった時は興奮したな〜。ちょうどここだ。
昔、読んだ内容を思い返しながらページを捲る手が止まらない。あっという間に一冊、読んでしまった。
ふと、西宮のことが気になって視線を向ける。西宮は頬杖をついて、こっちを見ていた。机には勉強の道具など何も出していない。
「もしかして、邪魔だった?」
知らず知らずの内に夢中になって何か呟いていたかもしれない。それが気になって西宮は勉強に集中出来なかったんじゃないだろうか。
「ううん、そんなことないよ。ボクのことは気にしないでね」
西宮は首を横に振るとマンガの続きを読むように促してくる。読むのをやめるつもりじゃなかったから読むけど、西宮の様子が気になるなあ。
一冊読み終わって西宮を見る。西宮は変わらず頬杖をついてこっちを見ているだけで。か、監視されてるみたいで読みづらいぞ。
結局、最後の一冊を読み終わるまで西宮が勉強することはなかった。結構な時間が経ったというのにずっと、俺の方を向いて笑顔を浮かべているだけ。西宮は何がしたいんだろう。
「読み終わったの?」
「うん。片付けてくる」
「ボクも行く〜」
わざわざついてくる必要もないのに西宮は楽しそうについてくる。
「あ、一番上にあった本だけ貸して。ボクが片付けるよ」
「いや、それじゃ気に食わないからこうする」
本棚の中はぎゅうぎゅうに本が詰まってる訳じゃない。隙間がある。そこに、最初から最後まで揃えて並べた。これで、すっきりだ。
「もう俺は帰るけど、西宮は?」
「ボクも帰るから一緒に帰ろう」
ということで、図書室を西宮と一緒に出た。廊下を歩きながら思う。本当に西宮は何をしに来たんだろう、と。隣を歩く西宮を横目で見上げる。西宮はずっと楽しそうだ。
「ん、どうしたの?」
「いや、勉強しなくてよかったのかなって」
「ボクとしてはとっても有意義な時間だったよ」
「そうは思えないけど」
「ボク、東野くんが集中して本を読んでる姿を見るのが好きなんだ」
「それはまた、特殊なことで……楽しいか?」
「楽しいよ。面白いシーン読んでるんだな〜とか。難しいシーン読んでるんだな〜って、東野くんの表情がころころ変わるから見ててとっても癒される」
「読書中の俺ってそうなのか? 全然、知らなかった。てか、癒し効果とかなくない?」
「そんなことないよ。とっても幸せな時間だよ!」
「はあ」
俺には西宮の言うことが理解出来ない。西宮の言う通り、本を読んで俺の表情がころころ変わってるんだとしても、面白くもなんともないはずだ。見る価値なんてない。
「それに、東野くんの横顔をずっと眺めていられたから……なんて」
照れ臭そうに口にして歩いて行く西宮。俺は足を止めてしまった。テストが近付いてきてるこの時期に勉強もしないで俺の横顔を眺めている意味ってなんだ。何もないだろ。それなのに、そうしたってことは。
「おーい、東野くん」
「あ、ああ。今行く」
西宮に呼ばれて我に返る。急いで西宮に追い付いて歩き始めた。また、西宮の横顔を盗み見る。人の横顔なんて見ていたって別に楽しいものじゃない。
けど、好きな相手だったらそんなの関係ない。ただ見ているだけで、なんとなくこの時間がずっと続けばいいのになんて思ってしまう。
西宮の好きな人。考えられる数多くいる中に俺も入っていたり……するのかもしれないな。なんて。




