33
放課後になった。
休み時間に決まった通り、俺と西宮。南條と北上の四人でテスト勉強をするため図書室に向かっている。
「ボクも混ぜてくれてありがとう」
「西宮さんが一緒で嬉しいよ〜。元々、声掛けようと思ってたんだ」
「そうなの?」
「久し振りにこの四人で集まりたくて。ほら、私達チーム二人三脚だし」
「チーム二人三脚ってなんだよ」
「あ、東野くんに馬鹿にされた〜西宮さん、どう思います?」
「ボクにふらないでよ」
「げ、西宮さんは東野くんの味方か。じゃ、北上くんはどう思う?」
「ぼ、僕にもふらないでくれると嬉しい」
「結束力ないねっ!?」
チームなんて大袈裟に南條は言うけど、俺達にまとまりなんてない。この中で普段からよく話すとなれば俺と西宮くらいだし、そもそもがバラバラの四人なんだから。
「もっと絆深めていこうよ〜」
などと甘い声を出しながら南條が西宮の腕に腕を絡ませてダル絡みしていると図書室に到着。基本的に私語厳禁がルールな図書室。南條も口を閉じて静かになった。
ちょうど空いていた四人がけのテーブルを陣地に決めて座る。南條と北上が隣同士。俺の隣には西宮だ。
「それじゃ、始めよっか」
声を小さくして声を掛ける南條。全員が頷いて各自、自分の勉強したい内容を勉強していく。俺は英単語の復習をしようと教科書とノートを広げた。
テストに出そうな英単語をノートに書いて暗記していく。書いて覚えるというスタイルが俺には一番合っている。
「ねえ、これってどの数式使うんだっけ?」
「えっと、これはね」
南條は数学の勉強をしているらしい。早速、北上に質問している。さてさて。北上の実力は――凄えな。すっと教えてる。頭の中に入ってるんだ。羨ましい。
「あ、出来た。これで合ってる?」
「う、うん。合ってるよ……よく出来たね」
「やったー。北上くんに褒められた」
「あ、ご、ごめん。調子に乗った」
「え、なんで謝るの。私、褒められて伸びるタイプだからどんどん褒めてほしいんだけど。むしろ、ウェルカムだよ」
「む、無茶言わないで」
なんだかんだ言いつつ、北上が南條と話せているようで安心した。困ってるようだけど、そこは目を瞑ってもいい部分だろう。
そんなことを思いながら二人の様子を見ているとツンツンと肘を突かれた。この状況でそんなことが出来るのは西宮しかいない。顔を向ければ西宮がニコニコしている。そのまま、口をパクパク動かして何か伝えようとしてきた。
いや、いくら私語厳禁だからって多少は喋ったって問題ないんだぞ。南條と北上だって声を小さくしてあんなに話してるんだし。
当然、西宮が何を言いたいのか分からなかった俺は西宮と同じように口を動かして「え?」と聞こえないジェスチャーをした。
すると、西宮が椅子を寄せて顔を近付けてくる。ふわりと香る西宮から漂う甘い香りが鼻に届いた。自然と優しい気持ちになるようなそんな気分に浸るのと同時に西宮が耳元で囁いた。
「二人とも仲良いね」
「そ、そうだな」
西宮は適度な距離感ってものを知らんのか。なんでこんなに近付いてくるんだよ。なんでこんなに俺のに意識させてくるんだよ。そういうとこだぞ。
これ以上、西宮に近付かれると勉強どころではなくなると悟った俺は西宮には勘付かれない程度に距離をつくり、話題を逸らしてみることにした。
「それにしても、北上って本当に成績優秀なんだ」
「私が言ったこと、疑ってたの?」
「なんで、南條がムキになるんだ……疑うとかじゃなくて、すらすら教えてたから凄いなって思っただけだよ」
「あ、ありがとう」
「去年からずっと成績いいもんね。どう。北上くんは凄いでしょ」
まるで、自分のことのように南條が胸を張って自慢する。そのせいで、北上は頬を赤く染めて、照れることになってしまった。
「そ、そんなに言われるほどのことじゃないよ」
「そう? 私が成績ダメダメだから憧れるけど」
「い、いいことばかりじゃないんだよ。先生からの期待は重たいし、変に成績を落とせないってプレッシャーもあるし」
「そういうのしんどいよね。こうなんだからああしろって完璧な人なんていないのにさ。まあ、私はそのおかげでこうして北上くんのお世話になれてるんだけど。ありがとうね」
「れ、礼を言われるようなことじゃないよ。南條さんの成績が上がるかどうかはテストが終わらないと分からないんだし」
「うっ。痛いとこ突いてくるな〜頑張ろ」
南條が教科書と向き合う。北上もそうだ。西宮も元の位置に戻った。俺も英単語をノートに書いていく。
みんな、何かしらあるんだな。南條は可愛いから俺が抱いていたような印象を持たれて、押し付けられたことがあるのかもしれない。北上は成績が良いから点数を落としたらダメだという空気を押し付けられている。西宮は男みたいだからと女の子扱いされずに男子扱い。
みんな人には言えない何かを抱えて生きている。俺はどうなんだろう。気にしたことがないから分からない。ある意味、幸せなのかもな。目立たずに生きているのは。毎日、楽しい訳だし。
そんなことを考えながら勉強を進める。当たり前だけど静かだ。誰も騒いだりしない。暇になってきた。
ふと視線を隣に向ければ西宮が真面目な顔をして問題を解いている。手を動かしてノートに文字を書き込んでは小さく笑う。解けて嬉しくなったのだろう。可愛らしい。教科書を捲ると同時に西宮の黒髪がさらりと頬に垂れてきた。邪魔なようで髪を耳に掛ける。
そんな何気ない仕草だというのに西宮の横顔がはっきりと見えたことに俺は体温が上昇するのを感じた。西宮のことが好きだと自覚してから、一挙手一投足に目を奪われてばかりだ。西宮が何をしていても気になってしまう。
今がまさにそれで西宮のことをぼーっと眺めていると西宮に気付かれた。そりゃそうだ。こんなすぐ近くでじっと見られたら誰だって気付く。
「どうしたの?」
「ちょっと、この単語の意味が分からなくて」
西宮のことを見てた、なんて言えば西宮に好きだという気持ちが知られてしまいそうで誤魔化す。別に、西宮に好きだと知られて恥ずかしいとかそういう訳じゃない。ちょっと、照れ臭いところがあるけど。
でも、それ以上に西宮に好きだと知られて西宮の好きな相手が俺じゃなかった時に今みたいな友達のままでいられなくなるかもしれないのが嫌なんだ。
だから、この気持ちが口を飛び出さない限りは西宮に好きバレするのを避けるように動く。と、そう決めているのに。
「どれどれ〜」
俺のノートを覗き込もうとして西宮が椅子を寄せてくる。
なんで、わざわざ寄ってくるんだ。ノートをそっちに寄せたら移動する必要なんてないってのに。ていうか、この単語の意味なら分かってるし。
西宮に好きだと知られたくないのにこうも距離を縮められたらうっかり漏らしてしまいそうだ。本当に適度な距離感というものを学んでほしい。
「あ〜これはね……ボクにも分からないや」
「それなら、いいんだ。ありがとな。北上。ちょっといいか」
分からないと言った手前、北上に教えてもらおうと声を掛ける。北上は南條に問題の解き方を教えている最中だった。
「ちょっと待ってくれる?」
「ゆっくりで大丈夫だから」
「北上くんは南條さんに集中してていいよ。東野くんにはボクが教えてあげる」
どういう訳か西宮が出しゃばってきた。
「今、分からないって言わなかっけ」
「言ったよ。けど、東野くんはお忘れのようだね。ボク達には文明の利器が味方してくれてるってことを」
ドヤ顔のままおもむろにスマホを取り出した西宮は英単語のアルファベットをゆっくりと入力していく。
「あ、出たよ。この単語の意味はね」
検索した結果を嬉しそうに見せてくる西宮。どうしてそんなにも優しいのか。どうしてそんなにも可愛いなと思わせることばかりしてくるのか。
「聞いてる?」
「き、聞いてる。助かった」
急いで西宮が教えてくれた意味をノートに記入。
「また分からないところがあればボクに言ってね。東野くんにはボクが教えてあげるから」
興奮気味なのか西宮の鼻息が少し荒い。顔は得意気になっている。人に教えられたことを喜んでいるのだろう。
「あ、ありがとうな」
西宮の好きな人が誰なのか聞けば教えてくれたりするんだろうか。まるで、任せてね、とでも言うように胸を張って頼りにされたがっていそうな西宮を見ながら俺はそんなことを考えていた。




