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一度、学校の最寄り駅まで行ってから西宮が住んでいる場所の最寄り駅まで向かう。寄り道をしているから少し距離があるが、本来は違う。俺が住んでいる区域と西宮が住んでいる区域は三駅分だけ離れていて、意外と近い。区間も短く、乗車時間も二分程。会いに行こうと思えば電車を使って十分もしないで行ける距離だ。
駅に着いて改札を抜ける。約束している時間よりも少し早く着いてしまった。西宮は駅まで迎えに行くね、って言ってくれてたから待っていよう。変に動かず待っていた方が西宮も見つけやすいはずだ。
周りを見渡してみる。駅前にはスーパーやコンビニ。その奥には商店街が続いていてたくさんの人が行き来していた。
「あ、東野くん」
「え、西宮。早くない?」
そんな中から西宮がひょっこりと現れた。約束している時間よりもまだ早い。
「時間ぴったりに着く電車ってないからね。東野くんのことを考えたら遅れるよりは早く来そうだなって思ったんだ。名推理だったよ」
「ありがとうな。早く来てくれて」
「ボクが東野くんにちょっとでも早く会いたかっただけだから。あ、そうだ。おはよう」
「おはよう……なんか、休みの日にこうしてるのって変な感じがする」
「だね。おはようって時間でもないし」
違和感だ。本来なら、西宮と会うことのない日。そんな日にこうして西宮と顔を合わせている。本当に今日は休みなんだろうか。平日じゃないのか。そんなくだらないことを考えてしまう。
けれど、今日は紛れもない休日だ。その証拠に西宮は制服じゃなくて私服を着ている。上は薄手のカーディガンを羽織っていて、下は柔らかそうなパンツ。休日スタイルの西宮だ。新鮮で思わず見惚れてしまう。
「あれ、東野くんが手に持ってるのって」
「あ、ああ、うん。見ての通りドーナツ。手土産に買ってきた」
わざわざ学校の最寄り駅にまで寄っていたのはこれのためだ。友達の家に遊びに行くのなんて数年はしていない俺とはいえ、友達の家に行く時は手土産が必要だということは学んでいる。小さい頃は母さんがお菓子を持たせてくれた。親しき仲にも礼儀あり、というやつだ。
こういう時、普段の俺ならなかなか決められなかったと思う。けど、今回に限ってはすぐに決められた。
「ええ〜わざわざいいのに」
「と言いつつ、目が釘付けになってますが?」
「えへへ。バレちゃった。嬉しいんだもん。ありがとう」
「どういたしまして。家に着いたら渡すよ」
「わーい。楽しみだな〜じゃ、そろそろ出発しよっか。こっちだよ」
「あれ、踏み切り渡るの?」
西宮はやって来た時、踏み切りを渡ってない。それなのに、今は踏み切りを渡ろうとしている。
「そう。こっちの方が近道なんだよ」
「なるほど。そういうことね」
よっぽど早く家に着いてドーナツにありつきたいみたいだ。先に昼ご飯食べようって旭日さんとは話になってるんだけど、この様子だと聞いてなさそうだな。せっかく、近道で案内しようとしてくれてるんだし内緒にしておこう。
踏み切りを渡るとすぐに住宅街に入った。その道を真っ直ぐ歩いて行く。
「東野くんとこうして歩いてると学校に行くみたいだね」
「いつの間にか西宮と毎朝会うようになったよな」
「偶然って凄いよねえ」
西宮は偶然で片付けているが俺は違うんじゃないかと思ってる。だって、俺は家を出る時間を変えてない。なのに、西宮と毎日会うのは流石に不自然過ぎる。最初は偶然が重なるだけだと思ってたけど、こうも続けば勘づくってもんだ。きっと、西宮は俺の時間に合わせて家を出るようになったんだろう。俺に会うため……って言えるか、そんなこと。こんなこと考えてるなんてどうかしてるぞ、俺。恥ずかしい。
「あ、次はこっちね」
曲がり角を曲がってまた真っ直ぐ歩く。すると、公園が出てきた。
「懐かしいなあ。昔、お兄ちゃんが友達と遊ぶ時によく混ぜてもらって遊んでた公園だ」
「子どもの頃の西宮か……どんなことして遊んでたんだ?」
旭日さんから聞いたことがあるとはいえ、それは西宮には秘密にしている。知らないフリをして聞いてみた。
「木登りもしたし、追いかけっこもしたよ。あ、そうだ。ドッジボールも」
「なるほど……だから、西宮は足が速いし、ドッジボールも強いんだな。へえ。今はもうボール遊び禁止になってるんだ」
「そうだったんだ……残念だな。最近はどこの公園もボール遊びとか危ない遊びは禁止になってきてるよね」
「安全が第一なんだろうな。子どもにはちょっと物足りないだろうけど」
少しだけ公園の前で足を止めて、また歩き出す。真っ直ぐ進んだり、曲がったり。もう結構、歩いたはず。なのに、西宮の家に着く気配は一向にない。旭日さんからは家と駅までは十分もあれば着くって教えてもらってたんだけど……いつ着くんだろう。もうとっくに十分は過ぎてるよ。
まあ、女子高生の西宮と男子大学生の旭日さんとじゃ歩幅も違うだろうし時間も変わってくるか。急かさずついていこう。
「東野くんも子どもの頃に公園で遊んだりした?」
「一応は。こう見えて小学生の時は放課後に遊ぶような相手が少しはいたんだ。今じゃすっかり縁も切れてるけど」
「ボクも似たようなもんだよ。小学生の時に遊んでた友達と連絡なんてとらないもん」
「意外だな。西宮は友達が多いし、地元にもたくさんいるもんだと思ってた」
「案外、そんなことないんだよ。こんなこと言っちゃ悪いけど、ボクが友達だなって思ってるのは少ないしね」
「……俺は友達だよな?」
「もちろんだよ! 友達のTier表作ったら東野くんは一だよ!」
両手を丸めて興奮した様子で口にする西宮。友達のTier表ってなんだよ。ちょっと分からん……なのに、そう言われて嬉しい俺がいる。嬉しい!
「……よかった。引かれなくて」
西宮が俺の顔を見ている。
「え、顔に出てる?」
「うん。笑ってる」
「はっず」
急いで手で口を隠そうとして、やめた。隠す必要なんてどこにもない。これが、俺の素直な気持ちなんだから。
西宮にありのままの俺を見せているとラインが鳴った。確認すると旭日さんからだ。西宮とちゃんと会えたかどうかの内容が送られてきている。無事に会って今、向かってることを報告。すると、遅いから迷子にでもなってると心配されてるようなことが送られてきた。
「旭日さんって面白いよな。西宮に自分の家に案内してもらってて迷子になんてなるはずないのにな」
「ソウダネ」
「え、なんでカタコトなんだ」
「ナンデモナイ、ヨ。サ、イコウ」
「ちょっと怖いんだけど。てか、あとどれくらいで着けそう? 旭日さんにそれだけ入れとかないと」
「うーん。あと、十分くらいじゃないかな」
「りょーかい。十分くらいで着きそうですっと」
十分……十分か。こっからまだ十分も歩くとなればかれこれ三十分近くになるな。電車に乗ってる時間よりも掛かるぞ。これ、本当に近道で案内されてるのか。
詳細が分からない俺は西宮に案内されるまま、本当にもう十分程歩いた結果、ようやく西の家に辿り着いた。め、めちゃくちゃ歩いた気がする。




