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「明日、旭日さんから家に遊びに来ないかって誘われてるんだけど、西宮は聞いてる?」
「えっ」
「あ、聞いてなかったか」
体育祭の日、西宮のお兄さんである旭日さんから連絡先をもらった。ここ数日、ラインでやり取りしていたところ、昨日の夜に家へと誘われた。
てっきり、西宮にも教えていることだと思っていた。日向に迎えに行ってもらうよ、とか送ってきてたし。けど、内緒にされていたらしい。今の反応だけで分かった。西宮がすんごく驚いている。
「えっと、東野くんとお兄ちゃんってどうやってやり取りしてるの……?」
「ラインで。旭日さんから連絡先もらってさ」
「へ、へえ〜」
「最近、俺のラインのトーク履歴のトップが旭日さんになったよ。珍しいことが起こるもんだと驚いてる」
「そ、そうなんだぁ~」
「それで、明日のことなんだけど、旭日さんは西宮に迎えに行かせるみたいなこと送ってきてたんだけど、聞いてないよな?」
「うん。ボクはこれっっっぽっちも聞いてない。お兄ちゃんが東野くんとラインで繋がってることも聞いてない」
「やっぱりか。それじゃ、一人で向かうって送っとくな。西宮にも都合があるだろうし」
わざわざ西宮に迎えに来てもらわなくても住所さえ教えてもらえば地図を見て一人で行けるはず。正直、地図を見るのはあんまり得意じゃないけど、何とかなるだろう。
その旨を旭日さんに送ろうと文字を入力していれば。
「い、いいよ。ボク迎えに行く」
「え、悪いだろ」
「悪くないよ。何の予定もないし。暇だし!」
「そ、そうなんだ。それじゃ、頼んでもいい?」
「うん。バッチグーだよ」
親指を立てて引き受けてくれた西宮。西宮が迎えに来てくれるなら迷う心配はない。俺は旭日さんに送ろうとしていた文字を削除した。
「あの、それでね。東野くんが着いたかどうか知るためにもボクともラインの交換してほしい、んだけど」
「そういえば、今まで交換する機会がなかったもんな。交換しよ」
「う、うん! 電話番号言うね」
西宮から電話番号を教えられながら入力していくと猫の写真をアイコンにしているユーザーが出てきた。漢字で日向、と書いてある。西宮だ。アイコンをタップして友達追加を押す。
「追加したけど、そっちも出た?」
「うん。追加するね……ふふ。東野くんのライン。やった」
西宮に友達追加されたと分かるように俺のスマホ画面が変化する。西宮からよろしく、と送られてきた。俺もよろしく、と送り返す。
「くふっ。ふふっ。目の前にいるのに画面でやり取りするのなんかおかしいね」
「ちょっとくすぐったいな」
西宮は楽しそうに笑っている。俺がラインを交換しているのは家族。それに加えて、中学校でクラスが同じだった人達。それと、西宮と旭日さんだ。
母さんや父さんともほとんどやり取りしない。中学の連中も今ではすっかり連絡を取り合うようなことがない。西宮とはそんな関係になりたくないな。
「西宮がアイコンにしてる猫っておばあちゃんの家で飼ってるっていう子?」
灰色の毛色をした猫が目付きを鋭くさせて不機嫌そうにしている。
「そう、だけど……」
「あ、なんか聞かれたくないことだった?」
「う、ううん。そうじゃないんだ。そうじゃないんだけど……うわぁって」
「やっぱり、嫌だったんじゃ」
「ちが。違うよ。むしろ、嬉しくて。喜んでる」
急に西宮が俺の方を見ながらニコニコと目を細め始めた。その表情はぜんぜん嫌そうに見えない。猫のことを聞かれたくなかった訳ではなさそうだ。
「名前はね日の丸って言うんだよ。背中におっきくてまーるい抜け毛の跡があってね。おばあちゃんがそこからとったんだ」
「カッコいい名前だな。因みに、オス?」
「うん。人に対してあんまり興味がないのか呼んでもなかなか来てもらえなくて。お兄ちゃんなんていっつも相手にされないんだよ。ボクには撫でさせてくれるんだけど」
「日の丸もオスだからな。旭日さんより女の子の西宮に撫でられる方が好きなんじゃないか」
「そんな風に考えたことはなかったな〜……でも、それもあるのかも」
日の丸の話をしている間、ずっと西宮のテンションが高い。さっき喜んでいたのは日の丸の話が出来るからだったんだ。
その日の夜。部屋で漫画を読んでいるとスマホが通知音を鳴らした。この音はラインだ。画面を確認すると日向と表示されている。西宮からだ。内容を確認すれば明日のことについて。十一時に駅に迎えに行くね、と送られてきた。
旭日さんから言われていた時間を学校で西宮に伝えて大丈夫かの確認は済んでいる。西宮も問題ないとのことでこの時間に決まったのだ。
俺はよろしくお願いします、という文と男性が土下座しているスタンプを送った。すると、すぐに任せてください、という文と任せろと猫が力こぶを作っているスタンプが送られてきた。
「西宮、猫も好きなんだな」
おばあちゃん家で日の丸を飼っているとはいえ、飼い猫を愛でるのは飼い猫だからだ。それだけで、猫好きとは決めきれない。
けど、猫のスタンプを使ってくるあたり、猫が西宮の好きな動物なんだろう。俺も猫が好きだし、何となくお揃いで嬉しいな。
言葉にするのは難しい。こう、頭の中がふわふわっと宙に浮かぶような。体の奥が微妙に熱くて、指先が軽いような。そんな感覚に陥りながらスマホの画面を切る。明日に備えて今日は早めに寝よう。その前に、これだけは読み終えるぞ。
そう意気込んでマンガを手にするとまたラインの通知音が鳴った。見てみると西宮からだ。さっきのでやり取りは終わったはずなのにまだ何かあるんだろうか。
「晩ご飯?」
内容は晩ご飯何食べた、とどうでもいいような内容だ。とりあえず、餃子って返しておく。今日は母さんが冷凍餃子を焼いてくれた。本来なら、明日は休日。俺が休日に人に会うことはほとんどないと母さんも知っていて、にんにくとか気にしないで作ってくれた。
しかし、明日は特別。西宮と旭日さんに会う。餃子は美味しかったけど、口臭ケアはめちゃくちゃした。牛乳を飲んだり、タブレットを食べたり。今もガムを噛んでいる最中だ。西宮に臭いって思われたくないから。
「西宮は冷ややっことピーマンの肉詰めか」
この前、お母さんとスーパーに行ったらピーマンが安売りされていたらしい。一緒に作ったりするんだろうか。
「今はアーモンドチョコを食べてるのか。俺もガムを噛んでるって送っとこ」
何味、って返事が来た。マスカットだ。
美味しい、って聞かれた。美味しいよ。もう味はないけどっと。ふっ。楽しいな。旭日さんとラインをするまで俺のライン相手は母さんと父さんだけで内容といえば連絡事項だけ。
けど、旭日さんとラインをするようになってから思い出した。ラインってどうでもいいような内容を友達とするためにも使えるんだってことを。
家にいるのに西宮と話せて嬉しい。こんなことならもっと早くラインを交換しておけばよかった。アプリの必要性を感じなくて交換そのものをすっかり忘れてたからな。馬鹿だわ、ほんと。
内容はどうでもいいと思う。けど、西宮とそんなやり取りを交わすことが楽しくて。
結局、西宮がそろそろ寝るね、と送ってくるまでやり取りを続けた。マンガは読み終わらなかった。でも、いいんだ。西宮と話してる方が楽しかったから。




