22
流石はクラスの中から足が速くて選ばれたメンバーだけのことはある。男子なんて砂ぼこりを起こしながら目の前を駆けていく。
さてと。うちのクラスは……お、今のところ四位か。十クラス中の四位はいい方なんじゃないか。頑張れ。
バトンが次々と次の走者に託されてやがて西宮の番になった。西宮と同じ番はほとんどが男子だ。女子は西宮も合わせて二人だけ。リレーは順番も大事な戦略だから仕方ないとはいえ、かなり、アウェイな戦いだ。
「あー、順位下がるかも」
「ま、西宮なら大丈夫だろ。男みたいなんだし。食らいついてくれるよ」
クラスの方からそんな声が聞こえてきた。クラスの男子がのんびり見学しながら雑談でもするように話している。
走る側にも選ばれてないくせに。女の子にはしんどい状況に決まってるはずなのに。笑ってるなよ。応援しろよ。
「西宮さんのこと、応援しようよ」
南條が言った。
「周りが男子だらけの中で女の子の西宮さんが頑張って走るんだから。見てる私達は応援して西宮さんに力を送ろう」
いいこと言うな、南條。
そうして、バトンが西宮に託される。四位で回ってきたとはいえ、相手はほとんど男子。西宮の足が速いといっても後続がどんどん迫ってくる。
頑張れ。頑張れ。頑張れ。
「頑張れ、西宮ーーーっ!」
クラスから送られる西宮への声援。その中の一つにしかならないけど、俺は腹の底から声を出した。ちょうど目の前を走った西宮と目が合った、気がする。西宮にはそんな余裕もないはずなのに。
「ああ、くそ」
結局、西宮は二人に抜かされて六位でバトンを次の走者へと託した。あれだけアウェイの中で抜かされたのは二人にだけ。凄いことだ。だからなのか。西宮が抜かされたことが自分のことのように悔しくてたまらない。
「……日向は君と友達になれて本当によかった」
「え?」
「さっき言った、日向が見てて痛々しいってことだけど、最近は変わってきたんだ。色んなオシャレグッズを見るようになってね。買ったりする訳じゃないけど、こんなのがあるんだって見ないフリをしなくなった」
「どんなことをしても西宮なら似合いそうです」
「そうやって、君は日向がいないとこでも日向を女の子として見てくれる。だから、日向も変わってきたんだと思う。理由は東野くんが女の子だって言ってくれたから、だしな」
初めて西宮と話した日。俺はしばらく女の子と会話してなくて、西宮を相手に緊張した。正直、情けないと自分でも思うし、思ってる。
けど、その緊張のおかげで西宮に女の子だと伝えられた。あの緊張がなかったら俺だって西宮を男扱いして、ぶつかられた時に肩パンの一つでもしてチャラで終わっていたかもしれないんだ。
西宮と友達になれた今だからこそ、緊張してよかったと受け入れられる。
「昨日なんかも、鏡の前でヘアアレンジの練習をしてたんだ。何でも君からシュシュを貰ったから、運動しやすい髪型にしたいって。結局、上手に出来なかったようだけど。でも、楽しそうだった」
なんていうか、俺と西宮のやり取りが他の人にまで知られてるのって物凄く恥ずかしい。顔が熱くなってきた。絶対、赤くなってるよ。西宮、変なこと言ってないよな。
「だから、俺は東野くんに感謝してるんだ。ありがとう」
「っうす」
照れ臭くて変な返事になってしまった。
「これからも、出来れば日向のことを女の子として接してやってほしい」
「言われなくても俺は西宮のことを女の子としてしか見れませんから……ていうか、二人三脚のためだったとはいえ、西宮とあんなに密着してすみませんでした」
「ん、友達なのに意識してるの?」
「いや、意識しますよ。女慣れしてないんです。友達だろうと西宮は女の子ですから」
「そっか。なら、安心した」
「安心なんですか? 大切な妹に友達とはいえ、男があんなに密着して嫌じゃないんですか?」
「東野くんなら問題ない。むしろ、俺はいつでもお兄さんと呼ばれてもいい」
「え、何の話ですか?」
「因みに、日向に脈はある!」
「そりゃ、そうでしょう」
西宮は生きてるんだから脈があって当然だ。さっきまで真面目な話をしてたはずなのに、急に変なこと話し始めるなんてよく分からない人だ。悪い人ではないけど。
ちょうどその時、クラス選抜対抗リレーが終わり退場の音楽が流れ始めた。
「おっと、そろそろ日向が戻ってくるな。俺は先に帰るとするよ。ああ、その前に。これ、俺の連絡先なんだ。よかったら受け取ってくれ」
一枚の紙きれを手渡される。そこには、ローマ字と数字を混ぜた連絡先が書かれていた。
「あさひ……?」
「そ。俺の名前。西宮旭日。よろしくね」
「あ、俺は深夜です。東野深夜」
「おー、対極の名前同士仲良くしよう」
「はい……あ、西宮が走ってくる」
向こうから西宮が走ってくるのが見えた。こっちに真っ直ぐ向かってくる。
「じゃ、俺はこれで。そうそう。さっきまでの話は日向には内緒にしておいてくれ。またグーパンされるかもだからね」
「分かりました。西宮も知らないところで自分の話をされてると知れば恥ずかしいはずだから、言いません」
「助かるー。それと、今度、家に遊びに来なよ。今度はラノベの話とかしよ」
「ぜひ!」
「じゃあねー」
そうして西宮のお兄さんは西宮が到着する直前に逃げ出した。やって来た西宮が膝に手を付いて肩で息をしている。全速力だったようだ。
「ひ、東野くん……お兄ちゃんと何話してたの?」
「何も。ラノベの話で盛り上がってただけ」
「ほ、本当?」
「うん。共通の話題で話せる人って初めてだからつい盛り上がったよ。走ってきたけど、西宮はどうしたんだ?」
「ひ、東野くんとお兄ちゃんが一緒にいるの見掛けて東野くんが変なことでもされたらどうしようって思って……けど、ラノベの話ししてただけならよかった」
胸に手を当てて安心した西宮。嘘をついていることに俺の胸が痛んだ。けど、西宮にとっては知らないことの方がいいはずだと決め付けて、隠し通す。
それに、西宮に教えなくたって俺は西宮のことをこれから先もずっと女の子としてしか見れないんだから。
「それにしても、よく気付いたな。俺とお兄さんが一緒にいるって」
「だって、東野くんが大きな声で応援してくれたでしょ。それで、見つけたの」
「走ってる最中にすげえ動体視力……え、俺の声、届いてたの?」
「うん。誰よりも大きい声で……すごく、力になった、よ。えへへ」
「そ、そっか。それなら、よかった」
最終的にクラス選抜対抗リレーの結果は三位。西宮の後は男子が巻き返してこの結果になった。三位に入れたのも西宮があの状況で二人にしか追い抜かれなかったからだろう。
その結果も含めて、クラスの総合順位は二位だった。各学年の一位クラスには学食無料券が一人一枚配られるため、ちょっと残念な気持ちだ。
「んー、二位かー。もうちょっとで一位だったのにね」
「惜しかったよな。でも、楽しかった」
体育祭がこんなに楽しいものだと思ったのは久し振りだ。運動が得意じゃない俺にとって、運動会や体育祭はどちらかといえば嫌いなイベント。やりたくないのにダンスをさせられる苦痛な行事。
それが、今年に限っては楽しかった。心からそう思えたのは西宮がいたおかげだろう。
「ふふ。だね。あー、今度は流石に疲れたー」
「西宮、大活躍だったから。お疲れ様」
「甘い物でも食べたいよー」
「じゃ、じゃあ。ドーナツでも食べに行く、か?」
思えば自分から西宮を出掛けるのに誘うのは初めてな気がする。いつも、西宮から声を掛けてくれたし、誘ってくれた。ヤバい。緊張してきた。心臓がドキドキしてる。断られたらどうしよう。
そんな不安が募る中、西宮を見れば目を丸くしていた。けど、それは、驚いてるみたいとかじゃなくて。
「うん、行くっ!」
大きく首を縦に降った西宮。表情は明るくて。笑顔が咲いていて。俺はそんな西宮を見ているだけで体の疲れが消えていく気がした。疲れるほど何かした訳でもないんだけど。
こうして、体育祭は幕を閉じた。
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